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Don't cry for me Amestris

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 エドワードは驚いてラストとエンヴィーの双方をちらちらと交互に見る。なんだか怖い。が、割って入るにもどうしたらいいか…、
「うるせえなあ、なんだぁ?」
 やはり欠伸をしながら、今度はグリードがやってきた。彼は一度厨房の内と外とを見て、すぐに事態を理解したらしい。
「おい、エディ、いいぞあんまし気にしなくて。こいつら仲わりいんだ」
 グリードはもう一度欠伸をして、つかつかとエドワードの隣まで歩み寄ると、よいしょ、と荷物のように肩に担ぎ上げた。
「うえっ?」
「いいんだいいんだ、やらしとけ。おいラスト、エンヴィー、暴れんなら外でやれ外で」
「ちょっと、グリード、エディはおいていって」
「やだよ。お前また化粧だの着せ替えだのする気だろ? こいつは人形じゃねんだぞ」
「でもあなたのチェス相手でもないわ」
 担ぎ上げられたままのエドワードはさらに複雑になった状況になんと言えばいいのかわからなくなるが、はた、と壁掛け時計が視界に入ってきて我に返った。
「グリード、おろして」
「あーん? なんでまた」
「お昼だ」
 時計を指差して真面目な顔で言ったエドワードに、三人分の視線が集中する。居心地悪い思いを味わいながらも、エドワードはきっぱりと主張した。
「昼だから、昼飯作るから、おろして」
「……おまえはしっかりものだよ、ほんと」
 グリードはくつくつと笑いながらエドワードをすとんとおろした。
「何作ってくれんだ?」
 そのまま隣で手元を覗き込むグリードの顔は見返さず、エドワードはしばらく考えた後答えた。
「オムレツ」
「俺半熟! 半熟な!」
「私はホワイトソースがいいわ」
「…おまえらこづかいやっから外いけよ、うるせえし」
 途端にグリードの反対側から上がった二人分の声に、グリードが呆れた調子で答える。
「グリード、他の皆は?」
 卵を数えながらのエドワードは、ラストとエンヴィーには何も答えずグリードに尋ねる。すると、んー、と彼は頭を振って、しばし考えた後答えた。
「ドルチェットとロアはちっとばかし遠くに用事あるからな、夕方まで帰ってこねえんじゃねえか。マーテルは…そんなに遠くじゃないからな、昼には帰ってくるかもしれねえが」
 他は夜まで帰ってこねえんじゃねえかな、というグリードの答えを受けて、エドワードは黙って、指折り何かを数え始める。
「エディ?」
「ラストごめん、オープンオムレツにする。ホワイトソースはまた今度」
「プレーンオムレツじゃねえのー?」
 口を尖らせるエンヴィーの頭を、グリードがぽかりと叩いた。
「うるせえ、文句あんなら外に行け」
「…ねえよ」
 エドワードは腕まくりしながら笑った。

 エドワードが昼を作っている間、それはそんなに長い時間でもなかったが、グリード、ラスト、エンヴィーの三人は笑いもなく顔をつきあわせていた。
「どんなもんだったよ?」
 長らく空けていたエンヴィーに水を向けたのはグリードだ。それに、エンヴィーは首を振った。
「まあ、馬鹿なお坊ちゃん奥様方からはしぼりとらせてもらったからいいんだけど、アホな連中だよねー実際」
 デビルズネストというかグリード一家というべきなのか、彼らはいわゆるその道のプロというやつの集まりだった。皆事情があって表を歩けなくなった連中だが、とにかく腕は確かである。
 今回エンヴィーが長く空けていたのは、彼が単独である仕事を請け負っていたからだ。…殺しの。
