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MEMORY 尸魂界篇

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10,陽動





「幸運を祈っててやるよ。」

 空鶴に送り出されて花鶴射法で打ち上げられた一同は、岩鷲の頼りない詠唱の声を聴きながら遮魂膜を越えると、霊殊核で作り出した結界が爆散寸前になる。一護は夜一を茶渡の肩に載せ、織姫を雨竜に押しやり、自分は岩鷲の腕を掴む。
 次の瞬間、空中で爆散して、それぞれの方向へ散ってしまった。
 一護は、岩鷲の腕を掴んで空中に霊子の足場を造り其処に降り立つと、足元に坊主頭とおかっっぱ頭の二人連れが立って見上げてきた。
 記憶通り、坊主頭がバレリーナ張りの『ツキツキの舞い』とやらを踊り出し、一護は思い出して岩鷲を連れて地上に降りる。

「逃げると一人が追ってくる。どうする?」
「あ~。」
「好きにしな。向こうが上なら追い付かれる。下なら倒して進めば良いだけの話だからな。」
「俺は逃げる!」

 ダッシュを掛けた岩鷲に、案の定、おかっぱ頭が追い掛けていく。
 見送っている一護に、坊主頭が声を掛けてくる。

「どうして逃げなかった?」
「あんたが上なら逃げるだけ無駄。下なら倒して進めば良いだけの話。」
「……成程、莫迦じゃねぇらしいな。」
「どうだろうねぇ。」

 一護の科白が終わるよりも一撃が地面に食い込む方が先だった。軽く躱された事に驚愕しながらも、一護の体捌きの良さに目を向ける。
 一護から斬り付けた剣は鞘に拠って避けられた。更に斬り掛かる剣を鞘を蹴り付けて跳び上がって避ける。数度切り結び、斬撃を放つ。

「やるじゃねぇか。」

 目の上に傷を負った坊主頭が呟く。

「そうか?」

 対する一護は掠り傷一つ負っていない。

「一応、名前を訊いとこうか。」
「…黒崎一護……。」
「へぇ。良い名前じゃねぇか。」
「そうか? 名前を誉められたのは初めてだなぁ。」
「そう。名前に一が付く奴ぁ、才能溢れる男前って相場が決まってんだ。」
「男前、ねぇ。」
「十一番隊第三席副官補佐。班目一角だ! 一の字同士、仲良くやろうぜ!」
「やだね。」

 剣技だけの応酬では、一護は一角に後れを取る事はない。
 伊達に三年も浦原に鍛えて貰ってはいない。
 一護は寧ろ、瀞霊廷内の霊子密度に体を馴らす為に、丁度良い準備運動の相手だと判断した。
 斬り付けても斬り付けても、一護は一向に傷を負う気配もない。

「てめぇ、どうやって……?」
「何を驚いてんだ? こちとら傷薬なんざ持ってねぇ。始めっから傷しねえようにするしかねぇだろ。」
「チッ!」

 二撃三撃と撃ち交わし、一角は一護の反応の良さ、打ち込みの激烈さ、体捌きは自分に匹敵すると思った。

「テメェ、只の戦い好きの素人じゃねぇな。師は誰だ、一護。」

 浦原の名を聞いて、一角の戦闘意欲が何倍にも増した“記憶”。
 だが一護は、疾うに覚悟は就いていた。
 迷いがあれば取らずとも済む命まで取る事になる。覚悟を決めて、護る為に戦うと決めてこの年月を過越してきたのだ。

「誰だ。」
「………浦原喜助。」
「! そうか。あの人が師か……それじゃあ…手ぇ抜いて殺すのは失礼ってもんだ。」

 一角の霊圧が上がる。
 一角は三席だったが、確かこの男は更木剣八の下にいたいが為に三席に甘んじているだけで、卍解を習得している筈だ。唯、戦いを楽しむ為に始解までしか発揮しないでいるだけだった。

