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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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トリアージュ・タグ



「なんでえ、こりゃあ……」

斎藤は言った。〈ヤマト〉医務室の前の通路は血にまみれていた。部屋から溢れた負傷者が床に転がり呻き声を上げている。斎藤もひとり肩に担いできたところだが、どうしていいかわからない。

近くにいた黄色コードをつかまえて聞いた。「おい、ケガ人だ! どうすればいい?」

「ああ、すみません。中はもう一杯なんです。そこに置いといてください」

「って……」

それじゃ、死んじゃうかもしれないじゃないか。そう思いながら通路に寝かすと、船務科員は斎藤が連れてきたケガ人をちょっとだけ診て、手に持っていた赤青黒の札のうち黒い札を胸に付けさせた。それが〈トリアージュ・タグ〉というもので、〈黒〉が何を意味するかは念を押して聞くまでもない。

「おい。もっとちゃんと診てからにしろよ」

「そうは言っても……」

「いや。こいつは救かるよ」

と言った。ダテに長年、宇宙冒険家をやってはいない。どのくらいのケガを負えば人は救かる見込みがなくなり、どの程度なら救けられるか知識もあれば経験もある。敵のビームを受けた場所から、ひどいケガを負いはしたが処置が早ければ救かると踏んだ者を励ましながら担いできたのだ。それをちょっと診ただけで、黒札つけられてたまるものか。

けれども相手は取り合わず、次の負傷者に眼を移してしまった。斎藤は通路に転がる者達を見た。大抵は赤か青のタグを付けられている。〈赤〉の負傷者を優先せねばならないのなら、おれが連れてきた者は確かに……。

いや、と思った。ここにおれがいるじゃないか。応急処置の仕方くらいおれが心得てるんだから、次を連れてくる前にちょいとこいつを救けていこう。佐渡先生と昨日飲んだとき薬の置き場も見ているし――そう考えて、よし、と思った。

「待ってろ。おれが診てやるからな」

言って医務室内に入る。中は血の海だった。負傷者がゴロゴロと転がされ、流れ出た血がバケツででも撒いたかのように床を覆ってしまっている。

その室内で、やはり全身、バケツで血を被ったようになりながら手術台に向かっている者がいた。斎藤は言った。「佐渡先生!」

「おう、なんじゃい」

顔を上げずに医師は言った。眼は台に寝かされている者の患部を見据えたまま。手は手術器具を持って動かしたまま。

「でっかい声出さんでも聞こえるわ。どうした。子でも産まれたか」

「いえ。薬もらっていきます!」

「勝手にすりゃいいじゃろう――いや待て。斉藤君、ええときに来たなあ」

「は? なんですか」

「ほらあの、昨日、君が教えてくれた酒だ。あれ一杯作ってってくれんかな」

「おう!」と言った。「さすが先生。こんなときまで! お安い御用です!」

言ってまず、救命用の薬と器具を船外服のポーチに突っ込み、それから広口ビンを取った。氷を入れてラムとジンを注ぎ込み、試験管に入れてあった残りの材料を垂らしてシェイク。

そうしながら考えてみた。一体これはどうなってるんだ? ケガ人の数が尋常じゃない。いや、もちろん、敵の攻撃を喰らったら死傷者が出るのは当然にしても――。

足元に溜まる血液を見下ろした。このおびただしい血はなんだ? どうしてこれほどの血が……。