二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ワクワクドキドキときどきプンプン 2日目

INDEX|18ページ/32ページ|

次のページ前のページ
 

6:禰豆子



 駅から送迎バスで十分ほどの場所にある、リニューアルオープンしたばかりのスーパー銭湯は、ゴールデンウィークということもあってかなりの盛況っぷりだ。
 大浴場も混雑していたが、座敷造りの休憩所でも老若男女がそれぞれくつろいでいる。とはいえ時刻は午後四時で夕食には少し早いし、漫画などが読めるラウンジにくらべれば、テーブルと座布団があるだけの休憩所は静かなほうだと言えるだろう。
 そんな休憩所の一番奥のテーブルの横で、オレンジ色の館内ウェアを着た禰豆子は、懸命に団扇を動かしていた。
 小さな手で風を送る先には、苦しそうな息遣いの義勇が横たわっている。
 義勇の額《ひたい》にはいくつも汗が浮かんでいて、禰豆子はそれが心配でしかたがない。禰豆子よりもずっと大きいのに、つらそうに目を閉じて横になっているさまは、やけに頼りなく見えてしまう。団扇を振る手にも力がこもるというものだ。

 露天風呂にみんなで入ってる最中に、突然ずるりと湯に沈んだ義勇に一同が大慌てしたのは、今から三十分ほど前のこと。
 湯あたりしたのか義勇はとても苦しそうだった。宇髄に抱えあげられて脱衣所に運ばれるまでは、軽く気を失ってもいた。錆兎と真菰が体を拭いてやっているうちに目を覚まし、自分でウェアを着た義勇は、煉獄に支えられてとはいえ自分の足で休憩所まで歩いたけれど、それが限界みたいだった。頭痛がひどくて起きていられないらしい。
 煉獄に医務室に行くかと聞かれても首を振り嫌がるから、とにかく横になれる場所へとここに来たけれど、本当に寝ているだけで大丈夫なのか禰豆子は不安だった。でも、錆兎や真菰もそうしてやってくれと言うなら、禰豆子が反対するわけにもいかない。
 炭治郎の不安は禰豆子以上だ。「俺が重かったからだ……俺のせいですよね、義勇さんごめんなさい!」と泣き出しそうな顔で心配していた。真菰と錆兎だって赤く上気していた顔から一気に血の気が引いてしまっていた。
 そんな子供たちにここで寝てるだけでいいと言って、義勇は少し震える手で炭治郎の頭を撫でてくれたけれど。その後はもう口を開くのもつらいのか、なにも言わずに横になっている。

「……風邪をひく」
「ぎゆさん、寒いの? 団扇しないほうがいい?」
 唐突にぽつりと言われた一言に慌てて手を止め聞いたら、義勇は横になったまま小さく首を振った。
 潤んだ瞳が向けられた先で、いくつもの水滴が畳に染みを作っている。それを見た禰豆子の目の前で、また一滴、禰豆子の髪から水滴が畳に落ちた。
 禰豆子の髪が濡れたままなのに気づいたのだろう。一所懸命仰いでいた禰豆子はそんなこと気にしなかったのだけれど、義勇は気遣わしげに禰豆子を見上げていた。
 苦しいのは義勇のほうなんだから、私の髪なんて気にすることないのに。思えども、義勇はそういう人なのだ。そんなところは、炭治郎によく似ている。
 だから禰豆子はとても心配してしまう。禰豆子のお兄ちゃんでありヒーローでもある炭治郎は、禰豆子や竹雄たちのことばかり心配して、自分のことはいつだって後回しだ。遊びに行くときも、いつでも禰豆子たちを連れて遊ぶ。
 オモチャもお菓子も炭治郎は後回し。いつだって禰豆子たちが先。禰豆子が覚えているかぎり、炭治郎が一人で友達と遊びに行ったことなんてない。

