二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

魔獣戦線―流山悠香のある日の行動

INDEX|4ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

後半


 
 それから数日後。
 悠香のもとに一通の手紙が届いた。内容はかいつまむとざっと次の通りだった。
 『例の呪具は予想通り、悠香でも使える事が解った』
 『勿論、そのまま使っても能力の空打ちを招くだけで何の意味がない。そこで手を加えることにした』
 『完成したそれを使えば悠香が今持つ遅効性の致命的な副作用の解消に繋がるだろう事は間違いないと確信している』
 『但しそれは副作用の消滅を意味せず、全く別の副作用に転じるということでも有る』
 『それでも今よりは大分寿命が延びると思う』
 『覚悟を決めたのならまたボクに連絡を付けてほしい。その頃にはきっと完成しているはずだ ジョージ』
 
 悠香は最初の頃こそこれを無視していた。ジョージは悠香の忌み嫌うような悪党ではない。
 しかし悪党でない事と善人である事は一致しない。
 何故一度会っただけの悠香に対してここまで世話を焼こうとするのか、その親切さと何を考えているのか全く分からないその人柄が、底の知れぬ薄気味悪さを増長させていたのだ。
 もっと何か、何らかの下心を表に出すのなら分かりやすくて良かったのだが、金も女も好きと陽気に口にしながらも空虚で薄っぺらく、正義や善行に対してはニヒルと言うか芯のところで冷笑的と言えなくもないものが出てくる始末だ。
 (恐らく、現世の何物にも執着がないヤツだ)
 では、その執着の無いはずの人物がここまで自分に固執してくるのは何故だろう。訳も分からずに冷気が背筋を這い伝ってくるような気分に襲われるのだ。
 
 
 そして、時は魔獣『姫斬騎』を倒した後まで移動する。
 悠香は自身の生命力の永続的な減衰が次の段階へ……つまり、慢性的に症状を呈し始めた事に嫌でも気付かざるを得なかった。
 悠香が恐れたのは死ではなく、自分が人間を辞めてしまう事と何も出来なくなっていく事……心を失って目の前の理不尽に心を動かさなくなったり、あるいは理不尽な暴力に対して指を咥えて見ているだけしかできなくなる事であった。
 (ならば……虎口に飛び込むしかないか)
 そう肚を決めてジョージに連絡を取り、その結果とある山奥に単独で赴く形になった。
 「赤い岩……これか」
 そこにはかつては赤いペンキがベッタリと塗りつけられていたらしい大きな岩がある。今は大分剥げているが……周囲に獣道くらいしか無い場所で見かけるのは、少し迷信的なものを掻き立てられそうになる。
 (もっとも、何か出てきても魔獣とかじゃなければ……)
 その巨岩を回りこむ。そして暫く巨岩の表面を探り、ようやく目当てのものを見つけた。
 それは前もって存在を知らなければ全く分からない程、巧妙に隠匿された小さな扉のようなものであり、悠香がそれを開けると中には布袋に包まれた細長い何かが収まっており、その手前に一枚の折りたたまれた紙切れが置いてあった。
 悠香は折りたたまれた紙切れを丁寧に広げる。紙切れにはこう記してあった。
 『覚悟があるなら布袋の中のモノを直接握ること。別の選択を選ぶなら、そのまま収めておくこと』
 紙切れを再び折りたたんで懐にしまいこんだ悠香は、布袋をずるりと外へ引き出した。そして布袋の中に手をいれ、掴んで引きずり出す。
 ……それは、一本の金属棒であった。教室の机に使われているような鉄パイプ……に見えなくもないが、奇妙な重量感があった。それに、よくよく見れば普通の金属ではない。
 マジマジと見つめる悠香の目の前で、それは羽根を広げるかのようにゆっくりと……だが、次第にその変容の速度を加速させながら開いていく。悠香は気付けば鉄の棒ではなく、白く輝く光で出来た剣のようなものを握りしめていた。
 (これが……ジョージの作った魔道具。私が人として戦い続けるための……道具)
 悠香はこれを掴んだあと何をすべきなのか、何が起こるのかは知らされていない。だが、身体を守るために本能で竜体へと変化していく。剣から青白い焔が燃え上がり、悠香の身体からは紅い焔が燃え上がる。
 悠香は剣を両手で握りしめる。そして剣からやってくる焔を押し返すべく、自身の意識を剣に集中する。
 体の部位が剣の青白い焔に舐められる度に一瞬感覚を消失してしまい、悠香自身の紅い焔が触れる度に感覚が復活する。これは戦いなのだ、と悠香は悟った。
 (負ければ剣に宿る意思の下僕になる。勝てば……ジョージの提案を信じるに足ると断じた己を信じるのみ)
 
 どれほどの時間が経ったのだろうか。焔の勢力図は激しく行き来したものの、最終的に勝利を得たのは悠香であった。
 剣の切っ先に僅かに残った焔は執念深く抵抗を続けたが、やがて小さく弾ける音の後に青白い焔は消え去った。
 同時に、悠香がいつの間にか感じていた剣の抵抗も溶け去り、悠香は試しにその剣を何度か振るってみた。
 「……重くて軽い」
 光で出来た剣故に質量は無いのかと思えば全くそんな事はなく、風を切る音は重たい。悠香はそれを裏打ちする手応えを感じた。
 だがそれと同時に羽根のような軽さをも感じていた。何度振るってもこれならば疲弊する事はあるまい。
 悠香はその矛盾する感覚に一つの実感を覚えた。
 (……私のモノになったのだな)
 剣を一旦元に戻す。やり方は教わっていないが、元に戻るよう念じるだけで剣はただの鉄の棒へ戻った。そして、悠香は一旦竜体から人の身体へ戻る。その時、幾つかの違和感を覚えた。
 「咳が……」
 悠香は喉を抑える。咳が出ない。先程剣との攻防で魂の焔を使っていたはずなのに。気怠さもない。生命力減退の副作用が消失したのか、別のものに転じたのか……。
 だが、他の違和感を確かめる前に悠香は殺気を感じる。それとほぼ同時に鉄の棒が手元から消失する。
 悠香は殺気の飛んできた方向へ振り向く。ジッ、と何かが灼ける音がする。振り向き終わった悠香はそこに剣が再び出現しているのを見た。そして、剣の遥か向こう側にはボウガンを構えた男が煙の中へ姿を隠すところであった。
 よく見るとその黒い煙は悠香から離れた場所で、しかし悠香を取り囲むようにぐるりと滞留している。しかも、その煙の中に隠れているのは一人ではないらしく、いくつもの殺気が目を覚ましたかのように四方八方から悠香へ突き刺さる。
 「誰かが引きこんだな……『誰か』が」
 そう言いつつも悠香は知らず知らずのうちに笑みを作り、剣を手に取る。
 (ああ、とても愉しい……いい気分だ)
 剣に影響されているだろう事は判っていたが、ボウガン男に見覚えがあった事を思い出した。以前悠香が叩き潰したチンピラグループの一人だ。完全な悪党ではないと見込んで、殺さずに散々いたぶってから解放してやったのだが……。
 (見込み違いだったようだが……なら、今度は殺す。それだけだ)
 悠香は笑みを口の端に貼り付けたまま、周囲を睥睨する。いつの間にか黒い煙が濃度をまして悠香を取り囲んでいる。殺気はその中に複数。だが……脅威は感じなかった。
 
 それからの戦いは悠香の実力からすれば長かった、と言えよう。
 けれども悠香に苦難の色は全く見られなかった。苦しむことすらまるで愉しんでいるように。
 
 「あ、あの化物何なんだよぉ……」