うみねこ島の夜
これは初めての感覚ではないのだった。サンゴロウはいつもなにかに囚われていて、同時になにからも自由だった。元気でいてくれればそれでいいという気持ちは本当だけど、サンゴロウにとっての俺、俺にとってのサンゴロウ、というものについて考えないわけでもなかった。友達だ。大切な。だけど、サンゴロウには海があって、マリン号があった。船乗りとしての暮らしがあった。俺には病院があって、患者がいて、医者としての暮らしがある。サンゴロウが俺を訪ねて来てくれるとき、俺はいつもうれしくて、それでも同時に寂しさとも悲しさとも怒りとも言えない、腹の底がじりじりと焼けつくような感情を覚えるのだった。なんとも言えない負の感情だ。俺はそれをいつも押し隠して、やあサンゴロウ、久し振りだねと言って笑うのだ。