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神殿長ジルヴェスター(10)

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マイン視点



 領主様が帰られた後、私は愛妾について神殿長に尋ねてみた。
「領主様の愛妾に、と言うのは実際に有り得るお話なのでしょうか? 正直、牽制目的の愛妾関係が整うのは後が怖いのですが…。」
「有りか無しかで言えば有りだが、どう言う意味だ?」
 ん? 気付いてない…、なんて事無いよね? 
「どう言うって…、領主様って神殿長に依存してるじゃないですか、感情的に。
 神殿長から引き離したいけど、私を傷付けて神殿長に嫌われたくないって言う気持ちが言動の端々から感じられましたよ、普通に。
 多分、意図的に気付かされたんでしょうけど、“愛妾になれ”と言う言葉の裏は“僕のお兄ちゃんを取るな”、でしょう?」
 あれ、処理落ちしてる? 声を掛けようとしたら、その前に復活した。
「マイン、その話は神殿長室でしよう。フラン、其方も聞いておけ。」
「畏まりました。」
 神殿長室の、盗聴防止の結界の中で、話が始まった。
「フェルディナンドは其方の事業に興味を持っているのは事実。エーレンフェストに必要になると見ている。程なく領主お墨付きになるであろう。」
 え!? それ、凄い事じゃない? 
「加えて其方自身の魔力量。ハッキリ言った事は無かったが、現時点で私より上、エーレンフェスト内第2位だ。」
「ええええっ!!?」
 うっそおおおおおおおんっ!!? 
「第1位は領主であるフェルディナンドだ。その魔力の高さが仇となり、結婚相手を探すのが難しい(探そうともしてないが)のだ。
 と言うのも、平民と違い、貴族にとって血を残すのは絶対、子供を持たねばならないからだ。」
「はい?」
「魔力が釣り合わなければ、子が成せないのだ。現在、エーレンフェストの貴族内で、フェルディナンドの子を産めるであろう女性は数が少なく、皆、既婚者だ。」
「うわ。」
 そりゃダメだ。
「領地外で選ぶなら、相手も見つかるのだが…。」
「出来ないのですか?」
「一番の問題は魔力の高さではなく、それを言い訳に結婚相手を探そうとしないフェルディナンドだな。」
「もしかして、その理由って…、」
「フェルディナンドは能力は私を軽く越えているのだが…、其方が気付いた様に、どうにも情緒的に私に依存しているのだ。そのせいで周りの人間の好意を見ようともしない。」
 あ、やっぱり気付いてはいたんだね。
「女性不信と人間嫌いが混ざっているから余計酷くてな。」
 結婚には最悪だ。
「何かあったんですか?」
「まあ、貴族関係のあれやこれやがな。
 私はそれで、母をこの手で殺めた。」
「!!!!!!!!!」
 自分のお母さんを…? 
「私が神殿に来る事になった理由でもある。
 フェルディナンドは私の決断を正しいとしているし、今の主力派閥の貴族もそうだ。…私自身、間違ったとも思わない。」
 私は母さんを思い浮かべた。母さんを殺すなんて、私には出来ない。神殿長がそんな事をしていたなんて…。
「だが罪は罪。情勢が変われば、何時牢獄に行くか分からない。
 そんな私が、フェルディナンドに必要以上に近付いてはならないのだ。」
 ショックで停止していた思考が、次の声で動き出す。
「だが…、私とフェルディナンドの父は病死、私の母は先程言った通りで…、フェルディナンドの母は姿も見せず、名乗りも上げられない、姉は他領に嫁ぎ、兄は…、兄も高みに昇っている。」
 え…、って事は実質2人だけの家族? しかも領主様は異母弟…。
 神殿長が濁した貴族のあれやこれやは良く分からない。ただただゾッとする。
「私はそれでも信じられる者も、好む者もいる。だがフェルディナンドはそうではない。だから私に依存した。」
 …依存関係になるなら、2人の関係はきっと良好だったのだろう。弟を大切に思っていた兄だからこそ、だ。…そんな人が望んで母親を手に掛ける訳が無い。私は神殿長の顔を見る。
「…例え最初はぎこちなくても、結婚して、フェルディナンドの家族が出来れば、きっと変わると思うのだ。
 だが現状、フェルディナンドはその気さえ無い。」
 弟を案じる言葉。でもその中には神殿長自身の為の感情が無い。…辛さとか悲しさとか、私に言える訳が無い。私は神殿長にとって、泣き言が言える存在じゃない。
「どんな理由であっても、其方を愛妾に本気で望むのは、何かの切っ掛けにはなるかもしれぬ。だが…、本気で子を作る気があるのか、出来た事がエーレンフェストを混乱させる事にならないか…、正妻を得ぬままの今では賛成が出来ない。」
 そうだ、私は神殿長に必要な存在じゃない。多分、困ったブラコン弟の方が必要なんだろう。…何だかもやもやする。
「正妻がいれば、私が愛妾になっても良いと…?」
「私は…、其方には幸せになって欲しいと思っている。貴族の愛妾よりもルッツと結ばれる方が良いと思う。」
「え、あの、えっと…、」
 何でルッツが出てくるの? 
「其方の幸せか、フェルディナンドの幸せか…。天秤に掛ける事はしたくない。何故なら私は領主一族だからだ。
 フェルディナンド側に、エーレンフェストの為に、が加えられるならば、私の天秤は其方には傾かぬ。…すまない。」
「神殿長…。」
 何で謝るの? 
「…最初は、其方を大事に出来る様な上級貴族の愛妾にと、考えないでは無かった。だが、其方の価値観を考えるなら、養女の方が良いと思い直した。
 其方は利用価値が大きい。多額の金貨を生み出し、魔力の大きさは現時点で領主一族に匹敵し、成長して魔力が更に増えれば、王族にも引けを取らぬかも知れぬ。私は其方の魔力を神殿では極力隠し、神殿外の人間の前でそれを大々的に見せた上で、信頼が置ける上級に魔力以外の価値を教え、其方の自由が保証される形で、養女の契約を成すつもりだった。」
 ちゃんと考えてくれてたんだ。…でもね、どんなに良い貴族でも、神殿長に比べたら、きっと劣って見えるよ。
 お母さんを殺した事、話す必要なんて無かった。だって私は平民風情だもん。それなのに、話してくれたのは、領主様の愛妾になるかも知れない私の為だ。 
「…まさかフェルディナンドが愛妾に、と考えるとは思わなかった。」
 下を向いた神殿長に吊られて、私も下を向く。ふと気配を感じた。…神殿長の手だ。

 あっ!