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【リリなの】Nameless Ghost

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遷章 第一話 Grave



 ミッドチルダの首都。クラナガンの町並みは行き交う人の数も少なく、濁った星空の元静寂に近い空気を保つ。
 年の終わり、聖王崩御の日とされた鎮魂祭。地球で言う聖者の聖誕祭であるクリスマスより数日さかのぼるこの日は、ミッドチルダにおいてもっとも静かな夜とされた日だった。

 今頃フェイト達は高町の家で晩餐を堪能しているだろうか。なのはの実家高町家は、数日後に控えたクリスマスの夜は一年のうちで最大の忙しさを誇る日だという。故に彼らは毎年クリスマスの数日前にあらかじめパーティーをしてしまうのだとなのはは楽しそうに話していた。

 クリスマスには身内にプレゼントを贈るのが習慣であると聞き、アリシアは事前にクロノに頼んでフェイト、ユーノ、なのはにプレゼントが渡るようにしていたのだった。

(あの子達は喜んでくれたかな?)

 いや、喜ぶと言うよりは驚く方が大きいかもしれないとアリシアはそんなことを思いながら、荘厳な雰囲気の漂う礼拝堂にただ一人腰を下ろし、分厚いコートを抱きかかえるようにたたずむ。

 クラナガンと管理局本局をつなげる長距離用トランスポーター。その施設のもっとも近隣に位置する礼拝堂においても、今日この日にここを訪れるものは少ない。多くの本局局員は鎮魂祭の日にも次元世界の平和を守るために奔走していることだろう。アリシアの保護者であるリンディもその息子のクロノも、それ以下アースラの全乗組員も同じこと。誰もが闇の書の無事な回収と事態の収束を願っている。

 ならば自分はどうしてこんなところにいるのかとアリシアは自問する。

(結局、逃げたかっただけなんだろうね)

 どうしようもないこと。ただの個人では動かせない世界。たとえ巨大な武力と組織を持っても逃れられない運命を見通し、ただそれを見たくないと思っただけなのだろうとアリシアは自己分析を終えた。

 今頃ベルカ教区自治領では一年でもっとも大きく、そして厳粛な儀式が静かに執り行われている頃だろう。
 聖王崩御の鎮魂祭は聖王教会にとって最も重要な行事であり、他方では古代戦争終結の記念日ともされている。
 日没とともに鎮魂歌が鳴り響く礼拝堂においてもその厳粛さの一片を感じることが出来、アリシアは目を閉じ、心の内に聖王とともにかつて散っていった者達への祈りを捧げた。

 礼拝堂の中央にそびえる大聖剣十字の背後を彩るステンドグラス。そのきらびやかな象徴画の上方に備えられる小さな小窓には双子の月が寄り添うように浮かんでいる。

 アリシアはその双月を痛む胸を抱きながらただ見上げる。言葉にならないため息が白霧となって天井へと浮かんで消えた。

 今の人々は、あの月を見上げるとき、果たして自分ほどの感傷を持って見上げるのだろうか。アリシアは今となっては忘れ去られた二つの月の輝く夜の意味を思い抱く。

 かつて、ミッドチルダと古代ベルカが戦争をしていた頃。かつての旧ベルカ領首都ゼファード・フェイリアにおいてもここと同じ、双子の月が夜空を彩っていたものだった。
 しかし、かつての人々、ミッドチルダにせよベルカにせよ、その両方の月が満ちる夜には誰も出歩かず、ただ家にこもり月を見上げて祈りを捧げていた。

 月は巨大な墓石なのだ。そこにはかつての戦争によって死んでいった者達が今でもなお埋葬されている。いつまでも風化することなく、月の最後の時まで彼らはそこにいる。

 故に、アリシアは今となっても月の満ちる夜にはあまり外を出歩かないようにしている。なぜなら彼女の前世、ベルディナはその戦争において多くのミッドチルダの民を殺し、多くの仲間同胞達をミッドチルダの民によって殺されているのだから。

 今、彼女が見上げる月にも彼がかつて殺してきた者達の魂が宿っている。月は死後の世界への扉であり、人は死ねば月へと導かれる。

「私は、いつまでも地べたをはいずり回るゴーストだね」

 何度そういって彼女/彼は自身を嘲(わら)っただろうか。

「何度もこうして繰り返さないと誓って……だけど、繰り返し続けた」

 死なせないと誓い、その誓いを果たせず大切な人たち失い、そして次こそはと誓い、同じ事を繰り返す。それでも彼はその最後の最後にその誓いを果たすことが出来たはずだった。
 その身をもって彼は守られるべき少年を守り、そして時空間の海へと散っていった。それで良かったはずだ。それで終わることが出来たはずなのだ。
 その結果、助けられた少年に一生残る傷を与えることになろうとも、彼は満足して終えることが出来たはずだったのだ。

「どうして、私は続いているのか……運命の神は私に何をさせたいのか。その答えがずっと分からなかった。だから、これはただの余生だと思っていた。このまま緩やかに死んでいくまでのたった数十年間の余生。だから、せめて最後は楽しくやっていこうと思った。それ以外に、今の自分の有り様を定義する事なんて出来なかったから」

 彼女は語りかける。月に眠るかつての同胞達、敵でありながら互いに認め合い求め合って戦った多くの人々へと彼女は語りかける。

「ベルディナとしての一生は終わった。アリシアとしての一生はすでに終わったものだった。だから、私はその燃え滓としてやっていければ良いはずだったんだ」

 しかし、気がついてしまった。
 無限書の膨大な情報に触れるうちに彼女はそれに至った。
 そして、そこから導き出された答えは、自分と同じ仲間を失って生きる意味を見失いかけた人物の像だった。
 彼は、何を持ってそうすることを決意したのか。

「だけど私は、ベルディナの一生がまだ終わっていない事に気がついたんだ。闇の書……夜天の魔導書のことがまだ残っていた。全く300年も何をしていたんだか。まだまだこの世界にはやり残したことがあるみたいだ」

 闇の書が夜天の魔導書の暴走体であること。古代ベルカに編纂され、名前のない旅する魔導書に夜天の名前が与えられ、そしてその最後の使用者もろともこの世から消え去って以来それは滅びることなく世界に災いをまき散らし続けている。

「だけど、私は結局は無力だったよ。あれだけの情報を抱えながら、結局は繰り返させない手段を得ることはかなわなかった。今度ばかりは、し損じるわけにはいかないというのに……」

 しかし、アリシアは結局のところその災いを沈静化させる確固たる方法を得ることはかなわなかった。
 もう少し時間があれば、自分自身の魔力や体力に余裕があれば。せめて、身体年齢が後5年はあればと思ってもそれは詮無いことだ。

「私を導いてくれ、メルティア」

 そして、アリシアは目を閉じ右手を握り胸の前に当て、「ルーヴィス」と祈りの言葉を空へと贈った。

「まさか君がここにいるとは、意外だったよアリシア君」

 瞑目し思案にふけるアリシアは突然頭上より降ってきた言葉にそのときまで気がつけなかった。
 アリシアははじかれるように面を上げ、最近になってさらに視力が落ちた目をこらし、そこに立って自分を見下ろしている人物を認識した。

「……グレアム提督……」