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悪魔言詞録

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136.魔獣 ケルベロス



 普通に召喚に応じてくれたけど、地獄の門番の仕事は大丈夫なのかって?

 召喚主さん、喚び出しておいていまさらそれを聞くんですか。そんなことを気にするなら、喚び出さなければ良かったのに。まあ、それは冗談ですけど。

 実はですね、その質問に対するヒントがあるんです。今の僕の姿を見て何か気付きませんか。そう、そこです。首がひとつなんですよ。

 僕の首がみっつなのはわりと人間界でも有名だと思います。でも、今の僕は首がひとつ。じゃあ、残りのふたつは何をしてるんでしょうか? そうなんです。残りのふたつの首が門番の仕事をやっているんです。
 正確に言うと、普段はひとつの首が門番をして、残りのふたつが眠ったり、休憩をとったりしています。いわゆる3交代制ですね。人間も工場勤務の方や看護師さんがやっているからご存じでしょう。それを今は2交代にしてもらって、僕が抜け出してきているというわけなんです。

 あと、大昔にすごく強い英雄が来て、地上に連れて行かれたときも首はひとつだけでした。そのときも門番の仕事は2交代でなんとかしましたね。ふたりだと負担が大きいですけど、非常時はどうしてもそうするしかありません。

 それに、あなたより前に私を喚び出した方もいましたね。他にも守護霊のような形で召喚してくださる方がいましたし。彼らの喚びかけにもその都度、応じていますので、門番以外の仕事も結構多いんですよ、ありがたいことに。

 大変じゃないかって? 大変ですけど、門番の仕事もあれはあれでなかなか退屈です。反面、初めてお会いする方々との冒険はとても新鮮ですし、とてもやりがいはありますね。息抜きにもなりますし、いい経験をさせてもらえますし、己の鍛錬にもなっていますから。

 いずれは、あなたを含め今まで喚び出してくれた方々に、もしかしたら地獄の門前で再会を果たすこともあるかもしれません。その時は、あらためてお礼のひとつも言えればいいなあって思いますよ。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