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MEMORY 死神代行篇

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04,代行業





 織姫の兄・昊が虚化したのは不自然な事だった筈だ。
 確か、目的は一護だった。
 ルキアと出会った切っ掛けの虚の狙いも、一護の自宅に現れた虚も、一護の霊圧の匂いに惹かれていた筈だ。一護を目標にして虚を送り込んでいたのはグランド・フィッシャーだった。グランド・フィッシャーが五十年も死神から逃げ果せていた事は、あまりにも不自然で、背後に藍染の臭いを感じる。
 後手に回るのは被害が大きくなるが、先手を打つと藍染に警戒されてしまうので、現在は後手に甘んじるべきだと自分を抑える。
 一護は、尸魂界に乗り込んでルキアを助ける事は、必ず起きる事態だと踏んでいる。ルキアが、残った霊力の半分とはいえ一時的に一護に力を与えて死神化させようとしていたのは事実だ。実際は一護に掛けられていた封印を解いて一護自身の死神の力を解放したのだが、瀞霊廷から見ればその事実は見えないだろう。
 藍染が四十六室を皆殺しにして自分の思うように護廷隊を操る手段ではなく、ルキアの行為が正式な四十六室の意思の下で死神能力譲渡と判断されての事態にならない事を祈るのみだ。
 浦原の親戚と告げる事で、一心にはルキアが死神である事が推測出来た筈だったが、時間を見て改めて話をした。記憶の中の一護少年は心配させない為に父親にルキアの存在も死神化した事も隠していたが、一心は元は死神なのだから、事情を知っても困惑も驚愕もしないし。一護は記憶がある事を話したし、隠す心算はない。なので、お風呂の使い方を教えた翌日、ルキアを一人で風呂に放り込んだ隙に、一心をピアノ室に誘い話す時間を作った。

「ピアノ室って事は………。」
「ご明察。でいいと思うよ。ルキアの事。」
「朽木ルキアちゃんな。」

 観念したように溜息を吐く一心に、一護は真っ直ぐ視線を向ける。

「死神に、なっちまったんだな。」
「………そだね。」
「娘だからなぁ。関わらせたくなかったんだがなぁ。」

 苦虫を噛み潰す一心の表情に、一護は口元だけを歪めて苦笑のような表情を浮かべる。

「お母さんを助ける為に、お父さんは死神の力で虚を封じた。浦原さんから、藍染のしていた事は聞いていたんじゃないの?」

 小首を傾げてみせる一護に、一心の表情は苦く歪んだ儘だ。

「私は真血で生まれた。それも死神と滅却師の間に生まれた真血だもの。あの男が興味をそそられない筈がない。」

 覚悟くらい付いていたんじゃないの?

「おめぇは、本当にいいのか? この先、奴と関わるという事は、普通の暮らしが出来なくなる可能性が高いんだぞ?」
「………お母さんが殺された日に、記憶が現れてから覚悟を決めるまで、そんなに時間懸からなかったけどな。」

 親心を理解していない一護に、一心は溜息を吐く。
 娘の平穏を願わない親などいない。
 一護は座っていた椅子から床に降りて座禅を組んだ。

「?」

 一心の見守る中で、一護の霊圧が上がる。
 一護の体から立ち上った霊圧が、徐々に輪郭を持ち人の姿を象っていく。

「な、ん……っ?」

 言葉に詰まる一心の前で目を開けた一護は、隣に立った若い男の姿に、小さく溜息を吐いた。男の容貌は一護と瓜二つで、一護に双子の兄弟がいたらこんな感じだろうと思われる。但し、纏う色は人間のそれではない。

「天鎖。」
「いよぉ。一護。生身の時に具現化させられるとは思わなかったぜ。」
「忘れた? 私は完現術が使えるんだよ。」

 淡々とした一護の態度に、何処の誰とも知れない男が、一護の認識するところにあると気付き、一心はパニックを起こし掛けていた意識を正常に持ち直す。

「其処にいるのは、十番隊の隊長さんかぁ?」
「……俺ぁ、一護の父親だ。」

 一護が具現化させた存在なら斬魄刀の筈だが、と不審に思いながら、一心は認識を改めろ、と自分の立ち位置を主張する。

「天鎖。」
「理解ってんよ。」

 二人の間だけで成り立っている会話に、一心は眉を顰める。

「一護。俺を仲間外れにするな。」

 真面目な顔でお茶らけた事を口にする一心に、天鎖は面白そうな表情をする。わざとらしい程表情豊かな『天鎖』に、一心は一護が失ってしまった感情表現に、改めて胸の痛みを覚える。

「お父さん。『天鎖』は私の斬魄刀だよ。」

 斬魄刀は死神能力とイコールだ。
 一護少年は、ルキアから力を貰って死神になったのだと、一護は話してくれた筈だ。ならば死神になったばかりの筈の一護が、自分の斬魄刀を対話どころか具現化まで出来るのは少し奇妙ではないのだろうか。微かに眉を顰めて真面目な顔をした一心に、考えを読み取った一護は内心でくすりと笑う。流石は元護廷隊隊長。かなりの高確率で正解だと思える答えに辿り着いたようだ。一護には未だ、正解を教える気はないので、黙っておいた。
 
「一護、もう具現化出来るのか?」
「これは、純粋な意味での具現化とは違うんだよ。私は死神になる前から、完現術が使えるようになってた。完現術っていうのは、虚の霊圧の影響で使えるようになる能力で、付喪神みたいな力。」
「虚の霊圧……。って事は……。」

 顔色を青くする一心に、一護は肩を竦める。

「『天鎖』は、お母さんに取り憑いた虚が私の中で死神の力と融合した状態なんだよ。」
「それは……。」
「今、尸魂界、というか中央四十六室にばれると、非常に拙いだろうねぇ。」
「それなのに、ルキアちゃんに協力してやるのか?」
「お父さんだって、私の立場になれば間違いなく同じ事するでしょ。」

 違うとは言わせない、と真っ直ぐ見つめてくる一護の瞳を、一心は暫く黙って受け止めていたが、やがて深々と溜息を吐いた。

「細かい事は色々だけど、ルキアが尸魂界に戻る時は、記換神器、だっけ? あれ使うだろうから、遊子と夏梨は問題なし。」
「……ん?」

 何かに思い至ったように、一心が視線を泳がせる。

「なに?」
「もしかして、既に一度、記換神器使われてるのか?」
「ああ。うん。お父さん、今は霊圧皆無だから、記換神器使われたらイチコロだよね。」

 凹んだ一心に、一護は小首を傾げる。
 一心は誤魔化すように話題を変えた。

「どうやって死神化するんだ?」
「ルキアが悟魂手甲使う。浦原さんと相談したっつってたから、義魂丸が手に入るまでの繋ぎなんじゃね?」
「義魂丸、なぁ。」
「……使うようになったらフォロー宜しく。」

 一護の瞳に、揶揄うような色が浮かぶ。
 記憶の中の一心と、目の前の父は性格は同じだ。能力的な差もないだろうから、改造魂魄を義魂丸として使うようになっても、一人の人格として認めて同じように気を使ってくれるだろう。普段はうざいところがあると思っていても、そういうところは信頼を置いている。



作品名:MEMORY 死神代行篇 作家名:亜梨沙