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Don't cry for me Amestris

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#8 Requiem for yesterday




 手術が終わって目覚めた時、エドワードは、一瞬自分が生きているのか死んでいるのか解らなかった。
 だが。
「…エド、よく帰ってきてくれた」
 手を握る感触で、かけられた声で、生きているのだということがわかった。ぼんやりと顔を上げれば、そこには泣き笑いのような顔をしたロイがいて、何泣いてんの、と笑ってやった。そうしたら上から抱きしめられて、自分が泣きそうになった。この人を泣かせないでよかった、そう思いながら、腕を彼の背中に回した。

 その後数日して、体調も安定してきたところで、ロイから驚くべき計画について聞かされ、エドワードは呆然としてしまった。怒ろうかと思ったが、あまりにもロイが情けない顔をして聞いてくるから、怒る気も失せてしまった。治ったんだからそばにいてまた働く、という言葉は、彼の心配そうな顔を見ていたら言い出せなかった。
「…でもなんか変な気分」
「まあね…申し訳ないとは思うんだ。こんな手段しか取れなくて…」
「でも離婚するって言われるよりはいいか」
 さらりと言ってやれば、ロイは返答に詰まっていた。
「なに、別れた方がよかったの」
「そんなことあるわけないだろう!」
 ぶんぶんと、心外だ、と首を振るロイを見ていたらおかしくて笑ってしまった。自分だってそんなことあるわけないのに、と。
「…ねえ、それで、あんたはどうするの」
「…私か…」
 ロイは苦笑した。
「不本意だが、君の葬儀をしなければ。エディは死んで、君がエドワードに戻るための。…その後は、…どうしようか。大統領だからな」
「…大佐さ。覚えてる? 革命の途中、南の島でも行こうとかと思ったって言ってたの」
 ロイは軽く目を瞠った後、頷いた。
「覚えてるよ。だがそれが…」
「…オレと一緒に、リゼンブールに行く?」
 恐る恐る切り出したエドワードに、ロイは目を瞠り息を飲んだ。
「…なんて。へんな事いって、ごめん。忘れて」
 へへ、と笑うエドワードの頭を、ロイはゆっくりと引き寄せた。すぐに頷けない自分に苛立ちを覚えながら。


 それから療養に一月近くを費やし、エドワードは人知れずこそりとデビルズネストに帰ってきた。おおっぴらに歓迎するわけにも行かなかったが、その日は身内で集まってエドワードの快気祝いをした。
 エドワードはここにいたときより当たり前だが大人びてきれいになっていたが、元々細いのがさらに細くなってもいて、ロアが「エドワードを太らせる」宣言をしたりと賑やかになっていった。

 だが、世の中では連日エディの容態が思わしくないことが伝えられ、エドワードとしては複雑な気分だった。そして、ロイの傍にいられないことが不安で歯がゆかった。
 彼はしっかりした大人だったが、反面どこかナイーブな面を持ち合わせてもいて、そこが不安だった。勿論、そんなに案じることがないのもわかってはいて、要するにこれはエドワードのやきもちのような部分もあったのだが。そばにいられないことで、彼の心が変わってしまうことに対する。

 そんな不安はさておき、とうとうその日は来た。
 セントラルは朝からとんでもない混乱に陥っていたその日。エディは、死んだのだ。
 そのニュースを、エドワードは不思議と落ち着いた気持ちで聞いていた。もう自分は「白薔薇」でも「エディ」でもない。ただのエドワードだった。
 そして白薔薇でもエディでもないということは、マスタングの妻でもない。

『さようなら、わたしの、白い薔薇』

 ――その言葉は、重くエドワードの胸に響いた。
 彼の気持ちが変わったとは思っていない。自分の気持ちも変わらない。だが、いまや大統領でもある彼と、その隣に立つべき地位を役割を降りてしまった自分との間には、見えない隔たりがあった。
 それを寂しいと思うのは、その地位に未練があったからではなくて、ただ単純に彼に恋していたからなのだと気づいて、それがもう戻らないことに痛みを覚えていた。だが、彼は自分を思って自分を手放したのだ。どうして今さら戻ることが出来るだろう。
 一緒にリゼンブールにいかないか、という問いかけにも、彼は詰まってしまって答えは返してくれなかった。しかし、嘘でも一緒に行くといわなかったのが彼の誠実さだとエドワードにもわかっていたから、それ以上をねだることは結局出来なかったのだ。

 リゼンブールへは、マーテルとドルチェット、それからロアが荷物もちでついてきてくれた。グリードは、改札で引っかからぁ、と笑って店で別れた。これが最後の別れになるかもしれないと思った。グリードはリゼンブールには来ないだろうし、エドワードももう二度とセントラルには戻らないかもしれない。思わず抱きついたのはそのせいだった。役得だな、とグリードは笑っていた。
 エンヴィー、ラストとも店で別れた。エンヴィーは、そのうちリゼンブールに遊びにいってやるよ、と言っていた。冗談かもしれないが、彼のフットワークは軽いから、本当に来るかもしれない。ラストはといえば、子供でも生まれたら連絡するのよ、と笑っていた。そんな日は絶対に来ない、とエドワードは思ったけれど、そうだね、とだけ答えた。
 途中で遠回りになるがダブリスに寄った。イズミは何も言わず抱きしめてくれた。彼女にはわかっていたのかもしれない。
 リゼンブールについたら、あらかじめ連絡してあったので、アルフォンスが迎えに来てくれた。そうして初めて、父親と対面した。父は記憶にあるのより老けていたが、当たり前といえば当たり前である。
 一度も話せないまま逝ってしまったのかと思って泣いたんだぞ、と拗ねたようなことを言う父に、エドワードは笑ってしまった。一時は父を憎んだこともあった。だが、彼は憎めない、愛すべき人だった。
 父とアルフォンスは、エドワードに屋敷の中で暮すよう勧めたが、彼女は生まれた家に帰りたいといってその申し出を断った。
 弟は苦笑して、何となくそういわれるような気がしてた、と返した。予想していた彼は、母とエドワードが暮した家を暮せるように治してくれていたらしい。当時の雰囲気を最大限壊すことなく。その心遣いに、エドワードは泣きそうになった。自分は、弟の手を拒んでセントラルへ飛び出したのに。
 隣家が近いとはいえ、ひとりで暮らすのは不自由するだろう、とアルフォンスはお手伝いさん、という人を紹介してくれた。それが、エドワードが初めてセントラルへついた日に出会ったあの女性であったことに、エドワードは目を瞠った。ロゼ、と名乗った彼女は、エドワードのラジオを聞いて、リゼンブールに来たのだろう。行くところがどこにもなかったから、エディの生まれた場所に来てみようと思った。彼女はそういった。そこで使用人を募集していたホーエンハイム宅に雇われたのだという。偶然はあるものだ、とエドワードは思った。
 そうして落ち着いてみれば、マーテルたちの役目は終了である。彼女たちもまた別れを惜しんで、セントラルへと帰っていった。
作品名:Don't cry for me Amestris 作家名:スサ