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ワクワクドキドキときどきプンプン 3日目

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3:錆兎



「あぁ! やっぱりお似合いです! いやぁ、いいなぁ。うん、たいへんかわいらしい。まさしく僕が思い描いていた理想のヒロインです! こんな最高のヒロインが見つかったのに、主役がなぁ……宇髄くん、今からでも主役やりません? そちらの彼でも結構ですが。ヒロインと並ぶと絵になると思うんですけどねぇ。お似合いのカップルに見えますよ?」
 前田というゲス眼鏡が褒めちぎる言葉などまるっと無視して、しきりに服の袖やずり下がりそうな肩口を気にしている義勇は、たしかにかわいいと錆兎も思う。
 いや、女の子みたいだなんて口が裂けても言わないし、言ったら義勇が傷つくことはわかっているが……似合うものは似合うのだ。もうこれはしかたがない。見慣れない服の新鮮さが、よりそう思わせるのかもしれないけれど。
「冗談じゃねぇや。俺は顔で売りてぇわけじゃねぇんだよっ」
「俺も勘弁願いたい! 演技などしたことがないからな! しかし、冨岡はその……そういう服も、よく似合うな」
 煉獄がとまどうのも無理はない。
 荒く編まれた白いサマーニットは大きくて、義勇が着ると膝上十五センチ丈。ともすればミニスカートのようだ。袖もぶかぶかで、腕を下ろすと指先だけがちょこんとのぞく。襟ぐりもサイズが合わないせいで、義勇が身動ぎするたびに、ちらちらと鎖骨が見え隠れしてる。ニットの下は黒いタンクトップ。こちらはサイズがぴったりなのか、ニットから透けて見える体の線を強調していた。
 ふくらはぎ丈のブラックデニムはスキニータイプ。義勇の脚の形がはっきりと分かるチョイスだ。足元は素足にスニーカー。長い黒髪や整った顔立ちも相まって、申し訳ないけど……性別が迷子……。

 いやいやいや! 義勇は男だから! 俺の弟弟子で、正真正銘、男らしい剣士だから!

 わかっちゃいるが、むくれる顔もかわいらしいから困ってしまう。真菰はとっくに気持ちを切り替えたのか、大丈夫ちゃんと男の子に見えるよ、かわいい男の子って感じだよぉと、義勇をなだめている。
 女の子というワードを避けるのは同意だが、あまり慰めになっていないと思うぞと、錆兎は小さくため息をついた。
 炭治郎と禰豆子はといえば、こちらももう、いつもどおりだ。無邪気な笑顔で義勇さんかわいい、似合う、素敵とはしゃいで、義勇にとどめを刺していた。
 それを横目に見た錆兎は、もう、ため息すら出ない。

 そもそもゲス眼鏡の一言に、きょとんとした炭治郎と禰豆子が、義勇さんと映画に出られるの? と反応してしまったのがまずかった。いや、錆兎もまぁ、心揺らいでしまったのだけれど。きっと真菰も。
 だって、こんな機会は二度とない。義勇と一緒に映画出演。なんだそのパワーワード。
 当然のことながら、錆兎一人であれば映画出演など鼻で笑って相手にしない。ところが『義勇と一緒に』という言葉がついた途端に、なんとも魅惑的な誘い文句になってしまうのだから、恐るべし冨岡義勇。
 なんだか思考が明後日の方向だが、錆兎もかなり混乱しているのだ。どうしてこうなった? とは今こそ使うべき言葉だろう。まさしくそれしか出てこない。

 義勇と一緒に映画出演。この際だ、正直に言おう。出たい。出てみたい。スクリーンに映る義勇はきっとたいそう魅力的なことだろう。真菰や禰豆子だってきっとかわいい。炭治郎も愛らしいに違いない。自分は引き立て役だろうが、まぁそれはいい。みんなで過ごす初めてのゴールデンウィークの、いい思い出になること間違いなしだ。
 問題は、義勇の役どころが『ヒロイン』というその一点である。

