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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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核ミサイル



「〈ゆきかぜ〉からミサイルです! 目標は本艦!」

森に代わってレーダーに取り付いていた船務科員が叫んだ。スクリーンに無数の軌跡が表示され、〈ヤマト〉に向かってくるのがわかる。

「迎撃しろ! 一発も撃ちもらすな!」沖田が叫んだ。「あれはおそらく核ミサイルだ!」

その瞬間、全員が身を凍らせた。ギョッとした顔で沖田を見る。

太田が言った。「か、核?」

「そうだ」と沖田。「〈ゆきかぜ〉に積まれていたものであるなら間違いない。あれは核で冥王星を攻撃するための船だった。それをこの船に撃ってきたのだ!」

窓にも見えた。こちらに向かってくる無数の光の点が。それが全部核ミサイル――むろん、一発でも当たったら――いや、近くで起爆しただけでも、たとえこの〈ヤマト〉と言えど――。

「対空ミサイル! 宇宙魚雷! 迎撃始め!」

南部が血相変えて叫んだ。ただちに迎撃行動が始まる。〈ヤマト〉艦橋の後ろに置かれた煙突形のミサイル発射台が上部の口を開け、次々に対空ミサイルを射ち出した。さらに艦底に並んでいる対宇宙魚雷もまた火蓋を開ける。

宇宙に矢を放ち合うようなミサイル戦が始まった。〈ヤマト〉を狙う核ミサイルと、それを射抜き落そうとする対空ミサイル。互いに煙の尾を引いて、弧を描く光の軌跡が絡まり合う。

敵のミサイルは次々と撃破されていった。途中で墜とされる限り、それらが核の閃光を見せて爆発することはない。ただ宙を飛ぶための燃料を燃やして四散するだけだ。

暗い宇宙にひとつふたつと火の玉が上がる。対空ミサイル防御ではすべての核ミサイル弾を撃ち墜とすことはできなかった。次いで〈ヤマト〉艦橋下の対空ビーム砲台群が、残りのミサイルを迎え撃つ。パルスビームの光がシャワーのように宇宙に振り撒かれた。

島の操縦で〈ヤマト〉は艦を振り回す。そのさなかにも各砲台の照準器は、手ブレ補正の付いたカメラのレンズのように、向かい来る敵ミサイルを狙い続ける。艦橋のメインスクリーンの中で、ミサイルを表す指標が次々に消え、ついに最後の一個が消えてなくなった。

森の代理オペレーターが告げる。「全ミサイル、迎撃に成功」

艦橋に安堵の声が広がった。

だが、

「どういうことだ?」徳川が言った。「沈没船をガミラスが見つけ、罠を仕込んでいたというのはわかるが……」

太田が言った。「タイタンにぼくらが来るのを知ってたのか?」

「まさか」と新見が言った。「これはやることが場当たり的です。〈ヤマト〉がここに来ると予(あらかじ)め知ってれば、ガミラスは大艦隊を差し向けてきたはず。向こうの罠にこちらがたまたま飛び込んでしまったのだと考えるべきでは? 古代一尉が〈ゆきかぜ〉を見つけたものだから……」

「またあのがんもどきのせいってことか」南部が言った。「まったく、どこまで疫病神だか……」

「いや」と真田が言った。「それは逆だろう。古代が先に見つけなければ、もっと悪いタイミングで核を射たれたかもしれん。そのときは迎撃が間に合わず、〈ヤマト〉は一撃で沈んだかも……」

と、そのように古代の名前を真田が口にしているのを、島は訝しむ顔で見ていた。真田はさっき『古代』と言ったが、それは兄の古代守を意味したらしい。だが今度のは弟の進だ。この兄弟と何か因縁でもあるのかと疑っているようすだった。

だが確かに、真田が話したこと自体はもっともだった。島は言った。「いずれにしても、ガミラスがタイタンにいたということは……」

沖田が言った。「コスモナイトの採掘はバレた、と考えるべきだろうな」

相原が言った。「それじゃ、ガミラスの艦隊が……」

「そうだ。すぐ、この近くにやって来るぞ! 今にも何十隻という船がここにワープしようとしているに違いない。そうなったらこんな土星のすぐそばで〈ヤマト〉に勝ち目はない! たとえこちらの砲がどんなに強力でもだ!」

沖田が言った。そうなのだった。大艦巨砲主義も結局、船がいつでもワープで逃げることができて初めてその力を発揮できる。最も有効な戦術の基本はやはり一撃離脱なのである。土星とタイタンの重力でまったくワープができない状況に追い詰められたら、どんなに強力な砲を持ち厚い装甲で鎧っていても、シャチの群れに襲われたクジラが水の上に出て息をつくことができずに溺れ死ぬように〈ヤマト〉は嬲り殺される。それがわかっていたからこそ、コスモナイトを採りに来たと気づかせぬ作戦を立てたのだ。しかしそのタイタンにガミラスが先にいたとなると――。

「ひょっとして――」と新見が言った。「ガミラスも地球に隠れてタイタンで石を採っていたということはないでしょうか。コスモナイトはガミラスにとっても貴重な金属かもしれません。だから――」

「有り得るな」と徳川が言った。「と言うことは――」

「そんな!」と代理オペレーター。「それじゃ森船務長が!」

「そうだ」と真田が言った。「斉藤が……採掘チームが危ない!」