二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

INDEX|123ページ/145ページ|

次のページ前のページ
 

ちがった宇宙



「古代」と島は言った。「おれとお前じゃ真逆だよな」

「なんだよ、あらたまって」

「いや……」

と言った。古代は畳に座り込んでかるたの札を並べている。右舷展望室の隅だ。島は古代と向かい合い、一戦交えようとしていた。

そうか、と思う。古代。こいつは、自分が生かされた存在なのを知らないんだな……『闘争心に欠ける』とかなんとかいった理由で落とされただけの人間。自分で自分をそう考えて、納得してさえいるのだろう。おれとは本当に真逆に生きてきたのだろうとあらためて思う。

この〈長い一日〉を――七年間のガミラスの〈昼〉と、地球人類が地下に押し込められた〈夜〉。おれはずっと太陽を取り戻すために戦ってきた。誰よりも家族のため。七年前にはまだ子供だった弟のために。

けれども古代。こいつはまったく戦おうとしなかった。自分でその気になりさえすれば、おそらくいつでも戦線に出されたはずだったのに。

こいつは、死なすには惜しいとして、生かされた身のはずだからだ。そうでなければまったくのカミカゼパイロット組に入れられ、敵に体当たりさせられていた。あの段階で補給部隊に配属のため落とされるなど、教官がよほどに古代を生かさねばならぬとしたとしか考えられない。

おれがこいつのすぐ後で同じように抜かれたように、と島は思った。しかしすぐまた取り立てられてなぜ生かしたか知らされた。けれども古代にその機会はなく本当に落ちこぼれていったのだろう。

なぜかは知るよしもないが、こうして向かい合ってみてまあおおよその察しはつく。結局のところこいつ自身が、戦おうとしなかったからだ。

敵と、というだけではない。自分が置かれた状況と――軍に所属しパイロットの役を与えられながらも、半ばニートの引きこもりのように〈がんもどき〉の操縦室の中にいて、外とあまり接触しない。一応はやるべきことをやっていて、それでけっこう事が足りているものだから、あえて変える気も起こさない。

そんな男になっていた。いや、もともと古代はそうだったのだろう。自分から他と闘い競うような人間じゃない。たとえガミラスに親を殺され、住むところを奪われても、銃を取って戦おうなどと考える人間じゃない。軍に入ったのはただ単に行くところがなかっただけだ。

だが、と思う。本当にただそれだけの者ならば、決してあんなところまで訓練コースを進まされない。この古代には何かがあるのだ。

これとはっきり言うことのできない、底知れぬような強いものが……かつて対したときに感じた得体の知れない力が今、再び目の前の男の身から現れ自分を圧してくるのを認めて、島は古代に畏怖を覚えた。やはりこいつは、とあらためて思う。この部屋でワープテストの前に加藤と対したときにも、これほどのものは感じなかった。似たものはやはり加藤も発していたし、圧倒もされはした。戦闘機でおれが勝てる相手でないとも思いはしたが、しかし古代。今のこいつから放たれるものは――。

まるで違う。こんなのは、他の誰からも受けたことがない。眠っていた巨大な獣が起き上がり、牙を剥いておれを睨めつけ飛び掛って来ようとしているようだと島は思った。決して吠えたり威嚇の唸りを立てたりしないが、自分を殺しに来る相手には喉笛を見据え食らいつくチャンスを狙う獰猛な野獣。古代。こいつは狼だ。向かい合っているだけでおれをこんなにたじろがせるやつを他に知らない。

そう思ってから、いや、そうでもないかと思った。沖田艦長……今の古代から立ち上り自分を呑み込みのしかかってくるかのように感じるものは、この〈ヤマト〉の艦長が敵と対して身に纏(まと)い艦橋の中に溢れさすものと同種のように思える。感じ方が違うだけだ。沖田であれば自分達の背中を支え押してくるかに思えるものが、今は前から押さえつけすくませられるように感じる。

その違いだ。古代。こいつは、今日の今日まで何をしていたのだろうと思った。島は手元の札を見た。すり切れたボロボロの厚紙に、手書きされた歌の下の句。まさか〈がんもどき〉の中で、ひたすらこれを床に並べて取ってたわけでもないだろうが……。

〈サーシャの船〉がガミラスに見つかり、しかし地球のポンコツ貨物機が敵を墜として〈コア〉を〈ヤマト〉に持ってきたと聞いたとき、島は話を信じなかった。けれどもそれが古代と知り、忘れていた名前を思い出したとき、身に戦慄が走るのを感じた。生きていたのか。それは同時に、いま自分が古代を前に受ける畏怖を思い出させた。なるほどあいつなら、〈がんもどき〉でガミラスを墜とすくらいやりかねない――そう思った。その古代が迷い込むようにして、この〈ヤマト〉にやって来るとは。

それとも、まるで何者かに導かれでもしたように――前に誰かが古代について似たようなことを言ったな、と思った。確か、同じこの場所で、畳に座り向き合いながら――そうだ、森だ。あれが〈ヤマト〉にやって来たのは運命のいたずらだと言うのか。言われて『そうだ』と返したのだった。他に考えようがないと。

あのときに、森は言ったな。つまりは神が古代進をここに遣わしたというわけだ、と。確かそんな意味のことを――森がカルトの家に育ち、逆に宗教を憎むような人間になったことは知っている。あのとき、ああ言いながら、森は決して神や運命なんてもの信じていはしなかったろう。おれも断じて神にすがってどうか〈ヤマト〉を勝たせてくださいなどと祈るつもりはないがと島は思った。しかし古代。こいつばかりは――。

サーシャが追われた場所に偶然居合わせて、〈コア〉を〈ヤマト〉に運んでこれる者がいるならこいつだけだ。こんなのは、仕組んで仕組めることじゃないと森に言った。あれから頭をひねってみたが、その考えは変わらない。サーシャがどう来てどう逃げるかなどわかるわけがないのだから、その場に古代の〈七四式〉を置ける者がいるとしたら神だけ……。

まさか、と思う。だが、とも思う。あのとき森と話したことが、ずっとひっかかってもいた。古代は運命のいたずらでこの〈ヤマト〉にやって来た。本来の航空隊長が死に、沖田によって代わりの隊長に任命された。森は古代が神に愛されてるのだと言ったが、しかし……。

むしろ呪われた男だ。そのようにしかおれには見えないと島は思った。だってそうだろう。この古代は、どう見たってがんもどきだ。隊長役など望んだわけでも、なって喜んでいるわけでもないのは誰が見てもわかることだ。任命されたらともかく『オレが隊長』と下に言うのが士官であるなら務めなのに、こいつときたらそれすらしない。無論、芯までヤキの入ったタイガー乗りにこいつなんかが大きな顔ができるわけない現実もあろうが、それにしてもまるっきり戦おうという姿勢を見せない。