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キスを5つ

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「さよなら」



 家を発つアーサーを玄関で見送る。
 菊は、このあとの客のために家を空けることができない。

「次にお会いするときまで、お元気で。それから、道中もお気をつけて」
「菊も、風邪とか引くなよ。そんなことになっても、看病どころか、見舞いすらこれるかどうか」
「その心配ならアーサーさんこそ、です。食事に気を使って、体調管理をしっかりなさってくださいね」
「それもそうか」

 そう言って笑う人を見て、あぁこれでしばらく会えないのだと気づいてしまった。

「そんな顔、するなよ。出るに出れないだろ?」
「どんな、顔してます?」

 じゃあ見てみれば、と額をくっつけるようにして、瞳に映る自分を見ろと言った。
 見れるわけない。そんなに近くに寄られたら、したいことは別にあるわけで。

「っ……きく」
「また、我慢比べのスタートですね。言いませんよ、“寂しい”なんて」
「別れのキスなんて、さっそく“寂しい”って言ってるようなもんだろ」
「いいえ、あなたがわが国を出てからがスタートですもから。さ、時間が迫ってます。お気をつけて」
「あぁ、またな」










END.
作品名:キスを5つ 作家名:ゆなこ