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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 ポピーとティミーを間に挟んで手を繋ぎ、中庭へとやってきたアンジェリークとルヴァ。
 そこからは聖地と変わらぬ抜けるような青空に、もこもこと真っ白い入道雲が鮮やかなコントラストを描いている。眼下には深緑の森と、彼方に見える青空と同化したような青い海の煌めき────美しい国だ、と二人は思う。

 ティーセットと色とりどりのお菓子を前に、リュカたちが寛いでいた。
 子供たちがいかにも嬉しそうな顔でぱっと駆け出していき、真っ先にポピーの声が響く。
「お父さん、ルヴァ様と天使様が王様に会いたいって!」
 双子たちは席を離れたリュカと入れ替わるように椅子に半分ずつ腰掛けて座り、早速お菓子──マカロンのように見える──を手に取って、ぱくりと口に放り込む。なかなか手馴れたものだ。
 その姿を微笑ましく見つめてから、ルヴァはリュカへと視線を移す。
「リュカ殿、お部屋を貸していただいて助かりました。改めて紹介します、私の妻アンジェリークです」
 アンジェリークは突然妻と呼ばれ驚いてルヴァを見るが、いつもと同じ穏やかな表情をしていて考えが読めない。リュカのほうもその端正な顔に柔い微笑みを浮かべ、ルヴァとアンジェリークを見つめた。
「ああ、ルヴァ殿。奥方がお目覚めになりましたか。初めまして、リュカと呼んで下さい」
 アンジェリークは戸惑いを見せないよう気を遣いつつ、右足を後ろに引き膝を曲げて挨拶をした。
「初めまして、アンジェリークと申します。わたしたちを助けて下さったそうで、ありがとうございます」
「いえ、偶然通りかかっただけですからお気になさらずに。えっと……紹介します、妻のビアンカと、従姉妹のドリス、あとは娘のポピーと息子のティミーです」
 アンジェリークはそれぞれにも挨拶をして丁寧にお礼を述べていき、本題に入った。
「あの、お時間がありましたら国王陛下に拝謁をお願いしたいのですけれど……」
 そこで全員が一斉にリュカを指差して、ルヴァとアンジェリークがあんぐりと口を開けたのを見て爆笑していた。
「あの、国王はぼく……です」
 見えないと思うけど、とリュカが小さく手を挙げて困ったように笑った。
 その様子にビアンカとドリスが手を叩いて大笑いしている。笑いすぎて涙の浮かんだ目尻を指で拭いながら、ドリスが声をかけた。
「あーおっかしい……今はあたしのパパが国王代理よ。一応挨拶しとく?」

 二人は謁見の間で国王代理のオジロン──とても人の良さそうな優しい笑顔の方だった──に挨拶と感謝を伝え、滞在用にと宛がわれた先程の部屋へと戻ってきていた。
「……で。なんでわたしたち夫婦なんて話になってるんですか」
 むう、と声が聞こえそうなふくれっつらでアンジェリークがルヴァを問い詰めるが、当のルヴァはしれっと答えた。
「この世界における未婚女性の扱いが分からなかったものですから。念のため私の妻と言っておけば手荒な真似はされないでしょう」
 未婚の女性を攫って売り飛ばし、道具かなにかのように扱う男性優位の野蛮な文明も未だに存在するのだ。ましてアンジェリークのように若く美しいとあれば、尚更そういった危険も増す。
「国王様も皆さんも、とてもお優しそうな方たちだったわ。そんな酷いことするとは思えないけど……」
 ルヴァはふいとそっぽを向いたままのアンジェリークを抱き寄せて、説明を続ける。
「そうですね、私も彼らは信頼に値すると思っていますよ。ですがよそでもここと同じ待遇とは限りませんからね、噂がどう広がるか分かりませんし、念のため初めから夫婦ってことにしておきましょう。しかし、あの……私たちは比翼の鳥だと思っていましたけど、夫婦と言ったのがそんなにご不満でしたか」
 悲しげにしょんぼりと項垂れたルヴァに、アンジェリークは虚を衝かれたように慌てて言葉を繕った。
「不満じゃないけど、だっ、だって……お部屋が一緒なんですもの」
「夫婦なんですからそうなるでしょうねー」
 むしろそうなるように仕向けたことは、アンジェリークには内緒だ。
「ベッドひとつしかないじゃないですか!」
「広いから大丈夫ですよー。それにもう一緒に寝たことあるでしょう? 何をそんなに警戒してるんです」
 愛してやまないアンジェリークが手の届く距離にいれば求めてしまうのは仕方のないことだとしても、残念ながら一晩中啼かせるほどの体力などそもそも持ち合わせていない。
「だ、だって……寂しく、なっちゃうから」
 聖地に戻ればまた広い部屋に一人きりになる。そうしたら、確実に押し寄せるであろう寂しさにルヴァを以前よりも一層恋しく思ってしまうことが、怖いのだ。
 自信なさげに勢いを失っていく恋人の言葉に、ルヴァは少し困った顔で微笑んだ。
「折角今は一緒にいられるんですから、そんな心配よりも二人の時間を大切に過ごしませんか。時間は有限ですよ、アンジェ」
 いつか言った言葉を、今度はアンジェリークへ向けて伝えた。
 以前の自分もこうやって怖がっていたな、とルヴァは思った。けれどそうやってわざわざ幸せから遠ざかる必要なんてないのだ。それよりどんなに寂しくても耐えられるくらいに、二人の思い出で心の中をいっぱいに満たしたい。
「あなたが寂しいときは、何度だって逢いに行きますから。……ね?」
 今はまだ、そうして助けてあげられる。そして自分が聖地を去った後、今度は沢山の思い出が一縷の希望となってアンジェリークを遠い先までずっと支える筈だ。……もちろん自分も同様に、耐えていける筈だ。
 そんなことまでいちいち彼女に言うつもりはなかったので、小さく頷くアンジェリークをそうっと抱き締めて口付けた。
「さあ、まだやらなきゃいけないことは山積みですよー。まずは二人でお城の中を探検してみませんかー」

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち