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ワクワクドキドキときどきプンプン 3日目

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5:錆兎



 一気に緊迫した空気のなか、錆兎が一瞬にして思い出したのは、ゴールデンウィーク初日の出来事。風呂に入る組み合わせで少々揉めたときに、錆兎が宇髄と入ると決めたのは、内密に話すには絶好のチャンスだと思ったからだ。

「天元、それであの馬鹿どもはどうなったんだ?」

 宇髄も同じ考えだったのだろう、風呂に入るなりたずねた錆兎に、宇髄は眉を小さく上げ薄く笑った。
 錆兎は、宇髄の人を食ったこの笑みが、あまり好きじゃない。宇髄にとっては仮面だろうと感じている。出逢って間もないのだから、警戒されてもしょうがないしお互い様ではあるけれど、煉獄にさえ同じ笑みを見せるのが少々気に食わなかった。煉獄はどう思っているのか知らないが、錆兎からすれば腹に一物あるようなやつと友達付き合いしたくない。
 それでももう、宇髄がいいやつだということだって、錆兎は理解している。もしかしたら苛立つのはそのせいかもしれなかった。
 内心を悟られぬよう宇髄は笑うんだろう。相手を突き放しているのではなく、一歩引いて見守っている大人の笑みにそれは似ていた。この笑みで見られるたびに、対等だと思われていないのかと少しばかりいらだって、それ以上に錆兎の胸には焦りが生まれる。
 まだ中学生とはいえ、宇髄の世慣れた様子や諸々への対処の冷静さは、錆兎の目にはずいぶんと大人びて映る。自分が同じ年になったとき、宇髄と同じくらい人に頼られる男になれるのか。思えば焦りは錆兎の背を押して、早くみんなを守れる大人にならねばと思ってしまう。
 だからつい宇髄に対しては、真菰や義勇に対するのとはまた違った言動になった。庇護欲からとは違う大人びた言動は、宇髄に対等と思われたいという、錆兎自身の欲求ゆえだ。
「あー、それなんだがな。あいつらかなりビビっちまったみてぇで、問題はなさそうだ」
「雑魚っぽい二人の怯え切った逃げっぷりならそうかもな。で?」
 首謀者のあの馬鹿は? と問う一音に、宇髄がわずかに眉尻を上げる。
 あいつも含めて問題なしと判断したのか、それとも思惑あって隠そうとしているのか。即座に判断できるほど、錆兎はまだ宇髄を理解できてはいない。確認を怠るわけにはいかないと、じっと見つめた錆兎に、宇髄は薄く笑った。
「おまえのそういうとこ、ほんと厄介だわ……やつだけは少しばかり根深そうだな。根本は八つ当たりや嫉妬でしかねぇってのは確かだけどよ」
 厄介だと宇髄は言うが、まったく同じ言葉を返してやりたいと、錆兎はわずかに目をすがめた。
 答えたことで錆兎への信頼を示しているかといえば、そうではないところが、宇髄の厄介な点だと思う。それでも自分の幼さを自覚している錆兎にしてみれば、致し方なしと認めざるをえないのが、悔しい。
 宇髄にとっては錆兎だって庇護対象なのだ。悔しい以外になにが言えようか。
 錆兎にとって相棒や相方と呼びたい相手はすでにいるので、宇髄とそんな関係になりたいとは思ってないけれど、それでも対等な立場にはなりたい。
 憧れとは言いたくはない。そんな言葉を認めるほど大人でもなかった。
 視線をそらさない錆兎に根負けしたふうに、宇髄は肩をすくめて言った。
「あの馬鹿の両親ともに教育関係では著名人、家は裕福、アイツの入学と入れ替わりに卒業した出来の良い兄貴がいる。兄貴に見劣りする弟ってなぁ、本人からすりゃストレス溜まるだろうな。しかもアイツにとっては最悪なことに、同じ学年に冨岡がいた。冨岡には親がいない。世間一般的には圧倒的弱者にいるはずの冨岡は、誰の目にも非の打ち所がない優等生ときたもんだ。簡単すぎる図式だろ?」
 なるほど。単純明快この上ない、身勝手で悪意ある嫉妬だ。義勇にはなんの落ち度もない、ただの八つ当たりじゃないか。みなしごと義勇を責める言葉に正当性があると思い込んでいる時点で、品性の下劣さをあらわにしているだけだ。
 当の本人にしてみれば、プレッシャーやらなんやらで追い詰められてもいるのだろうけれども、同情してやる義理などない。少なくとも仲間とつるんで犬をいじめたり、ましてや義勇に心ない言葉を投げつける権利など、あんな馬鹿にあるものか。
 あきれるより先に憤るのは子供の証だろうかと頭の片隅で思いながらも、錆兎はこらえきれず、眉間に深いシワを刻む。
「……それで? 肝心なことに答えてないぞ、天元」
「お仲間はビビっちまって、アイツとつるむのやめちまったらしいぜ。一人で事を起こすほどの度胸はねぇし、親や学校に知られるのを一番恐れてるのはアイツだろうな」
 だから気にすることはない。と、錆兎が受け取めることを期待している。錆兎は宇髄の言葉と表情を、そう判断した。真意はきっと別にある。
 けれども、追及したところで宇髄は答えないだろうことも、もう理解していた。
 だから錆兎は、あえて軽いため息をついてみせた。錆兎が信じたと思い込んでくれるのなら御の字だ。とはいえ宇髄だって、簡単には信じやしないだろう。お互いに挙動の裏の探り合いを自覚した上での猿芝居だ。
 共犯者になるには足りないなにかが錆兎の年齢なら、実年齢以上に大人になるしか錆兎に手立てはない。
 考えろ。見のがすな。宇髄の言葉の裏を読め。それを錆兎は胸に刻みつけた。
 きっとそれが、義勇や真菰や炭治郎たちを守るために、今の自分がすべきことだ。力がまだ足りないというのなら頭を使え。男に生まれたからには、泣き言を言う前に自分がすべきことをしろ。
 そして今まさに錆兎がすべきことはといえば、錆兎たちが風呂から上がるのを、夕飯を目の前に待っている一同のため、さっさと風呂を済ませることだったので。

