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Don't cry for me Amestris

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「へっ、…あ、へい」
 突然指名され、すばしこそうな男が前に出てきてラジオのチューニングをあわせ始めた。間もなく、音はクリアになる。
「ドルチェット、すごいなあ」
 白い娘が屈託なく褒めれば、へへへ、と男はまんざらでもなさそうだ。今度はグリードとエンヴィーと、ついでに後ろの方にいた大男が咳払いをする。そのことに肩を竦ませて、ドルチェットは慌てて後ろに下がってしまった。
「……」
 やがて店内はしんと静まり返る。
 誰も口を開かず、白い娘を気遣うように見つめていた。彼女の左右の隣は、黒髪の妖艶な美女と、短い髪を後ろになでつけた、少し唇の厚めな女性が固めている。
「…ぁ、」
 ざざ、という少しのノイズの後。聞こえてきた男の声に、娘から小さな小さな声が零れる。だが誰も何も言わなかった。

『親愛なる、アメストリスの皆さん』

 ラジオを通しても、男の声が沈んでいることはわかった。

『…私はこんなに悲しい日が来るなんて、今まで考えたこともなかった』

 彼の会見を聞くために集まっている人々の、すすり泣きのような声だけが聞こえる。そして、彼の声はゆったりとしていた。まさしく、悲しみをこらえるためとしか思えないような様子で。

『もしも神がいるのなら、私に彼女を返してほしい』

 娘はぎゅうっとショールの裾を握り締めた。それを、隣から女性の手がそうっと包む。

『皆さんもご存知の通り、彼女は今朝、息を引き取った。私は彼女の最後の言葉を皆さんに伝えたいと思う』

 すう、と息を吸うような音をマイクは拾って。

『どうか、私がいなくなっても泣かないで。私はいつも、あなたの心の中にいるから。いつでも、そばにいるから。私のことを、いつでも思い出して』

 大きな泣き声が、もはやそれは声などというものではなく、ひどく大きな波のような音がラジオから伝わってきた。いや、ラジオだけではない。店の外からもだ。彼らも皆ラジオを聞いていたのに違いない。

『これから流れる曲は、彼女が最後に、書き上げた曲だ。タイトルはついていなかったから、…夫の特権で、私が名づけさせてもらった。…タイトルは、"Don’t cry for me, Amestris"』

 そして一曲のピアノ曲が流れ始める。最初で最後の、彼女が書き上げた曲が。

「――さようなら、私の、白い薔薇」
 最後の言葉を静かに口にして、マスタングは瞳を閉じた。そうして、胸に挿していた一輪の白い薔薇を空へと投げる。その手は、刺が落とされていなかったのか、赤く染まっていた。
 いつしか空からは白いものが舞い始め、あたりをしずしずと冷やしていった。何もかもを白く染め抜こうとするように。

作品名:Don't cry for me Amestris 作家名:スサ