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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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あゆと当麻~嵐のdestiny~

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嵐のdestiny 凍てついた記憶





 
自分と当麻達は違う、と亜由美は思っていた。彼らは選ばれし戦士。そして自分はそこへ紛れ込んでしまったごく普通の人間、だとずっと思っていた。それがまったく見当違いだとは思いもしなかった。

夏に記憶を失って当麻とナスティの保護の元に東京に身を寄せる事になった亜由美はすんなりとなじんでいった。週一回、紹介された医者へ通う。けれども一向に記憶は戻らなかった。退行催眠すら効かなかった。あの時、一体何があったのかと亜由美は当麻に尋ねた。当麻は口を濁していたが、亜由美の必死の懇願に負けてついに重い口を開いた。
他人に決して言わないことという約束をさせられて当麻はその時の状況を話した。
郷里の河川公園で妖邪という鎧武者に襲われたこと。そして原因不明の発光現象があったことを知った。そして亜由美が記憶を失って当麻にだけなついたことを知らされた。
亜由美は妖邪と聞いて何故か記憶もないのに知っている気がした。目の前にいまにもまがまがしく光る瞳を見たような気がして何度も夜中に飛び起きた。その度にそれおののいて夜毎泣くことが多くなっていた。毎朝、目を真っ赤にして起きてくる亜由美を見て当麻は心配して何かと面倒を見たが、その間にも他の妖邪との戦いが挟まり、亜由美の精神状態が悪化していくのをただほうって置くしかなかった。

亜由美はつとめて明るく振る舞っていたが、自分の身に起きたことを考えるときだけは違っていた。忘れてはならないことを思い出さなければならない気がしてならなかったのだ。
必死に記憶をたどり寄せる。喉元までせりあがった言葉が出てこないように記憶もまた思い出せそうで思い出せなかった。もう少しで思い出せるのに、と時折亜由美は感情を爆発させることもあった。けれども一向に記憶は戻らなかった。あるいは戻って欲しくなかったのかも知れないと後の亜由美は思ったものだった。
つねに憂鬱そうな亜由美を心配してあれやこれやとかまっていた当麻はようやく笑顔が戻ったのそ見て安心してそれぞれの修行の場に向かった。彼らにかつての師迦雄須が夢枕に現れ修行を求めたのだ。遼は富士山へ。秀は大雪山へ。征士は秋芳洞へ。伸は鳴門の海へ。当麻は天橋立へ。それぞれ旅立っていた。
彼らは暇を持て余す時間などなかったのだ。
次々と戦いが舞い込み、彼らは疲れながらも戦うしかなかった。
亜由美はナスティ、純と共に待つことになった。指折り数えて彼らの帰還を待つ。
当麻が側にいないだけでひどくさみしい気がした。今まで当たり前だった光景が消え、純、ナスティとのさみしい食卓に亜由美の心は沈んでいた。早く帰ってきて欲しい。ただそれだけを願っていた。彼らが特別であろうと、当麻は自分にとってとても大切な人間だったから無事に帰ってきて欲しかった。あのぶっきらぼうな優しい当麻に早く会いたかった。
この間に亜由美は自分が当麻を好きであることを自覚した。そして婚約者だという身分に喜びを感じることすら在った。戻ってきたらどうやって気持ちを伝えよう? 憂鬱な日々の中にも亜由美の心は踊った。
ある時、二人が突然、帰ってきた。
だが、その表情は厳しい物だった。彼ら、当麻と遼の他のメンバーは妖邪に連れ去られたというのだ。彼らの手元に遺された彼らの武器、二条槍、光輪剣という証拠。
ナスティを交えて分析を彼らは始め、三人は取り戻す手段を語り明かしていた。
遼と当麻の言い争う声が聞こえてくることも度々だった。
亜由美はこれから起きることに身震いした。予感めいたものが起きていたのかも知れない。
これから起きる恐ろしい自分の身に降りかかってくることをすでに予見していたのかも知れない。当然の事ながら、当麻と遼は彼らを助けに妖邪界に突入しなくてはならない。亜由美は当麻が死んでしまうような気がしてとても怖くなった。
行かないで、と言いたかったが声にはならなかった。彼らには彼らだけの何かがあって自分はそこに入ってはいけないのだ、と思い知っていた。
ただ普通の人間として彼の親戚として無事を祈るしかなかった。

ある時、湖畔に当麻達が言っていた女妖邪が現れた。戦いに赴く当麻と遼。亜由美は柳生邸から遠目に見守るしかなかった。彼らにとって自分は足手まといなのだ。わかっていた。悲しい思いがするほどわかっていた。
彼らの負担になることだけはなりたくなかった。じっとただ柳生邸の窓から見守る。
だが、女妖邪は手強かった。星麗剣を操り、嵐星斬を容赦なく遼達にあびせかけた。遠目にもまばゆいばかりの発光現象と共に彼らの苦痛の声が聞こえる気がしてならなかった。
当麻が死んでしまう!
急に直感めいたものを感じた、亜由美はリビングのドアを開け放つと自分が素足なのも気づかずに走り出していた。必死に湖畔に駆け寄る。
当麻が危ない。死なないで!
このままでは遼も当麻も負けてしまう。
その突然ひらめいた空恐ろしい考えに亜由美は恐れおののいた。女妖邪の事などもう目に入っていなかった。
ただ助けたかった。それだけだった。
ちょうどその時何度目かの嵐星斬が彼らを見舞った。
倒れ伏す、当麻と遼。
湖畔に近づいて女妖邪を目にした亜由美はふっと不可思議な感覚に陥った。
華奢な体に長い黒髪を高く結わえ、日本人形のように美しい女妖邪。
あの女妖邪は見たことがある。あったことがある気がしてならなかった。
懐かしい風が亜由美の心に吹いた。
邪悪な物ではない、と悟った。
だが、現実に当麻達が倒れている。
どうして助けたらいいのかわからず、唐突に亜由美は立ちつくし、亜由美は唇をかみしめ拳を握りしめた。爪が拳に食い込む。
ただ立ちつくして彼らの死んでいく様を見ていくしかないのか。
連れ去られるのを見ていくしかないのか。
亜由美は悔しかった。
彼らのように特別な力があったら良かったのに!
だが、現実には自分はただのか弱い人間だった。
それを思い知らされ亜由美の心は悲しみと恐怖でいっぱいになった。
女妖邪が飛翔する。細身の剣をたくみにあやつり、最後の技が振り落とされようとしたとき亜由美は声ある限り、叫んだ。
「やめてー!!」
刹那、また亜由美の頭の中が真っ白になりスパークした。
次の瞬間、亜由美の前髪の隙間から文字が浮かび上がった。
髪が長く伸びて風に舞う。目の前に現れた額に文字が浮かび当たった。
「想」という文字。必死に立ち上がった遼達もただ見守るしかなかった。普通の女の子に何が起こったのか、理解できなかった。次の瞬間想の文字が激しく光った。彼女の体を十二単が包んだかと思うと急に鎧を身に纏っていた。螺鈿細工のような微妙な光を放つ白い鎧だった。軽い、素材で出来た鎧。女の身でも纏うことが可能な可愛らしいともいうべき鎧。
「サムライトルーパーはもう一人いるのですね」
女妖邪の涼やかな少女の声が湖畔に響いた。
彼女の視線が呆然としている亜由美にそそがれた。
今、彼女の頭の中には猛烈な勢いで過去の歴史が一族の歴史が流れ込んで混乱をきたしていた。