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Don't cry for me Amestris

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 彼らを頼っていいわけがなかった。彼らは、自分を思って自分との縁を切ったのだ。エドワード自身は彼らとの縁を切ったつもりはなかったが、実際にはそうだった。エドワードは結局、ロイを選んだのだ。
 だが、他に手段がない。
 エドワードは顔を上げて、目立たない黒い私服に着替えた。そうして、最近はずっとそうしていた三つ編みをほどいて、以前のようなポニーテールにする。家の周りは護衛兵が固めている。だが、エドワードから見ても、それは隙のあるものだった。そうはいっても相手は一応プロだ。ロイだってホークアイだって、エドワードの護衛にぼんくらはよこさないだろう。
 少女は顎を引いて、両の頬をたたいて気合を入れた。
 エドワードの勘は、今動かなければ後悔すると告げている。だから、賭けに出る。それだけのことだった。

「おやおやー、どこにいくのかなっと」
 まんまと家を抜け出して駆け出したエドワードの背中に声がかけられて、少女ははっと身構えた。瞬時に距離を置く判断は無意識のものだろう。その反応に、声をかけた方は口笛を吹いた。
「…エンヴィー!?」
 身構えて攻撃に備えたエドワードから飛び出した声に、エンヴィーは笑った。
「そ、ご名答。…で? 白薔薇さんはどこに行くのかな、そんな変装して、護衛のひとりも連れないでさ?」
 エドワードは唇を噛んで一瞬目を眇めてから、覚悟を決めたようにひとつかぶりをふって、そうしてエンヴィーを真っ直ぐに見つめる。その視線の強さがかわらないことに、エンヴィーは目を細める。
 どんなご大層な名前を捧げられようと、この少女はいつまでも自分達が知る「エディ」なのだ。その本質は変わることがない。それを知って、エンヴィーは心なしか嬉しくなった。
「大佐がいなくなった。たぶん、戦闘だと思う。…残党が集まってるらしいっていうのは聞いてたから。…あいつ、オレのこと置いてった!」
「…」
 エンヴィーは顎を擦った。そりゃ置いてくでしょ、とは内心の感想に留める。むしろそうほいほいと連れて行くような男だったらこっちも困る。普段のあのエディを革命の象徴にするようなやり方だってこちらとしては眉間に皺がよるようなものだったのだが、エドワードが押し切った面もあると想像がついていたので放置していたのだ。しかし戦闘にまで押し切られて連れて行くようでは困る。託した意味がない。
「…こんなこと頼んじゃいけないってわかってる、わかってるけど…ドルチェットなら、電波、ラジオの…わかるって前に、だから」
 エンヴィーは腕組みして、うーん、と唸った。そうして、縋るような目で見ているエドワードの肩を、ひょいと抱き寄せる。少女からは驚いたような声が上がったが、特に怖がったり警戒したりはないらしい。
 男として意識されていないのは勿論だが、普段近くにいる「大佐」にもそうしたことはされていないのか。抱きしめられるくらいはありそうだが、その先はないのだろう。多分。でなければもう少しくらい何か反応があってもおかしくない。
 噂は噂だけなのか、彼女に対しては誠実なのか。それはよくわからないけど、とエンヴィーは腹を括った。
「…俺らさあ」
「…、わ…!」
「おチビが来て、そりゃもうすごく変わったわけだよ」
「チビっていうな!」
「いてっ。…ふん、かわんねえな」
 エンヴィーは楽しげに笑って、エドワードを放した。
「いいぜ」
「…エンヴィー?」
「大佐を助けに行きたいんだろ」
 うん、と頷いたエドワードの頭をくしゃりと撫でて、エンヴィーは困ったように苦笑した。
「二時間待て。その間に、ちゃんと支度しときな」
「…エンヴィー? なに…」
「俺らに任せとけ。お前をちゃんとあの大佐んとこに連れてってやるから」
 器用にウィンクして、エンヴィーはエドワードの手をとった。そして、気障な仕種でその甲にキスをする。エドワードはぽかんとして、年の近いファミリーの仲間を見た。
「じゃあな。…エディ」
 エドワードは暫し呆然としてその去っていく背中を見守った。
 二時間、というリミットを胸に刻みつけながら、エンヴィーがここにいた理由を考える。理由などひとつしか思い浮かばなかった。
 ――デビルズネストの面々は、ずっとエドワードのことを守ってくれていたのだ。エドワードが気づかなかっただけで、彼らはずっと傍にいてくれたのである。
「…バカ兄貴達が…!」
 あらお姉さんもいるでしょう、と形だけ怒ってみせるラストを想像しながら、エドワードは顔を抑えた。泣いてしまいそうだったから。

 そして、約束の二時間後。
 言われた通りいつもの白い軍服に着替え、きちんと三つ網をして静かに待っていたエドワードの耳に、護衛兵が慌てて飛んできた。
 デモ隊が家の周囲に集結している、と。
 エドワードは瞬きした後、にこりと笑い、護衛兵の度肝を抜いた。そして、こう口にしたのだ。
「それはみんな、わたしの兄弟だから」
 え、と呆気にとられる兵士の前を通り過ぎて、エドワードは背筋を伸ばして歩く。外に出れば、旗やら古めかしい武器を手にしたデモ隊が確かに集まっていて、「エディ」の登場に歓声を上げる。そして、エドワードの視界には、エンヴィーとドルチェットの姿が飛び込んでくる。さすがにこの場で彼らを指名手配の凶悪犯とは判じられないらしく、兵士達は気づいていないようだ。
 エドワードは、ふたりに近づいた。
「二時間かっきりだろ?」
「場所は、セントラル郊外二キロ地点」
 抱きつきたいのをこらえて、エドワードは、二人の手をとりぎゅっと握った。
「ありがとう…!」
 エドワードの後ろでどうしたものか迷っている護衛兵に向けて、エンヴィーがにやりと笑い、声を張った。
「俺達これから郊外に行くんだけど、おたくらはどうするわけ?」
 護衛兵たちのリーダーらしき男の顔色がさっと変わったのを見て、やっぱりこいつらは知ってたな、とエンヴィーは目を細める。彼らはロイがどこにいるか知っていて、かつ、エドワードにはそれを知らせるな、という指示を受けているのだろう。よくしつけたもんで、とはエンヴィーの偽りのない感想だった。
「――多分、最後の戦いなんでしょ?」
 エドワードもまた後ろを振り返り、真っ直ぐに見つめながらそう尋ねた。兵士達が詰まってしまって互いに顔を見合わせる。
「こんなところにいて、いいの? 一緒に戦わなくて、いいの?」
 デモ隊は相当な人数がいるようだった。全くの民間人とはいえ、彼らはみな、エドワードの私兵も同じだ。これだけの人数がこの少女のために集まるとは、敵も、味方でさえ想像していなかっただろう。
「…一緒に、いきましょう!」
 民間人に負けるなんて、軍人としてのプライドが許さない。
 護衛兵たちが銃剣を天に捧げて鬨の声をあげれば、それに呼応してデモ隊が声をあげて、セントラル中が揺れた。


 戦闘は膠着状態に陥っていた。
 旧体制の残存兵力は完全には終結していなかったが、資金源の豊かさから、彼らの持つ武器は、新体制側の性能により勝っていたのだ。
 本営で各所の報告を聞きながら、ロイ達首脳陣は作戦を立てては替え、立てては替えしていた。だがとにかく負けるわけにはいかない。ここが正念場だという思いが誰の胸にもあった。
作品名:Don't cry for me Amestris 作家名:スサ