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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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ゴルディオンの結び目



そうか、と藤堂は地球の防衛軍本部地下司令部の自室でひとり考えていた。前にしているコンピュータのディスプレイには、冥王星から続々と逃げ出す敵のようすが映し出されている。情報部から、『ガミラスは〈ヤマト〉の波動砲を恐れて避難しているに違いない』との分析も上がってきている。それを見れば、いま沖田が何をしようとしているのか自(おの)ずとわかることだった。

そうか沖田、お前は行くのだなと藤堂は考えていた。〈ヤマト〉で敵と闘おうと言うのだな。波動砲を使わずに、命を懸けて〈赤道の壁〉に挑む気でいるのだな。

沖田よ、なら信じよう。お前なら、必ず〈ジャヤ〉を越えるものと――お前がその名で呼んだ敵を打ち倒してくれるものと。

一年前に『あれは〈魔女〉だ』と沖田は言った。ハート型の白い面(おもて)に自分は笑う魔女を見たと……しかしそこへ行くのだろう。最初から、そのつもりですべてを計画していたのだろう。ならば、わたしにできるのは、もうお前を信じるだけだ。

そう思った。しかしまだ、気がかりに思うことがあった。〈ヤマト〉発進直前に、〈アルファー・ワン〉の坂井が死んでいると言う。にもかかわらず、できるはずの代わりの手配を沖田は求めもしなかった。

それは奇妙だ。解(げ)せないと思った。沖田は〈ゼロ〉に乗る者の人選に強くこだわっていたのだから。坂井と決めたときにも決して満足してなさそうだった。

そうだ。あのとき、聞いてみたなと藤堂は記憶を思い起こしてみた。『坂井では不満なのか』と問うたのだった。すると沖田は応えて言った。

「いえ、そういうわけでは……これが最高のパイロットなのはわかります」

「妙な言い方だな。今更わたしと君の間でそんな口を利かんでよかろう。腹を割ってなんでも言え」

「ふむ……しかし、これは望んでどうなると言うものでは……」

煮え切らない態度だった。沖田には珍しいことだった。藤堂は言った。

「最高でないパイロットが欲しいのか?」

「あえて言えばそうです。だが、〈二番目〉や〈三番目〉がいいのでもない」

「ほう。では何番目がいいのだ」

「だから、そういう問題ではないのですよ。やはりこの坂井を選ぶべきなのでしょう。今から〈ゼロ〉に乗れる者を他に探しようもない」

「それはそうだが」

と藤堂は言った。〈コスモゼロ〉に乗るための機種転換訓練を終えたパイロット全員の中から坂井と決まったものに、今から別の人間を訓練しろと言うわけにいかぬ。〈ヤマト〉はすでに建造を終え、サーシャの到着を待つばかりとなっていた。

サーシャか。このとき、自分は別の心配をしていたなと藤堂は記憶を振り返り考えた。〈彼女〉は果たして本当に〈コア〉を持って戻って来てくれるのか……何よりそれに気を揉んで狂いそうですらあった。約束など反故(ほご)にして戻って来ないのではないか、と、その考えで一杯だった。

サーシャか。あれは聖母とも魔女ともつかぬ〈女〉だった。まるでおとぎ話の中の、池から現れ木樵(きこり)に問う女神のような女だった。斧を失くして絶望する木樵に対し、『アナタが池に落としたのはこの金の斧か、それともこの銀の斧か』と言う、例のあれ。『いいえワタシが落としたのは鉄の斧です』と応えなければいけないのに、我々は『そうです! その金の斧です! それから銀の斧もです!』と言ってしまったのではないか。だからあの女はもう人を救ってなどくれない。二年経って人がもう子供を産めなくなった頃になって戻ってきて、『愚か者め。お前らに何もくれてなどやるものか。そのまま滅んでしまえばよい』と言っておしまいなのではないか……。

そう思えてならなかった。そうだ。我らは鉄の斧をサーシャに求めるべきだった。たとえ錆びた古斧であろうとそれが生きるのに必要なのです。そう言わねばならなかった。なのに欲に目がくらんで間違った答をしてしまった。人が愚かであるがために……。

そう思えてならなかった。しかしまさか、コスモクリーナー。遠くマゼラン星雲にまで取りに行かねばならないなどと――そんな話と知っていたなら、別の選択もあっただろうに……。

いやどうだろう。やはり『金銀の斧だ』と叫ぶ者らを止められなかったかもしれない。そしてサーシャは、それを察していたようだった。だから我らを試したと言った。わたしは決して、あなたがたを救いに来たのではありません。地球人類が救うに値するかどうか試しに来たのです――そう言って、求めるものをすぐには提供できぬと続けた。与える〈コア〉はただ一個のみ。それを納める炉の完成を自分が見届けて半年後だ、と。

そんな話だと知るならば、さすがに誰もあんな愚かな選択をしなかっただろう。だが、元々、気づいていいはずのことだったのだ。データベースから〈イスカンダル〉の語を抜き出し、自分の星を指すコードネームにはこれを使おうなどとサーシャが言い出したときに。〈イスカンダル〉――その名を付けた人物がサーシャ自身であると知るのは、〈ヤマト計画〉の関係者でもトップのほんのひと握りだけだ。〈あの選択〉に関わる者だけ。我らが池に落としたのは金と銀の斧であるとサーシャに言ってしまった者だけ。

〈イスカンダル〉。古代インド語で〈西の世界からこの天竺へ遠くはるばるやって来た者〉アレキサンダーを指す言葉。あなたがたはその〈ヤマト〉という船で、〈宇宙の天竺〉を目指さなければなりません。あなたがたの計画にふさわしい呼び名でしょう。これが〈X星〉などでは、なんのことかわからないでしょうから……サーシャはそう言い、嘲るような笑みを浮かべた。〈天竺への旅〉を意味する符牒として使うにはむしろ不吉なその呼び名に、我らは異を唱えることができなかった。

そしてサーシャは、その星はマゼラン星雲にあると言った。ゆえに〈ヤマト〉は往復二十九万六千光年の旅をしなければなりません。

二十九万六千! 待ってください。なぜそんな――言った自分らにサーシャは応えた。何が問題なのですか? 〈ヤマト〉は一度に千光年、一日二回の割でワープができるようになるはずです。ですからロスが最小限で済むならば、この地球まで半年で行って戻ってくることができます。これは一度に一光年のワープができる船に乗って148光年彼方の星へ行くのと同じでしょう。実際にはまず少なく見積もっても九ヶ月は要するものと思われますが、それでも滅亡を免れるには充分のはず――。

そのとき我々は手をついてサーシャに謝るべきだったのだ。金の斧など要りません。落としたのは鉄の斧ですと泣いて慈悲を乞うべきだった。だがあくまでそうせずに、聞いているのはそんなことではないと言った。一体あなたはどうしてそんな遠くから地球の危機を知ったのです。〈イスカンダル〉がここから数十光年の距離ならば、あなたがここでの戦争を知っても特に不思議はない。だがマゼランにいて知るのは――それは、百億人が生きる地球のたったひとつの殺人を月のかぐや姫が知るのとまるで同じではないか。一体どうして地球を知ってそして救けると言うのですか。