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Don't cry for me Amestris

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 だがそう言ったら、グリードには鼻で笑われエンヴィーには呆れられた。ラストに至っては、腕によりをかけるチャンスなのに寂しい事を言わないで頂戴、とまで言われた。
 咄嗟に何も返せないでいたら、マーテルとドルチェットが説明してくれた。どのみち自分達には何の害もないし、あったところで、火の粉は振り払うだけだと。それを言うなら、自分達とのつながりが明るみに出て困るのはエドワードの方なのだと。
 確かにそれはその通りだった。
 いくら庶民に人気の「エディ」といえども、裏社会の一家に世話になっていますと正面から明かすのはあまりよろしくない。人気が高いということは、それが失われたときの反動も大きいということだからだ。
 もっとも、グリード達の手は広く名はその筋では売れていて、だから、もしもエドワードにそんな危害が及ぼうものならどうなるか、報道関係者はよくわかっているはずだった。彼らはある意味そうした裏の社会に近しい場所にいるから、純粋な暴力というものにも敏感だ。
 結局、ラストとマーテルに付き添われて撮影に出向き、彼女は渋々、じゃあ裏面なら、遠くからなら、ということで顔を写すことに同意した。少女の後ろで妖しい魅力を振りまくラストや、美人だが凄みのあるマーテルに圧倒されたカメラマンが、エドワードの要望を無視することはなかった。本能で危険を覚ったのだろう。大事な能力だ。
 とにかくそうした理由でエドワードの顔は明らかにされた。
 それが、彼女が元々セントラルにやってきた理由である母親の仇探しに思わぬ展開を与えることになるのだが、それは誰も想像していなかったことだった。

 エドワードがセントラルへやってきて、一年近くが経っていた。
 少しずつ顔が売れ始め、そろそろデビルズネストに置いておくべきではないのではないか、という話がファミリーの中でも出始めていた。皆がそれだけ、彼女のことを妹のように愛していたからだ。
「そうね、あの子に変な噂が立ったらかわいそうだわ」
「ラストみたいなんだって勘違いされたらそりゃかわいそうだよね」
 エンヴィーの軽口にはナイフが飛んできた。相変わらずだ。
「でも、この辺の連中はんなこと外に言わんでしょうけど、この辺で知られてるのも確かです。いきなりひとりにしたら、それこそ皆放っておかないんじゃないすかね」
 ドルチェットが真面目な顔で口にすれば、それも確かにその通り、と皆が唸る。本当に、この一家はいつからかあの少女を中心にまわるようになっていて、おかしい限りだとエンヴィーは思った。
「…外に出すのはかまわねえと思うが、…連中を消すのが先だろ」
 それまで黙っていたグリードが、ナイフを磨きながらぽつりと言った。ソファにひっくり返る彼に、視線が集まる。
 ――エドワードが元々追っていた彼女の母親の仇。
 それは実はもう目星がついていて、後はどうやって消すか、というところまで来ていた。グリードにしてもラストにしても、エドワードの手を汚させるくらいなら、仇の方を闇に葬って、エドワードには彼らは死んだという事実だけを教え、諦めさせるのが一番いいと考えていた。
「今だって、あいつは忘れちゃいねえよ。日中探し回るのも、やめたわけじゃねえしな」
 エドワードの行動は凡そ筒抜けになっていた。何しろ、彼女がイズミに師事して普通の少女とは程遠かったとしても、こちらはそうしたことの玄人なのだ。見抜けないわけがなかった。
「…めんどくせえの。俺行ってさくっとやってこよっか?」
「相手がよ、めんどくせえことにどこぞのえらいさんの屋敷に引っ込んじまってんだよ」
 出来れば、街中に出てきたときにでも、物取りにでも見せかけて殺してしまうのが一番いい。グリードの見解はそのようなものだった。だが、家の奥深く、まして特権階級の大きな屋敷の奥に引っ込んでしまったとあっては、そうそう簡単には手も出せない。
「火事にでもなればいいんじゃん?」
 エンヴィーははつまらなそうに言った。
「それじゃ本人納得しねえよ。本当に死んだかどうか証拠が残らねえんだから」
 真面目腐った顔で返したグリードに、エンヴィーは溜息をついた。
「じゃあどうすんだよ」
「だから、それを考えてんじゃねえか」
 アホか、とグリードはエンヴィーに磨いていたナイフを投げつけた。慣れた様子でそれを避け、こいつらエディがいねえとほんと態度違うな、とエンヴィーは思う。
 今彼女は、マーテルに付き添われて(一番見た目として問題がないので、彼女が付き人をしていた)収録に行っているから、ここにはいないのだ。
「でも、早く決めないとまずいんじゃねえの? まあ、俺はどっちでもいいけどね、あんたらと違って」
 少年というよりは青年というのが正しい様子になってきたエンヴィーは、頭の後ろで手を組んで言ってやった。幼い日から数えて既に罪科は両手の指では足りない生粋のアウトローであるエンヴィーにとって、母の仇を追っているとはいえ、エドワードは随分ときれいな存在だった。それをそのままにしておきたいとグリードやラストは考えているようだったが、エンヴィーは、どちらでもいいと本当に思っていた。
 彼女が自分達の方に陥ちてきてくれるなら、それもまたいいものだろうと。そう思っているのだ。
「あいつ、あんたらが思ってるよりずっと行動力あるんだぜ?」
 エンヴィーの指摘に、グリードもラストも、居合わせた全員が沈黙した。確かにその通りだと誰もが気づいていて、不意に皆が胸騒ぎを感じたのだ。それは、何かの予兆だったのかもしれない。
 結局は、後手に回ることになるのだけれど。


 副官にせっつかれて、後援者のひとりに加わってくれるそうだ、という作曲家を訪ねた帰り、ロイは、たまたまラジオ局の近くを通りがかった。
 エディのレコードは発売後すぐに売り切れが続出し、いまだかつてない勢いで蓄音機も売れているそうだ。生産が間に合いません、まさにエディ様様だ、とあるメーカーの社長は話していた。彼もまた、ロイの後援者のひとりである。
「…」
 ふと足を止めて建物を見上げてしまったのは、ちょうどエディのことを思い出したからに他ならない。
 作曲家は話していた。あの子の音楽は暖かい。いつかあの子に弾いてもらえるような曲を作りたいものだ、と。それが、どうしたって話題があまりなかったので彼女の名前を会話に出したときの相手の反応だった。権威ある音楽家だと聞かされていたが、どうやらそれだけでもないらしく、聞けば彼もまた貧しい家の生まれだったのだという。だからこそ、ロイを応援してくれると約束してもくれたし、エディにも興味があるのだろう。
 …あの橋の上で、途方に暮れたような顔をして街を見ていた顔を、ロイは今でも思い出すことが出来る。
 その少し前から彼女のことは見ていた。誰もが見て見ぬふりをしていた軍人の横暴から女性を助け出したあたりから。本当は止めようとしていたのだが、先を越されてしまったわけだ。あの時の軍人たちは、既に処分し、辺境に送り込んである。万に一つも少女に報復することはありえないだろう。脱走は特に厳しく取り締まられる場所だ。
作品名:Don't cry for me Amestris 作家名:スサ