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ワクワクドキドキときどきプンプン 3日目

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13:義勇



 先頭を走る煉獄に続き、炭治郎を抱きかかえたまま義勇は走る。木々の合間を抜けるには竹刀が少々邪魔だが、しかたない。これだけは手放すわけにはいかなかった。
 後ろから聞こえてくるのは、宇髄や錆兎たちの声。しつこいだとか、そのエネルギーをもっと役立つことに使えなど、小馬鹿にしきった辛辣な言には、義勇もまったく同感だ。
 だが、悠長に会話する余裕なんてどこにもない。煉獄や宇髄にくらべれば、段違いにスタミナ不足なのは自覚している。先ほどまでの乱闘で、すでにいつもの運動量をはるかに超えているのだ。正直なところ、炭治郎を抱いたままどこまで自分の体力がもつか、義勇自身不安しかなかった。
 けれど。
「おいっ、冨岡! 炭治郎抱えて走りきれるかっ?」
 追いついて横に並んだ宇髄から問いかけられ、義勇は強くうなずいた。
 たしかに義勇一人で走るほうが楽なのは事実だ。体力も少しはもつだろう。炭治郎だって降ろされても否やはないに違いない。でも、そんなことできるわけがなかった。
 炭治郎の運動神経が優れているのは承知しているが、それでもまだ小学生だ。中学生相手では分が悪い。一人で走らせるなんて選択は論外だ。
 義勇の視線に、宇髄はニヤリと笑っただけだった。本当に大丈夫かとも、無理するなとも、言わない。
 信用してくれたと思っていいんだろうか。義勇にはわからない。けれど、それを問いただしている暇だってないのだ。思い悩むのは後回しだ。
「宇髄、公園を出たらどっちに向かえばいいんだ? ベーカリーか?」
 先陣切って走りながら振り返ることなく聞いてくる煉獄の声に、義勇も宇髄を再度見やる。この公園からなら、避難場所として一番近いのは『竈門ベーカリー』だ。だが義勇としては、それは避けたかった。
「いや、万が一知り合いだって知られて、あの馬鹿どもに嫌がらせでもされたら、たまんねぇからな。迷惑はかけらんねぇだろっ」
 まったく同じことを考えていた義勇は、宇髄の返答に内心でホッと胸をなでおろした。けれど、それならどこに向かえばいいんだろう。答えは出ない。
「駅まで向かってバスに乗るか?」
「やめとけェ! タイミングよく飛び乗れりゃいいが、下手したら取り囲まれんのがオチだァ!」
 重ねて問うた煉獄に返されたのは、しんがりを務める不死川の言だ。その言葉に宇髄はもちろん、抱えられた錆兎と真菰も、しかつめらしくうなずいている。
「あいつら、パトカーきたのにあきらめる気ないみたいだしな」
「あ、アレ、マジのパトカーじゃねぇぞ」
「は?」
「えーっ!? おまわりさんじゃないのっ?」
 こともなげに言った宇髄を、錆兎と真菰がぽかんと見上げている。煉獄に抱かれた禰豆子も驚愕の声を上げたが、義勇も似たりよったりだ。炭治郎と一緒になって、思わず宇髄の端正な横顔をまじまじと見てしまった。
「あいつらのとこに行く前に、ダチに連絡しといたんだよ。乱闘中だったらサイレン鳴らしてくれってな。映画の小道具だから、マジのサイレンとは微妙に音階変えてっけど、なかなか真に迫ってたろ?」
 けろりと言い放ち、宇髄は不敵に笑っている。小学生を二人も抱えて走っているというのに、息を切らせた様子もない。
 先の乱闘で見た強さもこの抜かりのなさも、舌を巻くレベルだ。本当に宇髄はそこらの中学生とは格が違う。端倪すべからざる男だと、早くも息を乱している義勇は感心するよりほかない。
