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逆行物語 第三部~ヴィルフリート~

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神命と王命



 父上がいない中で、叔父上が事態を説明し出す。…叔父上、今、威圧を…、あ、いえ、何でも無いです。
「昨夜、新・ツェントが任命された。それもユルゲンシュミットを創った神によって。」
 神様、だと!!? 私の思考は止まり、唯、叔父上の話を追うだけだった。我知らず、唾を呑み込んでいた。
「アウブ達が集まった場に、ユルゲンシュミットの柱たる神、エアヴェルミーン様が現れになった。未成年のツェントの実質の後見と言う事になる。
 そして、その場でフェルネスティーネ様とエアヴェルミーン様が王命より重い神命を出された。神命は2つ。争いの芽を摘む事と神殿の復興。
 各々の領地に神命を遂すに当たって、必要な王命が出された。これよりはアウブ、若しくは領主候補生が神殿長を勤めろ、と言う王命が全領地に課せられる最低限の命令だ。
 その他は領地によって、必要な裁定があるだろうと、多くは自由裁定に任されるが、細かな裁定まで、命じられた領地もある。
 エーレンフェストに関係し、より重大な事をまず伝える。

 …ツェント・フェルネスティーネの王配に、ジルヴェスター・エーレンフェストが選ばれた。

 既にフロレンツィア様とは離縁が成立している。」
 思考の次に心が凍り着いた。あれ程五月蝿かった胸が嘘の様に静まり返った。
「この命令は、神命、“争いの芽を摘む事”と関係している。人間の都合で起こされた政争により、正しき神の教えが失われ、その為にユルゲンシュミットは崩壊の危機に瀕していた。
 神々は心を痛めており、先の政争に参加しなかった、つまり中立を保ったエーレンフェストの中、争いを嫌う性質の人間を、ツェント・フェルネスティーネに宛がうとされ、ジルヴェスター・エーレンフェストが選定された。
 その為、ジルヴェスター・エーレンフェストは既に領主にあらず、今、その座に任じられたのはこの私である。
 立場上、中継ぎになる私が次の権力争いの場を作る訳には行かぬと、フロレンツィア様を娶り直し、ジルヴェスター・エーレンフェストの子の父となる。
 そして…、神命、“神殿の復興”の為、エーレンフェストの次期アウブをローゼマインとし、争いを嫌う、ジルヴェスター・エーレンフェストの血を直系で遺す為、ヴィルフリートを配偶者と成す。これらがエーレンフェストに下された命である。
 続いて……、アーレンスバッハが反乱の下準備をしていたらしい。その為、アウブ夫妻はその場で捕らえられ、処刑が決定している。アーレンスバッハ内で、協力者と見做される者を中央騎士団が捉えるらしい。
 アーレンスバッハは取り潰し、領地は境界線を引き直す。細かな事は決まっていないが、隣領地だ、エーレンフェストにも何らかの余波があると考えてくれ。
 最後に中央だが、元は貴族院のみが中央領地であると言い、それ以外の領地を手離された。元・ツェントや王子夫妻がアウブを務める領地が出来るだろう。また貴族院の講義にも何らかの変動が出ると申された。学生達は苦しいだろうが、勉学に励む様に。」
 私の思考と心が動き出したのはこの直後、倒れ行くローゼマインの姿が視界に入った瞬間だった。