悪魔言詞録
96.妖鬼 ヨモツイクサ
なあ、なあって。
寝ちまってやがる、ひでえ召喚主さまだな、全く。こんなとこで眠りこけていたら、面倒なことに巻き込まれっちまうぜ。
おーい、起きろよ。ここで強敵が現れようものなら、全員命がないようなもんだ。目を覚ませってば、おい。
あぁ。やっと起きた。危険な場所なんだから、あんたに寝られると困る。次からはほんと、頼むから気を付けてくれよ。
なに、じゃあ、眠らないようになんか話をしてほしい? そんな、子どもじゃあるまいし。だいたい子どもは話を聞いて眠っちまうもんだ。明らかに逆効果だろ。
いいから、いいから? どうせなら、夢のある話でも聞かせてくれ? 全く、こりゃあとんだ、悪徳召喚主だよ、もう。
……しっかし、夢のある話ねえ。こんな雑魚悪魔が夢なんて……。ああ、そういえばあんなことがあったっけな。かっこ悪くて誰かに話したことなんてなかったけど、ここで話してみようか。
やっぱさあ、こういう下っ端悪魔に生まれるとさ、小さい頃から自分は大したこともできないで一生を終えるってうすうす感づいているもんでさ。俺もその例に漏れず、つまんねえ一生を送るんだろうなって考えながら幼少期を過ごしていたんだよ。
でも、ある年の悪魔スポーツ大会に出たときにさ、すげえことが起こったんだ。その時の種目にやり投げがあったんだけど、俺、もう大活躍しちゃってさ。ほんと、ぶっちぎりで金メダルをもらったんだよ。
まあ、別にそれ以来、やり投げを続けているわけじゃないし、自分で何か特訓をしているわけでもない。持ってるこのやりをたまに戦いで投げつけることはするけど、あくまで攻撃の一環でやってるだけ。つまり、その日限りの栄光だったわけ。
でもたまに、今もやり投げをしてたら、どうなってただろうって思うんだよ。そしたら、上空でキラキラ光るあの物体に思いっきりやりを突き刺してえなって、ちょっと思うんだよ。
……って、また寝ちまいやがった。全くこの不良召喚主が。