「おい、天元。狭いからもっと詰めろよ」
「あぁん? 十分浸かれるだろ、おまえチビだし」
「チビじゃないっ! 俺は平均だって言ってるだろ!」
「へぇへぇ。おまえがチビなんじゃなくて、俺様の足が派手に長すぎるせいだよな~」
「無駄にの間違いだろ。独活の大木って言葉知ってるか? 大男総身に知恵が回りかねでもいいけどな」
「そういう生意気を言う口はこれか? あぁ?」
「いひゃいらろっ! やめろ馬鹿っ!」

 ギャアギャアと騒いでしまったせいで鱗滝に二人そろって叱られたのは、さすがに子供っぽすぎたと反省した錆兎だった。
 一緒に正座させられた宇髄はざまぁみろだけど。


 そんなことがあったから、錆兎は銭湯での宇髄の指摘にかなり落ち込みもした。だからといって大人にならなければという想いに変わりはない。
 義勇に対する過保護な対応は、改めるべきところにきているのかもしれないが、年齢差を埋めるべく精進努力するのは悪いことじゃないはずだ。
 それに、まだまだ心配であることに違いはない。少なくとも、憂慮すべきことがあるうちは、義勇を守るべく行動したっていいだろう。義勇の罪悪感をあおらないよう、細心の注意は必要だけれども。

 思えども、不穏な状況に冷静でいられるほど、大人にはなりきれていないわけで。

「とりあえず変なのはまいたんでしょ? なら問題ないじゃないですか。じゃ、始めましょう」
 遅れてきた二人組の言葉を聞いてなお撮影本番を急かす前田は、本当にブレないというか、いい根性をしていると思う。