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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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訓示



「〈ヤマト〉全乗組員に告げる。わしは艦長の沖田である」

沖田はマイクを手にして言った。第一艦橋の艦長席だ。艦橋クルーもみな手を止めて自分の方を向いている。

「明日、我々は冥王星での戦いに臨む。これは無謀な賭けかもしれん」

沖田は言った。ここまでは、一年前に〈きりしま〉でした訓示と同じだった。無謀な賭け――まさにそうだ。あれは特攻作戦だった。死ぬとわかっている戦いに、多くの若者を行かせてしまった。けれども皆が、笑って行くと言って逝った。冥王星、あそこで死ねれば本望ですと言い残して。

あのとき自分は若者達を送り出し自分だけは逃げて帰る役を担(にな)わされていた。〈きりしま〉はそういう船だった。なのに、知ってて、わしは乗らねばならなかった。古代守よ、と沖田は思った。わしはあのとき、お前と代わってやりたかった。最後に残ったお前だけでも、生き延びさせてやりたかった。どうしてあのとき、ついてきてくれなかったのだ。

この船にはお前の弟が乗っている。わしはあいつにお前と同じ役を与えて送り出さなければならぬ。あいつは何も言わなかった。わしがすまんと言ってもハイと応えるだけで、艦長室を出て行った。

古代守よ。わしはお前の弟に、いっそ詰問されたかった。どうして兄を連れて帰ってくれなかった、自分だけが生き延びて恥ずかしいと思わないのか、そうなじられてしまいたかった。思えばあのタイタンの後、あいつを部屋に呼んだのは、それを期待してかもしれない。あいつの方は命令違反の咎めを受けると思っていただけのようだが。

「まずは諸君に、すまないと言わねばならん」沖田は言った。「いま戦わねばならんのは、わしがそう仕組んだからだ。〈ヤマト〉は戦う船ではない。交戦は極力避けねばならん。ましてこちらから仕掛けるなどは、本来あってはならんことだ。諸君の中には、〈スタンレー〉は迂回してイスカンダルへ急ぐべきと考えていた者も多いだろう。〈ヤマト〉が沈めば、人類は終わる。その事実を考えたなら、危険を冒すわけにはいかん。まさにその通りなのだ」

操舵席の島を見た。この艦橋で誰よりも迂回を主張していた人員。特に彼の部下の多くは、同じ考えでいたはずだった。

しかし、わしは最初から〈スタンレー〉をやる気でいた。常にそれを念頭に入れて事を運んできたのだ。だから、すまん。そう思った。〈ヤマト〉が一日遅れるごとに地球では十万の子が白血病に侵される。だから旅を急がなければと思う者らの心情を踏みにじらねばならなかった。

「みな地球に家族や友がいるだろう。妻や夫や子を残してきた者さえいるだろう。さらには、家に犬や猫を……『お前の命を救うためにも行くんだからな』と頭を撫でてきたかもしれん。愛する者が地球の地下で放射能の混じった水を飲んでいる。一日も早くそれをなんとかせねばと思う気持ちはわしも同じである」

もっとも、わしには愛する者など地球にもういないがな――沖田は思った。ともあれこの船に、ただ日程だからという理由で先を急ごうなどと言うタワケはひとりたりともいまい。南雲のやつもいなくなってくれてよかった。あいつが生きて乗っていたら、どこかで始末せねばならなかっただろうが。

しかしそのときは、真田を代わりの副長にしようとしてもうまくいかなかったろう。なんとか出航直前にうまくおっぽり出せないものかと考えていたのだが、あればかりは手間がはぶけた。

真田には〈スタンレー〉にある罠を破ってもらわなければならん。何よりもそのために副官にしたのだ。科学者であると同時に科学を憎み、科学に復讐しようとするかのように生きる男――〈魔女〉に勝つには、どうしても、あの男が必要と踏んだ。

「だが、人類は今日滅んだ。それもわしが〈滅亡の日〉を早めたからだ。もう急いでも、諸君らの愛する者は救けられない」沖田は言った。「憎まれても仕方あるまい。しかしこれは、必要なことだったのだ。人には元々、一年などという時間は残されていなかった。冥王星を迂回して〈ヤマト〉が太陽系を出れば、結局その日が〈滅亡の日〉となっていた。今の地球を見ればそれがわかってくれると思う」

若者達が自分を見て頷いていた。島に南部に太田、森、相原、新見……真田だけでない。〈スタンレー〉の敵を打ち破るには、この者らの力が必要だ。そして徳川も――今は機関室にいて、老骨にムチ打ちながらエンジンの整備に取り組んでいるのだろうが。

艦橋クルーに限らない。この戦(いくさ)に勝つためには、乗組員全員が力を合わせなければいけない。今は誰もが、船の各所で自分の言葉に頷いていてくれるのを沖田は願うしかなかった。

この訓示で彼らの心を奮い立たせなければいけない。沖田は言った。

「地球の人々は絶望している。光を見失っている。ゆえに自(みずか)ら滅び去ろうとしてしまっている。これでは、〈ヤマト〉がどう急いでも救うことはできはしない。しかしだ、諸君。終わりではない。まだ終わってはいないのだ」

〈メ号作戦〉が失敗したとき、人々は言った。これで人類は終わりだと……〈きりしま〉の艦内でも誰もが首をうなだれていた。沖田はひとり、わしは決して絶望しない、たとえ最後のひとりになったとしても決して絶望はしないと胸に唱え続けた。人は絶望したとき敗ける。それが沖田の信念だった。

命ある限りわしは戦う。とは言え、やはりひとりでは勝てん。悪魔に復讐するためには、ひとりの力ではどうにもならん。

「人はまだ死んではいない。ただ絶望しているだけだ。希望を与えさえすれば死の淵から甦る。諸君、わしは、事のすべてがこうなることを知っていた。〈スタンレー〉で戦う道を選んだのは、これが人類を再生させる唯一の策であったからだ。いま諸君にお願いする。わしに力を貸してほしい。人々に希望の光を届けるには、諸君の助けが必要なのだ」

そうだ。結局は人の力だ。戦いで勝ちを決する最も重要なものは武器ではない。波動砲など、仮に使える武器だとしても、人類を救う役には立たないだろう――沖田はそう考えていた。ドカンと一発、冥王星を吹き飛ばして太陽系を出て行けば、なるほど危機は去るだろう。けれどもそれで地球の人々は希望を持つか。『我々は悪魔の力を持ってしまった』などというたわごとが幅を利かすだけではないのか。現に今の地下都市では、そのように叫ぶ者達の手で女子供が殺されているのだ。狂人どもは〈ヤマト〉が戻ってくるまでに、我が子を含めたすべての子供を殺そうとするに違いない。

恐怖に支配されたとき、人はそうした歴史を繰り返してきた。波動砲で人々に希望を与えることはできない。超兵器に頼る心を希望とは呼ばない。人を救うのは人の力だ。恐怖を制するものは勇気だ。

人間だけが人に勇気を与えられる。希望の光はそこからしか生まれないのだ。沖田は言った。