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Don't cry for me Amestris

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 戦闘の開始が夜明けだったから、そろそろ半日が過ぎようというというところで、本営に、先陣からの切羽詰った報告がもたらされた。
『…セントラルから、民兵が!』
「…民兵?」
 ロイは眉間に皺を寄せて繰り返した。その感想は本営に詰めていた面々に共通の思いだった。民兵が組織されたなんて話は聞いたことがなかった。あるとすれば、…
「…まさか、」
 ロイは顔色を変えた。それこそ、まさか、だ。行き先を告げずにいれば、戦闘の情報が入らないようにすれば平気だと思っていたのに、まさか…。
『先頭は、…先頭にいるのは、エディです!』
 悲鳴のような報告に、ロイは手で顔を押さえて天を仰いだ。
 ――やられた。完全に!

 曲がりなりにも、相手はプロだ。普通に民兵が対抗しても、勝負にはならなかっただろう。しかし、膠着した戦況をひっくり返す契機としては有効だった。また、鬱憤というのなら誰よりもデモ隊が一番もっていて、それを公に晴らしていいといわれたのだから、やる気も違う。
 旧体制側の本営近く、本隊の脇から攻撃をしかけた民兵の登場に、彼らは完全に連携を崩された。なお、登場も行動も、先回りしていたグリード以下デビルズネストの面々の助力もあり、大きな犠牲を出すことなくやり遂げられた。
 エドワードもまた、身を守るため、最低限の戦闘は避けられなかった。エンヴィーが傍を守ってくれたし護衛兵もいたからさほどのことはなかったが、それでもただ守られて後ろにいたわけではない。
 旧体制側が次々にあちこちで降伏していくのを収めながら、新体制側の本隊とエディ率いる民兵が合流したのは、その日の夜のことだった。
 アメストリスの国旗があちこちではためく中、エディはデモ隊、新体制側の兵士、降伏した旧体制の兵士それぞれに手を振っていた。握手を求められれば笑顔で返す、その頬は少し汚れていたけれど、目だった怪我などはないようだった。軍服も、すすけてはいたけれど、血の痕などは見られない。
「…まったく…」
 先遣隊として先に彼女に合流すべくやってきたハボックは、脱力して肩を落とした。しかし、小気味よい気持ちもあった。
 今日の戦闘で、アメストリスはいよいよ新しい国としての基盤を落ち着けることが出来た。これからは体制の立て直しに奔走する日々が続くだろう。負けるとは思っていなかったが、正直なところ、もう少し長期戦になると思っていたから、今日のうちに決着がついたことにハボックは驚いていた。原因は、間違いなく、予想外の因子があったからだ。つまりはエドワードの登場である。
「…すんげえ子だよ、まったく」
 声かけるのは一服してからでもいいかな、とハボックは暢気に呟いた。どのみち、もうこの近辺に敵などいない。

 ロイ率いる本隊、その核たる小隊がハボックに遅れること三十分弱でその場に到着する頃には、さすがに場が整えられていた。負傷兵のためのテントは立てられ手当ては始められていたし、降伏した兵士の記録もあらかた取り終わり、書類送検を残すのみとなっていた。
 戦闘はもう終わっているが、何の一言もなく解散という雰囲気でもなくて、となれば、一言を発する人間は限られている。
 ロイはあたりを見回して、肩で一度溜息をついた。まったく、してやられたものだ。腹は立たないが、してやられた、という感覚はぬぐいようもないものだった。
「エディは」
 問いながらも、ロイも目で探していた。小柄な少女だが、どこにいても目立つ存在だ。いるのなら見つけることも出来るだろう、とたかを括れば、やはりすぐに見つけられた。大股に近づきながら、ロイはさてどういったものか、と言葉を探した。
「…大佐!」
 声をかけるより先に、少女が弾かれたようにこちらを振り向いた。
 さっきまで笑っていた顔が緊張に強張っている。だが、瞳は強気にこちらを見つめていた。彼女らしい、とロイは思う。
「…エディ。こちらに」
「…はい」
 神妙な顔で頷くのがおかしくて笑ってしまいそうだったが、そこはこらえて、ついてくるようにと促しロイは歩く。
 ステージなどは勿論なかったが、小高い丘になっているその場所には、両脇に国旗が立てられ、演説をするのにあつらえ向きの形状になっていた。ロイがエドワードを伴ってそこに立てば、疲弊しきったはずの人々から歓声が沸いた。
 その大きさに、エドワードの足は思いがけず震えた。今までずっと必死だったから、そんなにも大勢の人間といたのだということがどこかでわかっていなかったのだ。
 しかし、よろめいたエドワードの肩を、後ろからロイがそっと支えてくれた。それで、エドワードも気持ちを切り替えることができた。
 青い軍服に黒髪のロイ、深い緑の国旗、夜に近いそれらの色を背景にすると、白い軍服を着ている金髪のエドワードはまるで浮かび上がるように目立って見えた。夜風が彼らの髪と旗とを翻し、まるで雪のように、戦場からの何か残滓のようなものを舞わせていた。
「――諸君」
 ロイのよく通る声が、拡声器もなしの状況であるにもかかわらず、遠くまで響いた。しんと静まる群衆に、エドワードは目を瞠る。
「今日からが、本当に新しいアメストリスの始まりになる」
 新しいアメストリス。
 それこそは、ずっと反体制の旗印となってきた言葉だ。
「力を合わせて、アメストリスを変えていこう」
 宣言に、あちこちから歓声や口笛が上がった。
「…エディ」
 ロイはそれに応えるように手を振ってから、少女を促した。え、と顔を上げる少女に頷いてから、ロイは顔を上げた。全員の視線が、エドワードに集まる。
「…え、っと…」
 こくりと息を飲んでから、エドワードは緊張した面持ちであたりを見回した。たくさんの視線によろめきそうになる。
「…」
 母親の仇をとりたい一心でここまで来た。そうして、不条理をたくさん目にした。ただ母の仇をとるだけでは、世の中は変わらないし、エドワードと同じ境遇の子供がたくさん生まれ続けるのだと思った。その思いでここまでやってきた。とうとう、ここまできたのだ。
「…アメストリスはきっと、いい国になる。だって、いい国に、していくんだから」
 ね、とこわばった顔を無理にほころばせようとする少女に、再びの歓声が上がった。それはやがて「ニュー・アメストリス」の大合唱になり、戦場に響き渡ったのだった。


 各地に残る旧体制の残党は既に大きなものではなく、完全に一掃しきったわけでもなかったが、もはや何か事を起こせるだけの規模をもったものはなくなり、それまで仮で組織されていたアメストリス行政府が、正式に発足することとなった。
 アメストリスは、大統領を掲げる民主制に移行する。初代の大統領には、満場一致でマスタング大佐が指名された。
 ――そして、大統領就任の挨拶が、かつての大総統府のバルコニーで行われることとなった、その前夜のことだ。
「…え?」
 今日でこの家で過ごすのも最後だから、と珍しく二人きり(外には護衛がいたが、邸内には二人きりだった)で終えた食事の後、エドワードはロイに言われた内容がよくの見込めなくて、ぽかんとした顔をした。
 ロイはたくらみ顔で笑って、席を立つと、エドワードの前に膝をついた。
「忘れてしまったのかい? 冷たいな」
作品名:Don't cry for me Amestris 作家名:スサ