Don't cry for me Amestris
「彼女は手術すれば治る見込みがある。手術は行う。…だが、ここ数年の生活が祟っているとも医師は言っていて…、私は、彼女をリゼンブールに帰してやりたいと思っています」
ロイは手を組んで、顎を乗せた。その顔には苦渋の色がある。彼なりに色々考えた結果なのだろうことは、想像に難くなかった。
「…手術が成功して、その後どれくらい生きられるって?」
グリードが尋ねると、ロイは困ったように眉根を寄せた。
つまり、治ったところであまり長くは生きられないという診立てなのだろう。だがそれでも、公務をこなすよりは田舎でのんびり暮した方が長くは生きられる。男はそう思っているらしい。確かにそれも一理あるとグリードは思った。
「…でも、それじゃ皆納得しねえだろ」
「でしょうね」
ロイは肩を竦めた。
「…表向き、の話です。エディは、亡くなったことにする」
「…死んだ振りして田舎で生きるってか? そううまくいくのか」
グリードは軽く息を飲んだ後、ロイを軽く睨んだ。すると男は、真面目な顔をして頷いた。
「いかなくては困る。私は彼女を少しでも長く生かしたいんだ」
怒ったようなその調子に、グリードは瞬きした。意外な気がしたからだ。この男は、どうやら心底あの妹分に惚れているらしい。
それならいいか、とグリードは気持ちの蹴りをつけた。
「…で、俺らに預かれってのは」
「手術の後すぐには動かせませんから。落ち着いたら、しばらくあなた方に匿ってもらって、それからリゼンブールに移動させようと思います」
「…なるほどね」
ロイの中で、既にある程度の計画は立てられているのだろう。ただ、どうしても情報を外に漏らすわけに行かないから、途中でエドワードを任せられる相手を探しあぐねていたのだろう。
「引き受けてもらえますか」
「…ひとつ聞かせてもらっていいか」
「…? なにか」
「アンタは、その後どうする気だ?」
「…その後?」
グリードは頷いた。
「エディが死んで、葬式かなんかするよな。まあその間にあいつはリゼンブールに移って。で? もうあんたは二度とあいつに会わないってのか?」
ロイは瞬きして、困ったように笑った。
「…さあ。それは全く…」
「考えてねえのか」
「…一緒にいられたらいいとは思うが、…いられるかどうか」
「まあ、一緒に引っ込んだら怪しいか。…いや、いい、忘れてくれ。…わかった、あいつのことだしな、引き受けよう」
「ありがとう」
ロイは頭を下げた。
頭上げてくれよ大統領さんよ、といいながら、グリードはしみじみと妹分のことを考えていた。
まるで生き急いでいるかのようなところがあったから、いつかこんなことがあるのではとどこかでわかっていたような気もする。
しかし、あの男はその定めを変えたいのだという。
お前はすごいの引っ掛けたな、と内心で笑いながら、グリードはエドワードのために出来ることを考えていた。
エドワードが書いていた曲が仕上がったのは、彼女の手術の二時間前だった。ロイはその間ずっと彼女の傍にいた。手術のあとのことは、まだ話していない。今はただ、手術が成功するのを祈るばかりで。
作品名:Don't cry for me Amestris 作家名:スサ