 セリフはなし。なんなら笑わなくたっていい。義勇が出てくれるなら台本を変えるから。
 そこまで前田に言い募られ、炭治郎と禰豆子にキラキラとした期待の目で見上げられてしまえば、義勇が断れるわけがない。まぁ、前者についてはきっと、義勇にはどうでもよかっただろうし、錆兎とも完全無視を貫きたいところではあるが。
 それにしたって、なにがおまえをそこまで駆り立てるんだ、ゲス眼鏡前田。聞いてみたい気はするけれど、聞いたら最後と本能が訴えるのでやめておく。
 ともあれ、こうなってしまったからにはしかたがない。ヒロインの出演は回想シーンだけだし、この公園でのロケだけになると言うのなら、さっさと撮らせて買い物に行こう。


「本当は主役との絡みが欲しかったんですけどねぇ、ヒロインが魅力的なぶん、主役がみすぼらしく感じちゃいますから、しかたないですね。ストーリー的にはそれで正解って気もしますが、僕の感性が許しません。美しくない。子供たちとの絡みだけのほうが絵になりますし、そっちで映像的な美しさは挽回しましょう」
 もういっそ主役の出番なくそうかなぁ。などとぼやく前田に、宇髄が心底あきれた声で「それもう主役じゃねぇじゃねぇか……」とつぶやいていた。錆兎もまったくもって同感だ。見たこともない主役とやら、頑張れ。と、思わず心中でエールを送ってしまう。
「いったいどういうストーリーなんだ?」
 煉獄の疑問はもっともで、炭治郎たちも興味津々に前田に視線を向けていた。だが、決して近づかない。うん、わかる。俺も嫌だ。あと、義勇も絶対に近づけてたまるか。
「家庭不和やら学校での人間関係やらで疲れた主役が、森の中で出会った不思議な少女とのふれあいによって、平凡でもしっかりと生きていこうと心に誓う、ベッタベタのコッテコテな綺麗事ストーリーの予定だったんですけどねぇ。僕の趣味じゃないですけど、そういう安っぽくてお約束な青春ストーリーのほうが、学校関連のコンクールじゃ入賞を狙えるもので」

 うわぁ……ゲスい。

 錆兎と真菰や宇髄のみならず、煉獄の目にまでそんな感想がちらりと浮かぶ。いっそ見事なまでにゲスな前田に、そろって乾いた笑いすら出てきやしない。
「じゃあ今から撮るお話は違うお話になるんですか?」
「いえ、大筋は変わらないですよ。ヒロインは素人さんだし演技はできないとのことですので、主役との会話などは一切なくして、代わりに君たちと戯れあってるのを主体にします。主役は声をかけることもできずに、それをうっとり覗き見ているって感じですね」
 まぁ、そこらへんはどうにでも。後でおきれいな純愛ものっぽく編集しますよと、あくまでもゲスい前田に、純真そのものな炭治郎は素直に感心している。
「それじゃ、今日撮るのは冨岡とチビッ子だけになんのか?」
「そうですね。ヒロインの出番はこの公園だけにしますから、今日一日で撮りきっちゃいましょう。ってことで、カメラマンもそろそろくると思いますから、リハだけ宇髄くんのカメラでやっちゃいましょうか」
 俺のカメラでかよと宇髄はぼやくが、それでも反対する気はないようだ。さっさと終わらせたいのは宇髄も同感なのだろう。
 竹刀袋を全員煉獄に預け、ゲス眼鏡が言うままに錆兎たちは木立のなかで義勇を取り囲んだ。
「じゃあ、始めましょう。いつもしているのと同じでいいんで、みんなで遊んでください」
 そう言われても、さて、どうしたものか。
「遊ぶって言ってもなぁ」
「うーん……あ、ここ花がいっぱい咲いてるし、花冠作ろうよ。禰豆子ちゃん、作れる?」
「できるよ! 作ったら真菰ちゃんにあげるねっ」