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【リリなの】Nameless Ghost

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従章 第十九話 XYZ



 アースラチームに与えられたの本局のミーティングルーム。大人数が収納でき、大規模な情報を処理できる演算装置がいくつも搭載された長テーブルの上座一つ下がる席に座るクロノはエイミィより提出された事後報告書と始末書の両方を眺め、深く溜息をついた。

「今回もまんまと……というわけか……」

 机に両肘をついて瞑目するリンディに代わりクロノが重々しく口を開いた。

「……申し訳、ありませんでした……私の責任です」

 エイミィはそういってうつむいた。彼女の目元は分厚い化粧に覆われ、普段の彼女の印象を覆い隠している。しかし、それでもまだ隠しきれない赤く腫らした頬を見て、クロノは彼女の無念を思いやる。

 今回も逃がしてしまった。それどころか、目標にリンカーコアという餌を与えてしまうという失態付きでだ。
 戦闘後、リンカーコアを抜き取られ気を失ったユーノとフェイトは直ちに本局の医務室へと搬送され治療を受けている。

 この二者の魔力により闇の書は相当量のページを稼いだだろう。

 このことが上層部に知れたとき、リンディはお偉方に、「これ以上捜査を続けることは、闇の書の手助けをするようなものだな」と皮肉をいただいたのだ。
 リンディはその嘲笑ともとれる笑みを思い出し口元にくまれた両手をきつく握りしめた。

 そして、何よりも現地協力者を負傷させてしまった。問題はユーノだ。フェイトはまだいい。彼女は嘱託魔導師として戦場に赴いたのだから、それは局員の失態として処理することが出来る。
 しかし、ユーノは局員ではない。アリシアのような正規の契約書を交わした協力者ではなくあくまでその立ち位置は現地協力者。故に、今回の治療に関しても局員の保証を適応することは出来ない。
 たとえ、ユーノのミッドチルダでの国籍は未だ生きているとはいえ、現在の彼は地球の移民であり、地球に国籍を持つ管理外世界の住民なのだ。
 管理外世界の国民であるユーノにかかる医療費がどれほどのものになるのか。

(そんなことはどうでも良いのよ。ユーノ君の治療費は、私が払えば良いんだから)

 リンディは考えたくない事より逃れるためにつらつらと回していた思索を打ち消し、目を開いて面を上げた。

「仮設駐屯所の状況は?」

 リンディの問いにエイミィが重い口を開いた。

「現在第三勢力のクラッキングによりシステムのおよそ4割が使用不能。サーバーのデータ自体は常時バックアップを取っていましたので無事でした。しかし、現状では非常回線を主回線に接続することでなんとか動かしている状態ですので……」

「駐屯所として活用することは無理……か」

 予想通りの結果にリンディは気づかれないように溜息をついた。

「それで、ユーノの様子は?」

 クロノは視線をエイミィからアースラの医療担当者に向け、特に負傷が酷かったというユーノの容態を聞いた。

「はっ、ユーノ・スクライアに関して本局の医務局の報告によると、リンカーコアに致命的ではないにせよ重大な損傷を受けたとのことです。これが、その最新の報告書、カルテになります」

 クロノは医療担当者から数枚になるカルテの写しを受け取り、報告書よりも詳細に記載された医師の所見に目を通した。

 その報告をかみ砕いて言えば、ユーノのリンカーコアは外部より過剰な魔力と圧力を受け、その形状に歪みが生じ、その外装にも数カ所の亀裂が確認されたということだった。
 再起不能の一歩手前。本来ならなのはのリンカーコアを抜く事が目的でなされた攻撃を彼のリンカーコアは正面からそれを受け止めたのだ。
 当然ながらなのはの魔力に合わせられたリンカーコア抜きの魔法がユーノのリンカーコアに適合するはずがなく、不適合の魔力がオーバーロードした。そして、なのはの大規模なリンカーコアを抜くために使用された魔力はユーノの彼女に比べれば小規模で強度も低いリンカーコアでは耐えられるはずもなかった。

 リンカーコアは魔導師にとって心臓と呼ぶべき器官だ。それでいて、現在においてもリンカーコアというものはそれほど解明された物ではない。よって、リンカーコアを直接治療する術を管理局は持っていない。

「覚醒後2週間のリハビリを行い経過を見る……か」

 今すぐどうなるという物ではないが、将来的に何かしらの後遺症を抱えることになるだろうという締めの文句にクロノは安心して良いのか嘆いて良いのか分からない感情をもてあます。

「なのはさん、辛いわね。責任を感じていないと良いのだけど」

 無理な話かしらねとリンディは思いながら、気が狂ったように泣きながら医務室に運ばれるユーノにすがりついていたなのはを思い出した。

「フェイトの様子は?」

 そして、今回の事件のもう一人の負傷者であるフェイトの容態もクロノは問いかけた。

「フェイト・テスタロッサに関しては全く問題はないとのことです。まだ目を覚ましていないようですが、数日もあれば全快するだろうと言われています」

 医療担当官の言葉にクロノは今度ばかりは胸をなで下ろす。リンディもそれは同様だった様子で、医療担当者に「ご苦労様」と労い、退出を許可した。

 担当者は「失礼します」と言い残し、ミーティングルームを後にして仕事に戻る。

「事実上、アースラは戦力の半分を失ったと言うことになりますね、艦長」

 フェイトとユーノ、戦力の主軸とされていた二者が負傷ししばらくの戦闘は不可能と診断された。そして、その一翼であるなのはも現状では戦力と数えられないだろう。
 残された戦力は、本局より借り入れた一個中隊分の武装局員とアースラの切り札とされたクロノ一人。PT事件の当初に戻ったと言えば聞こえは良いが、相手は手練れの複数の騎士と破壊の権化であるロストロギア闇の書、そして未だ全容がはっきりとされていない第三勢力。半年前の事件に比べ、対処するべき敵が多すぎる。
 それでもなんとかならないことはないだろうが、そのためには相応のリスク、ともすれば全滅さえも覚悟しなければならない状況が待ち受ける。

 アリシアならこの状況を見て「ここまでくるとむしろ清々しいな」と笑い飛ばすだろうかとクロノは思う。

「決定を伝えます」

 そんなクロノの思考をリンディの凛々とした声が打ち切った。
 うつむいて今にも泣き出しそうなエイミィと陰鬱な感情を隠しきれないクロノは面を上げ、リンディにしっかりと視線を向ける。

「これよりアースラは係留をほどき、抜錨後地球へと向かいます」

 駐屯所が使用不可能であるのならアースラをひっさげて持って行くしかない。すでに、リンディはこの状況を予測し、上層部へアースラの管理外世界への渡航許可を所得し、ドックに係留中のアースラも急ピッチで再艤装が行われているところだ。

「海鳴仮設駐屯所には最低人員のみを残して撤収。以後の捜査、および作戦指揮はすべてアースラにて行うこと。全クルーにこれを通達、以後別命あるまでアースラにて待機。駐屯所に残す人員の選定はリミエッタ管制主任に一任とします」

 名前を呼ばれたエイミィは奥歯をグッと噛みしめ、「はっ」と直立してリンディに敬礼を送った。