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氷花の指輪

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7.天へ昇る滝の先



心強い味方が増えたと思ったら、私の心労も増えた……。

あの後すぐに、マスターは虐殺のバラクルの異名を持つ
古代黒妖精の王バラクルの死霊との契約を無事に取り付けたが、
霊力の少ない状態で憑依されると、
制御が出来ず、逆にコントロールを奪われるらしいので、
しっかりと霊力の管理をしなくてはならなくなった。

――― おかえり。バラクル。

契約が完了した時、マスターがバラクルに言った
その言葉がとても印象深かった。
二人は初対面ではないようだ……。

バラクルは、降霊召喚させておくのに非常に大きな霊力が必要になるため、
戦うときには、最も効率よく力を発揮できる降霊憑依型を取っており、
そして、普段は霊魂の状態で漂っている。
それならば、降霊術式による呼び出しがかかるまで、
彼女の中で眠るか、どこか他のところにでも行っていればいいものの、
何故か我々のそばで漂うのが好きなようだ。

(酒ー!酒飲ませろー!)

「お酒は、マスターが飲めないので駄目ですよ。」

霊魂の状態のまま、飲食はできないので、
降霊憑依した状態でマスターが飲むか、
憑依はせずにマスターが飲んで、
その感覚を共有するというやり方があるらしい。共感覚術式という。

どちらにしろマスターが飲むことになるので却下だ。
結局、あれからお酒と中和について話を聞いてみたが、
中和自体は正しく行われていたようなので、
ただただ、彼女が相当お酒に弱い体質だったというだけだった。
本人は内臓が弱いとか言っていたが……。

「ふふ。私ももう一回頑張ってみたいな。
 ふわーってして、かーってなって、絶対毒だと思ったのに。
 お酒ってそういうものなんだってわかったから、
 もう少し耐えられると思うんだけど。」

(おう!頑張ってみるか!)

「そういう頑張りはいらないので…。」

まったく、悪い遊びを覚えないように、
ちゃんと監督しておかないと大変なことになりそうだ。
これじゃあ、保護者じゃないか。

霊魂状態のバラクルは、直接こちらの霊魂に声を届けてくるので、
その声は、聞きたくなくても聞こえてきてしまう。
うるさいことこの上ない。

(じゃあ、王子、お前も入れて3人で共感覚するか。
 お前は酒いけるだろう?)

「飲めますが、共感覚術式はちょっと嫌ですね……。」
 
(ははん。さては……共感覚したら姫さんへの下心がバレるから、
 困るんだな?)

「なっ!?」「えっ!?」

「あっ………。」

マスターと同時に変な声が出て、
顔を見合わせてから二人して視線をそらす。

(……なんだ、この雰囲気……。
 これが最近流行の『ラブコメの波動』というやつか……。)

流れというか、勢いというか…。
マスターとキスをしてしまった。
唇を軽く合わせただけとはいえ…。
あの時は全く気にならなかったのに、
少し時間をおいたら、一緒にいるのが気恥ずかしくて仕方ない。
マスターも同じなのか、あれからちょっと距離を置いているような感じを受ける。

(死霊の王子と囚われの姫でお似合いじゃないか!
 さっさとくっついちゃえよ。)

「で、デリカシーがない死霊は嫌われるぞ!バラクル!
 わわ私はともかく、ニコラスが困ってしまう……よ?」

そういいながら、上目づかいでこちらをちらりとうかがうマスター。
とてもドキリとした。なんて魅力的な……。
……確かに今、共感覚は……まずいかもしれない……。

---

私たちは今、ベヒーモス・逆天の滝エリアにいる。
レベル37からの適正エリアだ。
バラクルと契約した後、私たちは逃げるように下水道を後にし、
シュシアの提案通り、このエリアに向かった。
バラクル王の初回降霊時には、巨大な霊力の爆発が発生するため、
その波動で、我々の位置が追手に筒抜けになった可能性も高いからだ。

ベヒーモスは空を泳ぐ巨大生物。
その背中に街があるというのだから驚いた。
空に浮かぶその街に行くためには、空を飛ぶ乗り物マガタが必要だった。
そのマガタを管理しているのが、
黒妖精の青年だったことで、一悶着あったが、
シュシアの名を出すと、すんなり話が進み、空飛ぶ街に渡してくれた。

逆天の滝エリアでの戦闘修練は、
バラクル参入による、戦力の大幅強化もあり、かなり順調に進んでいる。

マスターの戦闘方法が変わり、
あまり敵に突っ込んで行かなくなったのもよい傾向だ。
短剣を構えて飛び込むのではなく、
ワンドでバラクルの力を制御しつつ、その力で攻撃術式を構築し、
マスターの身体を使ってその術を放つという戦闘方法が主体となったのだ。

また、このエリアに来てから、追手の襲撃が途絶えたとのことで
マスターは夜間、戦闘を強いられることもなくなり
体力と精神力、霊力を温存できるようになったと言っていた。


……あの下水道での一件の後、
やっとマスターは、自分が追われる身であることを話してくれた。
彼女と私の霊魂がとても珍しく、興味深い結びつきをしているので、
研究熱心な元老院の死霊術師たちが捕まえようとしているとのことだった。

たぶんそれは、嘘ではないが、真実ではないのだろうと思った。
真相の全てではないのだろうと思った。
その話を聞いていた時の、バラクルの微妙な反応が引っかかった。
マスターの空元気のような苦しそうな笑顔を見ていられなくて、
その時は、それ以上のことを聞くことができなかった。


作品名:氷花の指輪 作家名:sarasa