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ワクワクドキドキときどきプンプン 2日目

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9:錆兎



 顔は笑っていても、真菰の声は少し震えてる。きっと自分も、口を開いたら同じような声になるだろうと、錆兎は思う。
 だって、絶対に真菰と自分は、同じ不安を抱えているに違いないのだ。
 真菰が考えていることならなんだって、錆兎にはわかる。今はまだ。できることならずっとそうありたい。
 でも、義勇のことだってわかっていると信じていたのに、近ごろ急にわからないことが増えてきた。炭治郎と義勇が出逢ってから。宇髄と煉獄が現れてから。

「そんなことないだろ? だって義勇さん、真菰や錆兎が大好きだし、二人は義勇さんの特別じゃないか」
 きょとんとして炭治郎が言う。困惑する様子もなく。
 それはきっと炭治郎にとっては確定事項なんだろう。自分だって義勇の特別になりたいと思っていることが丸分かりなのに、炭治郎は、錆兎と真菰が義勇の特別だと疑わない。疑う要素なんてどこにもない、決まりきっていつまでも変わることのない事実だと、思ってる。
 でも、炭治郎は知らない。本当はもう、炭治郎は義勇の特別だってことを。錆兎や真菰の目からすればわかりきったその事実に、炭治郎はまだ気づいていないのだ。
 もしかしたら、義勇自身さえ気づいていないのかもしれない、その変化。炭治郎と出逢ってからいつかはと覚悟してきたけれど、それはあまりにも早くて。覚悟を決めたはずなのに、幼い心が追い付かない。だけど、このままでいられるとは、思ってない。このままでいいなんてつもりもない。

「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人相似たらず」
「んん? えっと、それ、なに? なんかの呪文?」
 ぽかんとした炭治郎に、錆兎は思わず小さく笑った。笑えてよかったと思う。
「変わらない人なんていないってことだ」
 義勇の変化を喜ぶべきなのは理解している。うれしいとも思っている。元の義勇に戻ってくれることを、心の底から願う気持ちに嘘はない。誓ってそれは本当なんだけれど。

 もう少し、このままで。もう少しだけ、自分たちに守られる義勇でいてほしい。義勇のことを理解できるのは、自分たちだけ。誰より特別なのは、自分と真菰だけ。義勇にもそう思っていてほしかった。

 そんなことを願ってしまうのは、俺が子供で未熟者だからなんだろう。だから早く大人になりたい。もっともっと大人になりたい。
 それなのに、錆兎たちが大人になることを当の義勇に厭われたら、どうしたらいいのかわからなくて不安になる。自分のなかにある幼さが、怖い、泣きたいと、悲鳴をあげそうだ。きっと真菰も同じように思ってる。

 でも。でもな。

「……炭治郎は心配しなくていい。天元が言うとおりだって、俺と真菰もちゃんとわかってる。もう少し時間が欲しかったってだけだ」
 炭治郎にだけでなく、真菰にも言い聞かせるように、錆兎は言った。だから泣くなよと伝えるつもりで。それは正しく真菰に伝わったようだ。小さく唇を噛んでうなずく真菰に、錆兎もうなずき返す。

 泣くな。うれしくて零れる涙以外は、絶対に流すな。義勇が見ていようといなかろうと。それは二人で決めた内緒の約束。大人になるのだと誓ったときに、小指を絡めて約束したのだ。だから。

 錆兎はすっと小さく深呼吸すると、気持ちを切り替え炭治郎と真菰を交互に見遣った。
「それより次はどこに行く?」
 促せば、まだ心配げに眉を寄せつつも「うーん」とうなりながら炭治郎が首をひねった。深く追求しないでくれるのが有り難い。
「義勇さんの言付けを聞いて、外に探しに行ったのかも」
「杏寿郎と入れ違いにってのは考えられなくもないか……じゃあ、外の休憩所を探してみるか」
「賛成。煉獄さんたちは男湯を探してるんでしょ? なら私たちは外だね。同じところを探すんじゃ効率悪いもん」
 ともかく外にある休憩所の場所を調べようと、ドアに向かって歩き出した錆兎たちの足が、背後からかけられた声にぴたりと止まった。

「竈門の兄ちゃん、いたぁ!」

「え? 俺?」
 炭治郎を呼んだ声に三人が振り向くと、同い年ぐらいな男の子が満面の笑みで駆け寄ってくる。
「竈門禰豆子の兄ちゃんだよなっ? あのさ、竈門がここで兄ちゃんを探してたんだ。俺の兄ちゃんがあんまり動き回らないほうがいいって言うからさ、竈門には厨房で待っててもらって、俺と就也で竈門の兄ちゃん探してたんだよ」
「本当に!? ありがとう!!」
 パッと輝いた炭治郎の顔。真菰と錆兎も顔を見合わせ瞳を輝かせた。

 禰豆子の隣のクラスだと言うその男の子──不死川弘に案内されて、厨房へと向かう。
 厨房は近づく夕飯時に備えてか、ずいぶんと忙しそうだ。夕食をとる客がレストランを訪れだしたら、今以上に慌ただしくなるのだろう。
 せわしない空気に満ちた厨房を進むと、奥のほうに、こんな場所には不似合いな子供たちの姿があった。床に置いたビールケースに腰かけて、子供たちはなにやら楽しげだ。
「玄弥兄ちゃん! 竈門の兄ちゃん連れてきたよ!」
 弘の声に、一番大柄な背中が動いた。その陰からひょこっと顔を見せたのは探し人。
「お兄ちゃん! 真菰ちゃんと錆兎くんもいたぁ!」
「禰豆子!! 探したんだぞ!」
 いたってのはこっちのセリフだぞと、錆兎は軽くため息をつく。ぴょこんと立ち上がり小走りにやってくる禰豆子の満面の笑みとは裏腹に、同じく足早に近づいていく炭治郎は少し泣きそうだ。真菰もほぅっと安堵のため息をついている。
 禰豆子にお説教したい気持ちが沸き上がりかけたけれど、それでも錆兎は、自分が口を出すことじゃないかと口をつぶんだ。それは炭治郎や宇髄たち年長者の役目だろう。同い年の自分や真菰に叱られては、禰豆子だって立つ瀬がないに違いない。
 なんにしろ、動き回られるよりはよかった。迷子の放送をしなくてすんだ。もしそれしか手立てがなくなっていたら、禰豆子が自信喪失するだけでなく、義勇の罪悪感も計り知れないことになっていたはずだ。
「禰豆子が世話になった。ありがとう」
 義勇は自己評価がとんでもなく低いからなぁと思いつつ、錆兎は、一番大きな子に向かいペコリと頭を下げた。
「べつにたいしたことはしてねぇよ」
 モヒカン頭の男の子は、一見かなり悪ぶった印象だが、炭治郎と真菰に頭を撫でられている禰豆子を見やる眼差しは、どこかやさしい。
「一人で歩き回っちゃ駄目だろ? うちだって父さんたちが仕事してるときは厨房に入っちゃ駄目なのに、みんなの邪魔しなかったか?」
「ごめんなさい。あのね、就也くんたちがお兄ちゃんを連れてきてくれるまで、ここで待ってなさいって言われたの。みんなでお手伝いしてたんだよ? レストランで出すご飯、いっぱい作らなくっちゃいけないからお手伝いしてって、頼まれたの」
 謝りつつも禰豆子は、申し訳なさや安堵に自慢とが交ざって、自分でもどんな顔をしたらいいのかわからないらしい。なんとも言えない表情をしているのに、思わず錆兎も苦笑してしまった。モヒカンの子も