「延びろ!! 鬼灯丸!!!」

 穂先の長めの槍が現れる。
 鬼灯丸は槍ではなく三節棍の筈だ。
 驚くでもなく冷静な一護の様子に、一角が眉を顰める。

「……見誤んなよ!」

 叫ぶように言って駆け寄る一角に、一護は間合いを測りながら見極めていく。
 槍の距離感で戦いながら、いつでも向きを変えられるように重心を保った動きを続ける。
 一角が身を乗り出して前屈みになりながら鬼灯丸を突き出すのに合わせて、一護は前に出る。一角が我が意を得たりとばかりににやりと嗤う。

「裂けろ、鬼灯丸!!!」

 一角の叫びと共に槍の形状を保っていた鬼灯丸が三節棍になると、一護は身を低くして刃を避ける。

「何っ⁉」

 手応えがある筈の鬼灯丸の攻撃をあっさり躱した一護に、一角が驚愕する。

「何を驚いてる? 見誤るなと言ったのはあんたの方だろ。」
「こいつが三節棍だと、よく判ったなっ!」

 言い様鋭い突きが来る。
 一護はあっさりと鬼灯丸の房を掴んで抜き取り、三節棍を放す。

「あんたの脚運びは、槍を使う奴のものじゃないからな。」
「おまえ……。」
「言ったろう、師は浦原喜助、だと。」

 一護は浅打ちを前に突き出し、ゆっくり上に向ける。

「何の真似だ?」
「第三席を浅打ちで相手するのは失礼なんじゃね?」
「あ?」
「駆けろ、天鎖!」

 霊圧が爆発する勢いで上昇し、斬魄刀が二分して変形する。

「なっ……! 二刀一対だと⁉」
「一角は鞘を上手く使ってたからな。二刀の相手出来んだろ。但し、私がさっきやったみたいに蹴り付けてってのは無理だぞ。」
「言うじゃねぇか。」

 一護の二刀と、一角の三節棍が正面からぶつかる。一護は霊圧を身を護る為に鎧いながら、長さの違う刀を使い分けて一角と渡り合う。

「なかなか遣るじゃねぇか。」
「こちとら俄か死神には違いないんだ。場数は踏むに越した事はないんでね。」
「はっ! 俺を踏み台にしようってか? イイ度胸だぜ!」

 軽口で応酬しながらも、一護も一角も隙なく撃ち合っている。
 撃ち合いながらも、一角は一護が撃ち合う間にも徐々に腕を上げている事に気付く。反応は更に上昇し、打ち込みの激烈さは増し、体捌きは一角を凌ぐ域まで達した。
 地下勉強部屋で、浦原が岩を足場にして角度を変えたり方向を変えたりしていた動きを思い出しながら、小路の壁や屋根を足場にしていく。
 一角相手ならこの動きを上達すれば事は済む。
 だが、この先に待ち構えているのは、恋次と、更木剣八。
 恋次は、力押しで自分の癇癪をぶつけてくるだけに過ぎない。
 だが、更木剣八は戦う事そのものを好むのだ。

(天鎖、今はここまでだ。これ以上時間掛けて消耗が優るのは困る。)
『ま、頑張んな。』
(おう。)

 一護は一角から距離を置くと、天鎖を揃えて前に向ける。

「走れ、斬月!」

 一角の目の前で、二刀が一刀に変化する。
 目を瞠る一角の前で、一護は無意識に一角の霊圧を読み、それを上回る霊圧を斬月に食わせる。

「月牙天衝。」

 小さく呟き、一護は剣戟を放つ。剣戟に載せて放った霊圧が、一角を袈裟懸けに切り裂く。
 一角は何が起こったかも理解らない内に、斬られて倒れた。
 意識が戻って初めに「何故?」と疑問を抱いた。

「気が付いたか、一角?」
「……一護……?」

 一角は一護の手にある自分の斬魄刀に気付いて驚いて跳ね起きる。

「俺の斬魄刀っ!」
「盗りゃしないって。薬を借りただけだ。」
「あ? おめぇは怪我なんかしてねぇじゃねぇか。」
「あんただろうが。」
「! 俺に生き恥を晒させようってのか⁉」
「殺さなくても済む相手を殺す気なんざないっての。」
「何っ⁉」

 一角の斬魄刀の柄に入れてある塗り薬の残りを見て、一護は溜息を吐く。

「残りくれね?」
「あ? 何の為に要るんだよ。」
作品名:MEMORY 尸魂界篇 作家名:亜梨沙