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Don't cry for me Amestris

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#7 Rainbow high




 ロイが大統領になってしまえば、自分はそんなに忙しいとも思っていなかったエドワードだが、勿論そんなことはなかった。ファースト・レディにも公務というものが待っていたのだ。しかも、たくさん。
 それを初めに理解したのは、ロイの大統領就任後、初めて官邸に入った翌朝のことだった。

 まだ式は挙げていないのだから、と一端帰ろうとしたエドワードだったが、お部屋はこちらに、と頼んでもいないのに案内され、あれよあれよという間に寝室に通されていた。
「…なんでそんなにむくれてるんだい」
 やがてやってきたロイに笑われて、エドワードは枕を持って暴れた。それをどうどうと抑えられ、エドワードは不満というか、まあ不満をぶちまけた。こんなのオレ聞いてない! と。
「でも昨夜、結婚してくれるって言ったじゃないか」
 エドワードの指には指環がある。今日もそれを写真に撮られていたはずだ。勿論、ロイも同じものをしている。
「そ、それは、いったけど! で、でも、こんないきなり、だって」
「ああ、緊張しているんだな…すまない」
「緊張とかそういうんじゃねえ! もう、なんなんだよ、皆オレの話きかないし…!」
 興奮しすぎてまた涙が滲んできたエドワードを、よしよし、とロイは抱き寄せる。これではまるで子守だ、と苦笑したい気持ちと、甘えられる心地よさを等分に抱きながら。
「――ところでエディ、君、いくつになった」
「…十七」
 むすっとして答えたら、そうか、十七か、となにやら頷いている。
「あんたは?」
「三十一」
 そこで沈黙が落ちた。
「…童顔なんだな」
「お互いに」
 双方共に思ったことを口にして、そこで笑いが起こった。そうすれば、エドワードの不機嫌などどこかにいってしまった。
「最初の仕事は結婚式だな」
「…そういうのって仕事なのか」
「しょうがないよ。大統領なんて客寄せ半分だ。見られるのも仕事のうちだからね」
「そんなもんか…」
 エドワードの脳裏に、イズミとシグの結婚式の写真と、父と母の、近所の人だけが祝ってくれたのだという簡素な式の写真が蘇る。どちらも派手なものではなく、衣装さえ普段着に近いようなものだったけれど、それでもどちらも幸せそうだった。
 だがどうやら、自分のそれは、彼らの数倍も豪華なものにはなりそうだが、そういった手作りの暖かさとは無縁のものになるらしい。
「しかも花嫁は若くて美人だ。メディアは大喜びさ」
「大佐だって、若くてかっこいいじゃん」
 考え事をしながらだったせいで、エドワードは普通にそんな答えを返してしまった。しかしロイが黙り込んだので、あれ、と考え直し…、かっこいい、なんて素で言ってしまったことに気づいたが、後の祭りだ。
「い、いまのなし!」
「そうか。…かっこいいか?」
 ロイはエドワードを抱きしめたまま、広すぎるベッドに転がった。うわあ、と色気のない声が上がるが、らしくて笑ってしまった。
「それは嬉しいね。君の好みに合う顔でよかったよ」
「だ、だれが、そんなこと!」
「違うのか」
「…違わない」
 ぼそりとエドワードは言って、顔を隠すべく、ロイの胸に頭を埋めた。甘えるような仕種にロイの顔はだらしなく緩んだが、それを見越しての行動では勿論ない。
「…本当はね」
「…?」
「君と二人で、投げ出してしまって、どこか南の島でも行くのもいいかなと、思ったこともあった」
 今だから言うがね、と苦笑されて、エドワードは顔を上げた。ロイはいつでも自信があるように見えたから、そんなことを考えていたとはちっとも知らなかった。
「…じゃあ、いつか行こう」
「うん?」
 エドワードはロイの指を持ち上げて、絡めた。そうして小さな声で強請る。
「いつか、つれてって」
「南の島?」
「うん…南の島じゃなくてもいい。オレの生まれたところとか」
「…リゼンブール、といったか」
「そう。羊ばっかりで、後は自然がたくさん。それだけ。…でも、嫌いじゃなかったよ、きれいなところだったから」
 それでも目を伏せてしまうのは、悲しい思い出がぬぐえないから。ロイは黙って、小さな頭を引き寄せて、…そうして顔中を啄ばむように触れる。
「…いつか行こう。新婚旅行かな」
 絡めた指を繋いで、うん、と小さな声。約束してね、と。
 思えばエドワードが約束なんて強請ったのは初めてで、ロイはたまらなくなった。それまで彼女には過去と今しかなかった。母親が殺された過去、その仇を追う今。世の中を変えたいという今。
 だが、彼女の言葉に未来が生まれた。それはロイが与えたものだろう。そう思えば、嬉しかった。自分といることで彼女が未来を見てくれたなら、それは喜ばしい以外の何物でもない。
 今ここに互いにいること、これからもそれが続くこと。
 それを噛み締めながら、どちらからともなく腕を回していた。初めて深く触れ合って、そうして一緒に眠りについた。

「……」
 妙にだるい。そう思いながら頭を振って、エドワードは暫し、そこがどこであるかを思い出すのに時間を要した。見慣れない白い大きなベッド。見慣れない天井。大きな窓は薄いレースのカーテンで覆われて、明るい日差しを伝えている。どこかで鳥まで鳴いている気がする。なんとのどかなのか。だが一体ここはどこなんだろうか。
 しかし、だるい、と思いながら起き上がり、素っ裸でいることに気づいて、一瞬固まった。自分は裸で寝る趣味はない。
 が。
「………、…!」
 思い出し、一気に頭に血が上った。それからはシーツに逆戻りだ。頭からシーツをかぶって、とにかく羞恥に体を震わせる。恥ずかしい。とにかく恥ずかしい。照れくさい。
 そうだ。帰るというのに引き止められ、寝室に通されて、ロイとああだこうだと言い合っているうちにそういう…ことになり。ああどうしよう。いやどうもこうもないのだが、とひとりでぐるぐるするが、…本当にどうもこうもない。
 そういえばロイはどこに、とそこでようやく思い至って、なんだか急に胸が痛くなった。まるで放って置かれたようで。実際放っておかれているのだが。
 泣きそうになって、体を起こしたところで、誰かの気配がした。はっと体を固くしたときにはドアが開く音がして、…小さな笑い声。ロイだ。
「起きたかな、花嫁さん」
「……」
 エドワードはシーツから顔だけのぞかせた。恨めしげに睨んだつもりだったが、相手の表情が変わらないところを見ると、そういう顔にはなっていなかったのかもしれない。
「起きられるか?」
 ロイはベッドに腰掛けると、エドワードの髪を撫でながら問いかけた。
「…服がない」
「ああ、なんだそんなことか」
「そんなことって!」
 怒鳴って起き上がって、どうも変な体勢になってしまったらしく、エドワードは眉をひそめた。ロイはすかさずシーツで彼女を包みながら、腕で体を支えてくれた。だが密着する体勢に勝手に頬が熱を持つ。ロイは服をきっちり着ていたからなんだか余計に恥ずかしかった。
「向うに色々用意してあるんだ」
「…は?」
 そのまま抱き上げられ、エドワードはロイにしがみついた。裸の背中にロイのシャツの感触がなんだかいたたまれない。
作品名:Don't cry for me Amestris 作家名:スサ