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悪魔言詞録

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93.破壊神 ディオニュソス



 なあ、召喚主さんは自分が自分でなくなる瞬間を持っているか?

 いきなり何のことだって? おいおい、とぼけるなよ。仮にも一介の悪魔だっていうんなら、そんな瞬間、いや、趣味と言ってもいいな、が一つや二つぐらいあるもんだろう。
 例えば、どんなもんがあるのかって? 俺なんかは、まあ、即座に分かるだろう、酒だよ。飲みまくって飲みまくっって深酔いをして、自分じゃなくなったときに全てを開放するのさ。あと、今はストックにいるヘルズエンジェルなんかは、やっぱりバイクなんだろう。危険を顧みず速さを極めることで、あいつも何かを悟ろうとしているんだろうよ。
 酔っ払ったりバイクに乗ったり、そんな危ないことをする必要があるのかって? いやいや、必ずしもそういう危険なものというわけじゃない。例えば読書だっていいさ、本を読んでいる間はわれを忘れていたり、物語の人物などに感情移入をしていたりするだろう。それだって自分が自分じゃなくなっている時間さ。
 そういう意味では、恋愛だって、ゲームだって、アニメだって、音楽だって、漫画だって、VTuberだっていいさ。何か必死になれるものさえあればいいんだ。何かに夢中になって、自分が自分でなくなるあの感じ。その感覚を知っておくこと、持っておくことが重要なんだってことよ。

 なんでそれが必要かってことは俺にもうまく言えないけどさ、そんなものがまだないというのなら、なるべく早めに探しておいたほうがいいと思うぜ、召喚主さん。

 何? ちょっと違うかもしれないけど、似たようなものなら自分にもあるかも? お、さすがだな、ちゃっかりそういうものを用意してんのか、なんだかんだいって隅に置けないんだなあ。で、なんなんだよ、教えてくれよ。

 え、アサクサでプレイできるあのゲーム?

 あ、ああ、あれ。あれも確かに面白いけれども、うーん。ちょっと……。

 まあ、こう言っては何だけど、あのパズルはハマりすぎるとまずい気がするなあ、召喚主さん。


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