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女体化ジルヴェスターの災難~ドレッファングーアの暇潰し~

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兄弟喧嘩 1



 「…それはそうと、フェルディナンド。其方、髪留めはどうした?」
 突然の内容に、ローゼマインは首を傾げ、フェルディナンドは軽く目を見張る。今組のエックハルトとユストクスが一瞬、鋭い視線に怒りを走らせた。
「やはりか…。」
 その変化を見逃さなかったのだろう、ジルヴェスターが溜め息を吐く。
「何故、早く言わぬ…。」
 独白めいた呟き。ジルヴェスターは自身の髪に手を伸ばして、髪留めを外す。
「ヴァッシェン。」
 バラけた髪はそのままに、髪留めを洗浄すると、フェルディナンドに渡す為、髪留めが乗った手の平を向けて、伸ばす。
「受け取れ。」
 フェルディナンドの顔が歪む。
「要らぬ。」
「受け取れ。」
「要らぬ。」
「受け取れ!」
「要らぬ!」
「受け取れと言ってるだろうっ!!」
「要らぬと言ったら要らぬっ!!!」
「其方に渡せる物はこれしか無いのだっ!!!!!!」
 フェルディナンドが髪留めを嬉しそうに着けていた事を知っていた。なのに、髪を切り、着けなくなった理由に気付けなかった。
 あの頃のジルヴェスターに気付く余裕がなく、余裕が出来た頃には短い髪を見慣れ、髪留めが無い姿が当たり前になっていたからだった。
 過去のフェルディナンドの、長い三つ編み髪に飾られた、揃いの銀色にハッとさせられたのだ。
 ヴェローニカに奪われたのならば、壊されているだろう。他の遺品は既に下げ渡されているし、何とかフェルディナンドに残された館は他領に行った為、ジルヴェスターの物になっている。
 ジルヴェスターが渡せる形見は、髪留めしか無かったのだ。だが。
「其方は私にヴェローニカと同じ事をしろと言うのかっ!!!」
 フェルディナンドは知っている。ジルヴェスターがその髪留めをどれだけ大事にしているのか。
 大きな局面の前後でこれで良いのか、良かったのかと自身に問いながら、身内を切り捨てなければならない事を、髪留めを通じて亡き父親に詫びている事を知っている。…受け取れる筈が無かった。
「っ、私がやると言ってるのだから、同じでは無いっ!!!!!!」
 一瞬、詰まるもジルヴェスターが強気に言い返す。フェルディナンドは何も言わず、顔を背け、手を伸ばそうとはしない。…硬直状態が続く。