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Don't cry for me Amestris

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 エドワードはこくりと頷いた。そうして小さな声で、ごめんなさい、と付け加える。イズミがどんなに自分を思ってそうしてくれているか、本当はわかっていたはずなのに意地になっていた。どんなに彼女の好意を踏みにじったことだろうか。
 だがイズミは「何を謝るんだい、ばかだね」と優しく笑った。そうして、エドワードの髪を撫でる。
「…本当はね、あの坊主からは、前に何度か連絡をもらっちゃいたんだ。でもね、会わせていいものかどうか迷ってた」
「…アルフォンス?」
 そう、とイズミは頷いた。
「あんたの本当の家族が…あんたと暮らしたいと望んでいて、それが問題ない連中だったらそこに返した方がいいんじゃないかとも思ったんだよ。アタシなりにね」
「そんな…」
 でもねえ、とイズミは困ったように笑った。
「あんたは頑固だって、アタシもよく知ってるしね。…もうセントラルに行かないことには、あんたはおさまらないよね」
「…ごめんなさい」
 イズミは、ぽんぽんとエドワードの頭を叩いた。
「いいよ、もう諦めた。そのかわり、ひとつだけ言うことを聞きな」
「…はい」
「セントラルにいったって、あんたの探す相手がどこにいるかはわからないし、日銭稼ぐつったってろくな仕事はないだろう。だからね、あんた、アタシがこれから言う場所に行って厄介になりな」
 エドワードはびっくりして振り返る。イズミも今度は押さえつけはしなかった。
「デビルズネスト、って店だ。汽車が決まったら迎えに来るように連絡しとくから」
「でも、師匠、そんな」
「これだけは譲れないよ、ここを飲まないなら紐でくくりつけてでもあんたを家からは出さない」
 本気の顔で言われて、…でもその思いやりが嬉しくて、エドワードは思わずイズミに抱きついた。
「師匠、ありがとう!」
「…はいはい、…アタシも焼きが回ったもんだね…」
 数年間わが子のように慈しんだ少女を抱き返しながら、イズミはぽつりと呟いた。
 どうかこの娘に辛いことがありませんように、と真剣に祈りながら。


 そうして慌しく出発の予定が決まった。
 エドワードは、師匠と暮らしたダブリスの街並みを見納めとばかりに眺めながら、ことさらゆっくりと駅までを歩いた。普段は足の速いイズミもエドワードも、今日ばかりはゆっくり、ゆっくりと歩いた。
 そんな風に惜しむなら行くのをやめてしまえばいい、イズミはそう言いたかったかもしれないが、何も言わなかった。
「…体に気をつけるんだよ。それから、無茶をするんじゃないよ」
「はい」
 腰を屈めてエドワードの肩に手を置きながら、イズミは穏やかに言った。目を細めて。それに、エドワードもいつになく素直に頷く。
「あんたがこんなに素直だなんて、初めてじゃないかい」
 それをイズミがからかっても、エドワードは拗ねもむくれもしなかった。どころか、居住まいを正して、きちんと頭を下げた。
「…いってきます。師匠」
「…うん」
 イズミはゆったりとエドワードを抱きしめて、それから放した。汽車はもう、駅に到着していた。




 セントラルは国の首都である。
 エドワードが知っていたのはただその事実と、昔師匠がそこに住んでいたということと、とにかく生まれ故郷のリゼンブールや母が亡くなってから育ったダブリスの倍よりもっと人がいる、ということくらいだ。
 セントラルは初めてなんだ、という緊張した子供に、旅の道連れとなった老夫婦はそれはよく気をつけてといい含めてくれたけれど、それでも実感は湧いていなかったのだといえる。
 降り立ったセントラルで、覚悟していたはずのエドワードだったがそれでも一瞬息を飲んでしまった。
 仇を探して、このセントラルできっとこの手で息の根を止めてやるのだと思っていた。恨みに身を固めていた。暗い気持ちで、ここまできたのだ。
 しかし降り立ってみて、一瞬そんなことも忘れてしまった。
 喧騒がひっきりなしに続く活気ある街並み、行きかう人の色とりどりの姿、所狭しと立ち並んだ様々なビルディング、たくさんの看板、車の流れに自転車に、人、人、人…、
「……」
 エドワードはぱちぱちと瞬きした後、大きく息を飲んでから鞄をぎゅっと抱きしめた。後ろから人にぶつかられて、それで慌てて歩き出す。地図を見なくては、と思い立ったのは、駅から少し離れてからだった。
「……?」
 そうして、エドワードが、地図を取り出そうと鞄の側面に手を触れたときだった。
 何か声が聞こえた気がして顔を上げたら、今度ははっきりと悲鳴が聞こえた。そこで、地図のこともこれから行く場所のことも忘れて、エドワードは弾かれたように走り出した。人が邪魔で走れない、と思ったけれども、小柄を活かして人波を縫っていく。
「どいて!」
 前を塞いでいた誰かをどかせば、エドワードよりいくつか年上くらいの少女と女性の間くらいの人物が、男二人に絡まれていた。エドワードは知らなかった。その二人の身に付けている青い服が、軍服であることを。リゼンブールにもダブリスにも黒い服の憲兵しかいなかったからだ。
「なにやってんだよ! だっせぇことしてんな!」
 怒鳴りながらの跳び蹴りは、随分と軍人の肝を抜いたらしい。見事クリーンヒットした方は無様にひっくり返り、彼らを遠巻きに見ていた群集からは口笛と歓声が上がった。エドワードは呆然とする女性をちらりと横目で見てから、鞄を思い切り振り上げ、角のところでもうひとりの頭を容赦なく強打する。こちらもあっさりKOを勝ち取った。
「ふー…」
 ぴくりともしない軍人は捨て置いて、女性をのぞきこんで、エドワードは声をかける。
「よくわかんないけど…大丈夫?」
「え…ええ、…あなたこそ、こんなことして、」
「え?」
 エドワードは首を傾げた。助けた相手にいわれるにしては不思議なことを言われた気がしたので。だが、答えはすぐに知れた。
「軍がきたぞ!」
「坊主、逃げろ!」
 エドワードは勿論自分の性別を知っているので、この坊主というのが自分を指していることに気づくのが遅れた。え、と思っている間に新手に取り囲まれてしまったのはそのせいだ。
「クソガキが、公務執行妨害でしょっぴいてやる」
「待てよ、こいつこんななりでも女なんじゃねえか?」
 とりあえず好意的でないことはわかるものの、あまりに接したことのない事態に、エドワードはきょとんとしてしまった。何がなんだかわからない。だが、腕をつかまれればさすがにそうも言っていられなくなる。振り解いたが、相手の人数が多くてこれはまずいかも、と舌打ちした、その時だ。
「…!」
 誰か、恐らく群集の誰かなのだろうが、誰かがエドワードの腕を掴む男の顔面に、思い切り生卵を投げつけたのだ。これはたまらないだろう。だがおかげでエドワードは自由になる。少女は、鞄と、反対側にまだぺたりと座り込んでいた女性の手を掴んで、一目散に群衆の中に駆け込んだ。後ろから声が追いかけてきたけれども、振り返らず、わざと人の多い方へと走った。
 そうしてどれくらい走っただろう。すっかり軍人はまいたところで、橋の上に辿り着いた。そこはどうやら少し高台になっているらしく、街が一望できた。
「…うわぁ…」
作品名:Don't cry for me Amestris 作家名:スサ