 禰豆子にはそれがちょっと悲しいのに、炭治郎は気づいてくれない。禰豆子だってもう小学一年生だ。竹雄と花子の世話だって一人でできるのに、信用されてないみたいでちょっぴり悔しくもある。炭治郎がとてもやさしいことも、禰豆子たちを大事にしてくれていることも、ちゃんと知っているけれど、それでもやっぱり禰豆子には少しだけ炭治郎のやさしさが悲しくて、悔しかった。
 義勇のやさしさは、炭治郎と同じに禰豆子には見える。今も苦しそうなのに、禰豆子が風邪をひかないか心配してる。それにさっきだって、一緒にいると言い張る炭治郎や真菰たちに、悲しそうな顔をした。
 自分の心配をするよりも、炭治郎たちが楽しく遊び続けてくれるほうがいい。禰豆子にだって義勇がそう思っていることがわかるくらい、義勇は悲しそうに炭治郎たちを見ていた。
 だから禰豆子はみんなに言ったのだ。

「禰豆子がぎゆさんのお世話する! だからお兄ちゃんたちは遊んできて!」

 禰豆子はみんなから見れば頼りないチビッ子だ。みそっかすのお荷物だなんて誰も言わないでくれるけど、禰豆子にだってそれくらいわかっている。背だって一番小さくて、うまく舌が回らないから義勇の名前だって一人だけ舌足らずになるのだ。本当はときどき錆兎や宇髄のことも『ちゃびとくん』だの『うじゅいしゃん』になりかけたりもする。今朝の剣道の稽古だって、一番先に疲れてしまった。そんな禰豆子が具合の悪い義勇の世話をするなんて、誰もが不安を覚えるだろう。
 でも! 重ねて言うが禰豆子だってもう小学一年生なのだ。炭治郎が一年生のときにはもう、ちゃんと禰豆子たちの面倒を見てくれていた。禰豆子が風邪をひけば、お母さんがお店に出ているあいだ炭治郎が、おでこのタオルを取り換えてくれたり水を飲ませてくれたのだ。
 禰豆子だって炭治郎のようにできるはず。だっていつでも炭治郎のすることを見てきたんだから。いつだって炭治郎の真似をしてきたんだから。

「……わかった。では禰豆子に任せよう!」

 みんなが不安そうにするなかで、そう言ってくれた煉獄には大感謝だ。
「禰豆子はちゃんと手伝いだってできるし、弟や妹の面倒を見るのも慣れているんだろう? 冨岡の介抱を任せようじゃないか!」
 ふん! と拳を握って宣言した禰豆子に、煉獄はそう言って笑ってくれた。フロントに置かれていた団扇やら水やらを持ってきた宇髄も、軽く笑ってうなずいた。
「冨岡はここで寝てりゃいいって言うんだし、たしかに介抱は禰豆子で十分だな。逆上せただけなら、水分とって休んでりゃそのうち治るんだし、禰豆子、冨岡を頼むぜ?」
「うん! がんばる!」
 炭治郎たちはまだ心配そうだったけれど、宇髄に大勢でいたら義勇が休めないと後押しされ、やっとうなずいてくれた。後で交代するねと言いながら、煉獄たちに連れられお風呂に戻っていった顔は、まだまだ不安そうだったけど。
 なんとか納得してくれたみんなと違って、最後まで反対していたのは当の義勇だ。だけれども、なにしろ義勇は口下手なうえに、今は具合も悪い。拒む言葉を口にする代わりに不満と不安と申し訳なさを浮かべている瑠璃の瞳を、見て見ないふりした禰豆子だった。


「大丈夫だよ。禰豆子寒くないし、髪だってすぐ乾くもの」
 そう言って不安げな義勇の頭をよしよしと撫でてみれば、義勇の髪は禰豆子以上に濡れている。禰豆子はビックリして慌ててしまった。
 そういえば義勇は頭まで湯に沈んでいたんだっけ。横になる前にさっと真菰に拭われているけれど、ポニーテールに結ばれた髪は、まだぐっしょりと濡れている。
 枕代わりに畳んだタオルは置いてあるけれど、そのタオルもかなり湿っているようだ。投げ出された髪の束が、畳に染みを作っている。
このままだと、義勇のほうこそ風邪をひいてしまうかも。濡れてるのにさっきまで団扇で扇いじゃったし。