モータープール
二.
二年ぶりに訪れたゴンドールの城壁からは、喪中の証である紋章を染め抜いた黒旗が何枚も風に翻っている。
従者と共に城門まで馬を乗り付けると、重く軋みながら門が開き、迎え出た喪服に身を包んだ兵士達が彼等に向かい恭しく頭を下げた。
部屋を借り、身支度を整えると、案内されたのは城の西側に建つ神殿だった。中では儀式が進んでいる。それを遮るように開いた扉に、人々の視線が集まった。
黒い綾の喪服の裾を引き、エルロンドと従者は歩を進める。喪服の上に重ねた衣は、髪に飾ったものに合わせたオニキスをあしらった花の銀細工で留めている。紫かがった瞳は祭壇の柩を見据え、今し方、遠方から馬を駆ってきたばかりとは思えぬ程の涼し気な様子に、参列者の誰もが息を飲んだ。
「エルロンド殿…来て下さいましたか」
祭壇へ近づいた彼に、列の最前にいたイシルドゥアの妻が安堵したように、黒いベールの向こうから言った。エルロンドの表情は変わらなかった。軽く会釈のみをすると、柩の脇に据えられた箱から白い花を摘み、躯のない、花で満たされた柩の中に捧げ、祈るように片手を胸に当てて瞼を閉じた。
「仲違いされてからはお会いすることがなかったと聞くが…」
「でも昔はあれ程仲の良かったお二人ですもの」
「悲しまないはずはなかろう」
エルロンドが柩の前に立っている間、人々の間からはそんなような言葉が漏れ聞こえてきた。やがてエルロンドは踵を返すと、まだ儀式の終わっていない神殿を一人、後にした。
途中、裏庭に面した回廊で、エルロンドは足を止めた。
この城がまだ大きいだけの館だった頃、幼かったイシルドゥアとアナリオンの二人の兄弟はここでよく棒術の訓練をしていた。右手に見える木陰の四阿では、エルロンドが二人に学問を教えたこともあった。モルドールの脅威はあっても、まだそれなりに平和だった、遥か遠い昔の話だ。