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二年目八月初旬〜中旬 ゴールドコーストで直前合宿



壮行会が終わったあとは国立スポーツ科学センターに行き、翌日、日本代表選手団は成田空港からオーストラリアへと旅だった。
パンパシフィック選手権が開催されるゴールドコーストに到着したのは翌朝だった。
ゴールドコーストはオーストラリアの東に位置し、Gold Coast、黄金海岸という名が示すように、南北に長く続く美しい海岸を持つ、オーストラリア最大級のリゾート地である。
今、日本は夏で、だから南半球にあるオーストラリアは冬だが、冬でもゴールドコーストの最高気温は二十度を超える。ただし、朝晩はそれなりに冷える。
日本選手団は会場入りせずに、近郊の合宿地で調整を行った。
合宿ではもちろん練習するのだが、毎日ではなく、丸一日オフを取ったりもした。
合宿四日目にオフを取り、遙は凛と一緒に出かけた。
凛が率先して動いてくれるので、遙は助かった。
そして、一週間後、日本代表選手団は大会公式ホテルへと移動した。




午前中は合宿地で練習をして、昼食後、バスで大会公式ホテルに向かう。
天気は快晴。
青空の下の移動だ。
やがて、大会公式ホテルに到着した。
エントランスで説明を聞いたりしたあと、各自、割り当てられた部屋へ行くことになった。
凛は遙と肩を並べて歩く。
ふと、何気なく眼をやった先に見覚えのある顔を見つけた。
向こうもこちらに気づいたらしく、おや、という表情になった。
近づいてくる。
"やあ"
そう英語で話しかけてきたのは、オーストラリアのナショナルチームのメンバーである。
ホスト国であるオーストラリアの選手もこのホテルに宿泊するのだ。
"君たちとは二年まえの今ごろ会ったよね"
"覚えていてもらえて光栄です"
凛は難なく英語で返した。
高校三年生だった夏、将来のことで悩んでいた遙をつれてオーストラリアに来た。
そして、二日目、シドニーオリンピック公園のアクアティックセンターに行った。世界の名だたる選手が競い合ったプールを遙に見せたかったからだ。
そのプールにオーストラリアのナショナルチームがいた。
いま眼のまえにいるのは、あのときスタート台に立った遙の隣のスタート台に立ち遙に話しかけてからプールへと飛び込んでいった選手だ。
"君たちの泳ぎを見て、いつかここまで来るだろうって思ってた"
ここまで、というのは世界大会までということだろう。
"こうして会えて、また君たちの泳ぎを見られることになって、嬉しいよ"
"こちらこそ嬉しいです"
自分は日本選手代表になったばかりで国際大会は間近に迫っているとはいえまだ経験していない新人だ。
しかし、眼のまえにいるのは二年以上まえからナショナルチームのメンバーだった選手だ。
けれども、その存在感に呑まれない。凛は堂々とした態度を崩さない。
"この大会"
オーストラリアの選手は陽気な笑顔を向けて、言う。
"楽しもう!"
"ええ"
相手の眼をしっかりと見て、凛はうなずいた。
差し出されてきた手を握った。
凛と握手したあと、オーストラリアの選手は遙にも手を差し出した。
遙は一瞬戸惑った様子を見せたが、手を差し出し、握手した。
そして、オーストラリアの選手は去って行った。
「……凛」
遙が呼びかけてきた。
オーストラリアの選手の去って行ったほうを見ていた凛は、遙に眼をやる。
遙は口を開く。
「今のはなんだったんだ?」
「……そうか。おまえは英語、苦手だったんだな」
身体から力が脱けた。
どうやら遙はさっきまでの凛とオーストラリアの選手の会話がさっぱり聞き取れなかったようだ。
「おまえな、それじゃこの先困るだろ。英語、勉強しろ」
すると、遙はプイッと横を向いた。英語の勉強をしたくないらしい。
そりゃ俺が付いてたら困ることねぇだろうけど、でも、ずっと一緒に行動するとは限らねぇし、と凛は思った。
どうにかしよう。
そう思って、それから、とりあえず、さっきまでのオーストラリアの選手のやりとりを遙に教えようとして、二年まえの夏のことを思い出した。
あのとき、遙は本当に悩んでいた。
地方大会の男子フリー100メートルで、遙は途中で泳ぐのをやめてプールの底に足を着いた。
そのことを凛が問いただすと、遙は拳をロッカーに叩きつけ怒鳴り返してきた。
あんなに激した遙を見るのは初めてだった。
怒りをぶつけられて、正直、凛はひどくショックを受けたが、あとで振り返ってみれば、自分の一生を決める大事な問題なのだから、遙がああなったのはしょうがなかったと思った。
だいたい、その一年まえの夏の、やはり地方大会で、凛は遙に対して似たようなことをした。それを遙が受け止めてくれたことで、凛は立ち直ることができたのだった。
そして、遙をオーストラリアにつれていった。
オーストラリアで、いつもクールな遙が不安そうな表情を見せた。無防備な素の感情を見せた。
それぐらい遙は悩み、苦しみ、弱っていたのだ。
そして、遙はオーストラリアで夢を見つけた。
以前は勝ち負けにはこだわらないと言っていたのが、勝ち負けにも速さにもこだわり、世界を目指す、という夢。
だが。
それは。
シドニーのホテルでひとつのベッドでふたり寝ることになったとき、凛は遙に言った。おまえにはずっと俺のまえを泳いで、俺の進む先にいつもいてもらわねぇと困るんだ、と。
その翌日、遙をシドニーオリンピック公園のアクアティックセンターにつれていった。
遙はナショナルチームのいるプールへと自分から歩いていった、そこからもクールに見えて本質的には負けず嫌いであるのはわかるし、だれよりも速く泳ぎたいという情熱が胸にあるのだろう。
しかし、それでも、遙がオーストラリアで見つけた夢は、自分が誘導したものだと凛は思う。
凛が遙にそうしてほしいと強く願っていたことを、遙は自分の夢としたのだ。
だから、凛は遙に感謝している。
そして、自分は遙に対して責任があると思っている。




晴天の下、遙の眼のまえにはプールがある。
大会会場となるプールだ。
見ているうちに、胸に熱いものが生まれたのを感じた。
だが、顔にそれを出さず、無表情のままでいる。
「楽しみだな」
隣で凛が言った。
遙は凛を見る。
凛の眼はプールに向けられている。挑戦的な表情。
ワクワクしているのが伝わってくる。
遙はふたたびプールを見た。
それから。
「ああ」
そう返事した。




ここまで来た。
ふたりで。




大会会場での公式練習に入った四日後、ついにパンパシフィック選手権が開幕した。
パンパシフィック選手権はオリンピックや世界水泳に次ぐ世界三大大会のひとつで、四年に一度、オリンピックの中間年に開催される。
オリンピックに向けての試金石ともなる大会だ。







作品名:For the future ! 作家名:hujio