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無題if 赤と青 Rot und blau -罪と罰-

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毒づくようにそう言い、イギリスはプロイセンを見やった。
「…ドイツのナチズムの発祥はお前ではない。それは俺たちがよく知っている。お前はどちらかというと民族のない国家だったしな。…だが、お前の解体はもう止められねぇぞ。決定した」
「王も既に去った。俺が戴く者は誰も居ない。解体の用意はとうに出来ていた。…なのに解体されないままずるずる来てしまった。今でも不思議で仕方がねぇよ。覚悟は出来てる」
「…潔すぎだろ。今まで散々、生き汚く足掻いて来たくせにさぁ」
「もう疲れたんだよ。…さっさと楽になりたい」
「楽にはしてやれねぇな。ドイツはロシアに殺されかけて昏睡状態だ。ドイツの国民は「ドイツ」を許さないだろう。国民はナチスの象徴だった「ドイツ」を望まない。だが、「ドイツ」が無くなるのは困る。ロシアの干渉を防ぐ要が失われるのは俺らとしても痛い。…だから、ドイツは新しく生まれ変わる必要がある。…プロイセン、お前が「ドイツ」になれ」
イギリスが言う。それに、フランスは頷いた。

「お前なら、この「ドイツ」を別の形で復興させていくことが出来るだろう。正しい方向へ」

…多分、そうすることが一番良いのだろう。自分はそうやって時に流され、与えられた名を受け入れ生きてきた。…でも、駄目だ。自分は「プロイセン」であって「ドイツ」にはなれない。プロイセンは目を閉じる。
「…俺は戦うために生まれてきた。戦うことで「国」になった。…これからこんな大きな戦争はなくなるだろう。俺の存在意義はもう当の昔、普仏戦争の際に失われた。…ドイツは、…あいつはまだ若い。…チャンスを与えてやってくれ。ドイツは自分の過ちを認め、これから贖っていく。この過ちを受け入れ、お前らと協調してやっていけるはずだ」
プロイセンは言葉を切った。フランスとイギリスはプロイセンを見やる。
「…ドイツの軍国主義の象徴として、ドイツが招いた惨事は俺が責を追う。その責を負い「プロイセン」は滅びる。…ドイツを許せとは言わない。あいつに贖うチャンスと時間をくれ。頼む」
深く頭を垂れたプロイセンにフランスは溜息を落とし、イギリスは更に眉間の皺を深めた。
「…馬鹿じゃねぇの。お前、度々、あのちょび髭上司に楯突いて来たんだろ?敢えて汚名を被る気か?」
「…ああ」
プロイセンは頷く。
「国民は「ドイツ」を望まねぇぞ。ドイツ人たるアイデンティティさえこの戦争で壊された。ホロコーストに送られた者たちや、戦争で家族を失った者達の嘆きと悲しみは深い。今は解放され、戦争が終結したことで不安が解消されたことだけで安堵しているが、時勢が落ち着けば、こうなった原因であるドイツを憎むようになるだろう」
「だが、ドイツ国民にも責がある。あの上司を選んだのは国民だ。国民は「ドイツ」と供に、この戦争の過ちを認め、償っていかなければならないだろう。国民とともにもう一度、やり直す。それをやるのは俺じゃない。ドイツだ」
プロイセンはイギリスを見つめる。イギリスは深く息を吐いた。
「…何故、庇う?…お前はドイツを憎いと思わないのか?お前があいつに与えてやったものは破壊されつくした。そして、失われた」
「…あいつにやったものだ。あいつがどうしようが俺にはもう関係のないことだ。……そう言えればいいんだろうな。…「プロイセン」としての俺はあいつを殺してやりたくて仕方がなかった。憎くて憎くて気が狂いそうだった。でも「ギルベルト」の俺はあいつが可愛くて愛おしくて、何だってしてやりたいと思うし、何だって訊いてやりたいと思うんだ…」
プロイセンは顔を歪ませた。
「…イギリス、お前になら俺の気持ちが解るだろう?」
問われてイギリスは眉を寄せた。
「…解りたくないけどな」
小さく呟く。それにプロイセンは小さな笑みを浮かべた。
「俺はあいつが国として立ったときに消えるべきだった。そう出来なかったのは多分、未練なんだろう。…俺が死ぬことがドイツの為だったんだ。あいつはまだ若い。肉親と思えるような近い人間の「死」をあいつは知らない。その所為で失うことの「痛み」を知らないまま来てしまった。そして、こんなことになってしまった」
プロイセンの言葉にフランスとイギリスは俯く。親しい者の死はいつだってやさしい痛みと悲しみをこの身に残す。決して人の生の流れと、自分たちの生の流れは交わることはあっても必ず違えてしまう。でも愛した者の死はこの身の「強さ」へと変わっていくのだ。
「…お前は本当にそれでいいのか?…自分の名が地図から消える。人々から忘れ去られる。…それで本当にいいのか?」
フランスは口を開く。
「「プロイセン」になる前の俺の名は「ドイツ騎士団」だ。俺はドイツを守る為の存在だ。ならば、俺は自分の定めに殉じる。ドイツは俺が仕えると約束した「神聖ローマ帝国」だ。俺はあいつに助けられた。あいつが認めてくれたから国になれた。…俺はその恩を返す」

『…俺はここに誓う。…ドイツ、お前を王と仰ぎ、お前の身が危機に晒されたときには、この身を持って守ると。未来永劫、お前が俺の王である限り、俺はお前に尽くすと忠誠を誓う』

あの誓いから本当に遠くに来てしまった。プロイセンは思う。あんなにやさしく美しかった日々はもう二度とは戻って来ない。もう守ってやることさえこれで出来なくなる。でも、それでいいのだ。もっと早くそうしなければならなかった。あの手を離すことがやさしさだったのだ。

「…やっぱり、そうだったのかよ」
「…じゃなきゃ、お前があそこまで尽くす訳ないしねぇ」
遠い昔、一緒に暮らしたこともあった何年時が流れても、成長することがなく幼い少年のままだった。その少年の心臓を止めたのは自分だった。フランスは目を閉じる。
「…チャンスか。やりなおすことが出来なかったら、お兄さん、今度こそ、ドイツを殺すよ?」
「ああ。構わない。俺は止めない。…止めることは出来ないだろうしな」



 懐かしい日々が瞼の裏を過ぎる。



プロイセンは目を閉じた。