 若い愛人に入れあげて家に帰らないという当主を、外聞が悪いから病死に見せかけて殺してほしいと依頼してきたのはその奥方と、早く跡目を継ぎたいその息子だった。なんとも殺伐とした話だし、そもそも馬鹿馬鹿しすぎて失笑ものだが、仕事は仕事だし金は金だ。
「まあ、仕事の方は特にな、お前のこったから、しくじりはしねえだろさ。で、ついでに国境見てきたんだろ? どうだったよ」
 この国、アメストリスは隣に強国を控えている。今回エンヴィーの仕事に時間がかかったのは、仕事のついでに国境付近を見てくるという別の用件があったせいもある。これは単純に情報収集のためで、グリード達のような集団にとって情報は時に何物にも換え難い力であったから、気にするのは当然のことだった。
「ま、半年前と特に変わらず、かな。ただちょっと、小競り合いは増えてるみたいだけど」
「ふん…」
 腕組みしてひとつ頷いたグリードに、ただ、それよりは、とエンヴィーが付け足す。
「どっちかってーと、炭鉱の連中のがやべーかも」
「あ?」
 エンヴィーは意味ありげに笑った。
「ありゃ、押さえつけんのもそろそろ限界近いんじゃないかなって俺は思ったね。税金はたけーわ給料は下げられるわで、まずいねぇ」
 くつくつと楽しげに体を揺らしたエンヴィーに、相変わらず趣味の悪い子ね、とラストが冷たく言う。そんなラストをじろりとにらんでから、咳払いをしてエンヴィーは話題を変えた。
「…ところで、あのおチビちゃんはさ、どうすんの。俺らのことはどこまでわかってんの?」
 グリードは軽く目を見開いて、まじまじとエンヴィーを見た後ラストを見た。ラストは無言で首を振る。そのやりとりに、エンヴィーは眉をしかめる。
「なにそのリアクション。相変わらずあんたら仲良いね」
 このエンヴィーの発言には、グリードからは拳が、ラストからは蹴りが飛んできた。身軽に椅子の後ろに回転して難を避けてから、エンヴィーは続ける。
「だってめっちゃくちゃカタギじゃない。いいわけ?」
「イズミからの預かりもんだし、本人も頑固なんだよ」
 グリードが溜息混じり首を振れば、ラストも溜息をついた。
「まあ、頑固はそうね」
「……でも身内にはしないんだ?」
 二人が気に入っていることを読み取って、エンヴィーは次を尋ねた。すると、二人は揃って顔をしかめた。
「冗談じゃねぇ、んなことしたらイズミにぶっ殺されるぞおまえ、俺は止めねえけど」
「うわっ、笑えない冗談やめてくんない? それ、殺されるよりひどい目にあわされそうじゃん」
「そうねえ、イズミ、容赦なく厳しいものねえ」
 ほほ、と笑うラストにエンヴィーは溜息をついて髪をかきあげた。…つまり、この兄貴分、姉貴分達はしっかりあのチビが気に入っているらしい。どうしたもんだかね一体、と思いながらも、エンヴィーにもその気持ちはわかるから、それ以上の追求はせずに椅子に座りなおした。
「…そもそもあいつには、あいつの目的があるからな」
 不意にグリードが声のトーンを落としてそういえば、エンヴィーは怪訝そうに首を傾げる。
「あいつは母親の仇を追ってここまで来たんだ」
「…!」
 エンヴィーは息を飲んだ。陰のない少女だと思ったが、ただそれだけでもなかったのだとそれで初めて知る。
「――でも、見つからなければいいのにって私たちは思っているのよ」
 ラストも真面目な表情で呟くように言った。
「…見つけたら、どうする気なんだ?」
 グリードは低く答えた。お前の思ってる通りだろうよ、と。
 エンヴィーもまた目を伏せて考える。
 エドワードが誰かを殺す。殺したら、自分達と同じお尋ね者になる。そうしたら居場所はないだろう。望むと望まざるとにかかわらず、自分達の場所にいるしかなくなるだろう。
作品名:Don't cry for me Amestris 作家名:スサ