 こんな男が、不甲斐ないばかりの自分を信用するなど、あるわけがないだろう。
 戸惑いは、後ろめたさをともなって心の底深くにぺたりと貼りつき、重く湿って存在を主張する。けれども、意を決してなぜと問うことも、ましてや膝を抱えてうずくまることも、今はできやしないのだ。今はただ、余計なことは考えずにひた走るしかない。
「どっちにしろこのままじゃ埒があかねぇなァ。おいっ、二手に分かれるぞ。数は減ったみてぇだが、それなりに人数いるからなァ。囮になってやらァ、しっかり逃げ切れや!」
 不死川の声に後ろを振り返れば、なるほど、いまだ追いかけてきているのは十人ほどだ。二手に分かれれば、さらに減る。子供たちがいるからこちらの手は割けないが、さっきの戦いっぷりをみるに、不死川なら一人でも五人程度に追いつめられたところで楽勝だろう。
「不死川兄、伝言! 家に帰ってるって言ってたぞ!」
 玄弥たちの名を意図的にはぶいたらしい錆兎に、不死川がニヤリと笑った。弱みになりそうな情報を握られることを避けたのだと、不死川にもわかったのだろう。この男も並みの中学生じゃない。
 宇髄たちと違って、不死川は出会ってまだ二度目だ。友達どころか、義勇からすれば知り合いとも言いがたい。だというのに、こうして義勇たちを助けてくれている。自分の弟妹だって危険にさらされるかもしれないというのにだ。面倒ごとに巻き込まれたことを怒るでもなく、今も義勇たちを守ろうとしてくれている。義勇はとうとう、どうして、と瞳を揺らした。
 わからない。なんでみんなこんな一所懸命に助けてくれるんだろう。あいつらが捜しているのは『冨岡義勇』なのだ。狙われているのは自分一人。宇髄や煉獄、ましてや不死川には、なんの関係もないのに。
 疑問は義勇に不甲斐なさを突きつける。まだまだ余裕がある三人にくらべ、早くも肩で息をしているありさまの自分は、なんて情けないんだろう。
「お気遣い痛み入るぜ。じゃあなァッ!」
「不死川っ、この借りはいつか返すぜっ!」
「はんっ、なにも貸した覚えなんざねぇよっ! それより下手こくんじゃねぇぞォッ!!」
「不死川さんっ!? 不死川さんも逃げないとっ!」
 炭治郎の心配げな声に義勇が振り返ると、不死川は立ち止まり、追手の進路をふさぐようにこちらに背を向け立ちはだかっていた。まさかと打ち消すには、不死川の意図はどう見たって明確だ。囮どころではない。一人で敵の足止めをしようとしてくれているのだ。
 木々の合間をぬっての追いかけっこだ。追手も一斉に襲いかかることはむずかしいだろうが、それでも一対十では不死川だって無傷で済むとは思えない。一人で敵に立ち向かおうとしている不死川に、義勇の胸が詰まる。どうして、と、また困惑が浮かんだ。
 けれど今口にしなければいけないのは、そんな問いかけじゃない。自分の情けなさを嘆くのも違う。今、自分が言うべき言葉は、きっと。
 義勇は、乱れて苦しい息のなか、精いっぱい声を張り上げた。
「ありがとうっ」
 ピクリと不死川の肩が揺れて、すいっと拳があげられた。任せろと応えるように、負けるなとエールを送るように、固く握りしめられた拳が告げている気がした。

「かかってこいやァッ!! まとめて相手してやるぜェッ!!」
「不死川っ、テメェもう逃げらんねぇぞ! やっちまえっ!!」

 乱れ飛ぶ怒号を背にさらに走れば、ようやく木立が途切れた。目の前には公園を取り囲むフェンス。宇髄の背よりは高いとはいえ、禰豆子でも手助けしてやればなんとか越えられそうな高さだ。
 これを乗り越えれば駅の近くまで遊歩道が続いている。ほぼ直線だ。ここでアドバンテージを稼げれば、万が一不死川が敵を取りのがしても、逃げ切れる。