悪魔言詞録
79.堕天使 ベリス
……うーん。実に美しい。
…………。
はい? 何をうっとりしているのかって? これを見てくださいよ。この炎があまりにも美しくて、ついつい私は見とれていたのです。
別にただの火柱じゃないか? ええ。まあ、そう言ってしまえばそれだけの話ですが、このように燃え盛る炎って、非常に美しくありませんか、召喚主さん?
別に思わない? そうですか。あなたは優秀な悪魔だが、私と趣味は合わないようですね。でも、まあ、なにかの拍子に目覚めることもあるかもしれません。ここは一つ、私が炎の魅力というものを少し説明してみましょうか。といっても、さわりだけですがね。
まず、炎の根源となる火、すなわち燃焼とはなんなのでしょう。もちろん激しく酸素と結びつく行為を言うわけですが、食べることでエネルギーを蓄えた生物が、それを消費するさまも燃焼に例えられます。すなわち、牽強付会かもしれませんが、燃焼とは生物が生きているさまを具現化した姿なんです。
しかも、それだけではありません。今、私たちが目の前で見ている火柱。あれは何でしょうか。そう、われわれに歯向かった哀れな敵が、その生命を奪われるべく燃え盛っている炎なのです。これが何を意味するか、召喚主さんはお分かりになられますか?
まだ分からない? 私はあなたを優秀な方だと思っていたのですが、こういう点は少々鈍いのかもしれませんね。ああ、いえ、無礼な口を利いたことをお許しください。
上記の2点から分かること。まさしく炎というものは、生と死、どちらをもつかさどるものの象徴なのですよ。脈々と受け継がれていく生の躍動、生々しさ。必ず受け入れなければならない死の恐怖、恐ろしさ。それら、相反したものを併せ持つ奇妙な現象。それが、燃焼というものの本質なのですよ。
さあ、それを踏まえてもう一度、あの炎をながめてみてご覧なさい。いかがですか。
……分かった、分かったって、その言い草、分かってないでしょう。全くもう。