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悪魔言詞録

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123.竜王 ケツアルカトル



 召喚主さん、あなたに会いたかったんですよ。早急に申し上げたいことがあるんです。

 この国では、橋を架けたりとか、建造物を造ったりとか、トンネルを掘ったりとか、そういったときにある風習が行われていると聞きました。

 地鎮祭のことかって? いや、違います。他に思い当たることはありますか。地鎮祭と同じく神に関係する事柄ですよ。

 何も思いつかない? これはもう、日常的に行われすぎてまひしてるんですかね。じゃあ、人命が損なわれるもの。これならわかるでしょう。そう、人柱。この悪しき文化のことを私は言っているんです。いったい神のために人命をささげるとはなにごとですか。無残に殺されて、お墓もなく粗末に埋められて。かわいそうとか思わないんですか。神様だってそんな供物は喜びませんよ。よっぽど性格のねじくれた、テスカトリポカのようなやつなら大喜びするでしょうけど。
 実はまだ日本の神々の意見を聴取してないので、その点に関しての調査の不足は謝罪しますが、彼ら、彼女らもおおむね人柱の廃止に同意するんじゃないかと思います。

 私はね、実は祖国でも人身御供の習慣をやめさせようとしたことがあるんです。やっぱり良くないことだと思いますからね。けれど、抵抗勢力の画策などで私のほうが国を追い出されてしまったんです。でも、これにこりてしまったら神の名が廃ります。私はここでもひるまず人命を損なう風習をやめるべく声を上げてくべきだと思うんです。

 とにかくですね、何度でも召喚主さんにもの申したいのは、こんなひどい習わしは一刻も早くやめましょうということです。そして、たくさんの仲魔を従えてきたあなたなら、きっとそれができるはずなんです。どうですか、少しは思うところがあるんじゃないですか。

 え? アステカの人々が今はそんな儀式をしていないのと同じで、こっちの国でももうそんなことはまず行われていないはず?

 そ、そうなんですか……。それなら、別にいいです。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