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悪魔言詞録

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165.魔王 スルト



 ああ、さっきから俺がおまえをジロジロと見ているのには深いわけがあるんだ。

 この受胎された場所から新たな世界を創造する男を見てやろうと思って、俺は召喚に応じて仲魔になったんだよ。もちろん命令には従ってやるが、おまえがどうやってここから世界を作り上げていくのか、それをじっくりこの目で観察することを最優先にしようと考えているんだ。

 なぜかって?

 おまえは俺がかつて行った所業を知っているか。そう。ラグナロクの日に神々と戦って世界を終わらせたのさ。神々と巨人は総動員で激しく殺し合った。俺はそこで火を放って何もかもを焼き尽くし、最終的に世界は海中に没した。一つの世界を終わらせたのが、この俺の放った炎だったわけさ。

 翻って最近ではどうだ。一つの国を統べるほど大きな権限を持つものが、押下しさえすれば世界を瞬時に終わらせることのできる核なんてボタンがあると聞いている。また、持っていなくともそれが自分の掌中にあれば、と夢想しているものも多いはずだ。

 でも、世界は終わってはいない。受胎こそ起きたが、今だって世界はちゃんと続いている。

 破滅願望を持つものも多いだろうし、実際に破滅可能な人間もいる。しかし世界は破滅していないのさ。何が言いたいかというと、何かを「終わらす」ということは難しいってことが言いたいんだ。

 だが、悲しいことに「終わらす」は、「創る」ことほど評価されはしない。それどころか、悪役にされてしまうことだってある。この俺がいい例だ。まあ、肩書なんか魔王だろうがなんだろうが別に構わないんだけど。

 というわけで、「創る」ことにあって「終わらせる」ことにないのは一体何なのか。なぜ俺は悪役にされたのか、その理由を知りたいんだ。だから、新たな世界を創り出そうとしているおまえをつぶさに観察して、それを見つけ出してやろうと思っているんだ。

 ん? でも、自分もいつか悪役にされているかも? いや、それはないだろ、多分……。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