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無題if 赤と青 Rot und blau -罪と罰-

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君が嫌い。大嫌い。







 ベルリン市内の病院の一室。ロシアは病室のドアを開く。

 部屋には何も無く、あるのはベッドだけ。その上に青褪めた顔で眠る青年をロシアは見下ろした。プロイセンの養い子。プロイセンの弟。プロイセンが愛してるもの。


「…君なんか、死んじゃえばいいのに」


ロシアは小さく呟く。そして、ぎゅうっと手にした水道管の柄を握り締める。湧いてくる殺意は「国」としての感情なのか、「人」としての感情なのか解らない。ロシアはそれを堪えるように息を吐いた。

「でも、君が死んだら、プロイセン君はきっと泣いちゃうよね」

そう思ってしまったから、殺せなかった。撃った銃弾は心臓を逸れてしまった。ドイツのことを考えると胸の中がどす黒い何かで染まっていく。沸々と目の前の青年に対する憎悪が強くなっていくのを感じてロシアは目を閉じる。

「…君は本当に馬鹿だよね。与えられて、守られてさ。…羨ましいし、嫉ましいよ。…僕、君のことが大嫌いだよ。僕が欲しかったものを全部もってるんだもん」

凍えることの無い領土と、ドイツを愛し結束した一族と、プロイセンの無償の愛情を注がれて、何が不満だと言うのか。…どうして、僕にはそれが与えられなかったのだろう。ロシアはぎゅうっと水道管を握り締める。

「…君と仲良くなれたら、プロイセン君は僕とも仲良くしてくれたかな…。でも、やっぱり、君と僕は仲良くなれないかもね」

一時期、友達になろうとしたことがあった。でもそれは一時的なもので、ドイツは自分を好いてはいなかった。そして、自分もドイツが嫌いだった。…それで、仲良くなれるはずなんてない。

「…プロイセン君、解体されちゃうんだ。君の所為だよ」

既に国としての枠組みは形骸化していたものの、プロイセンは存在していた。…でも、解体宣言が公けに宣言されれば地図からその名は失われる。「プロイセン」は無くなってしまう。

「…でも、僕なら彼を生かしてあげられる」

それは、ドイツにも他の国にも出来はしない。自分だけが出来る。プロイセンを生かす方法。…ロシアは小さな笑みを浮かべる。

「…プロイセン君を僕の中に組み込むよ」

そうすれば、プロイセンは自分のものになる。ずっとそばにいてくれる。

ずっと欲しかった。あのときから、彼が自分に手を差し伸べてくれたときからずっと、焦がれてきた。欲しくて欲しくて仕方が無かった。



 この世界に生まれ落ちたときから寒くて、痛くて、辛くて、涙が出るほど悲しいことばかりで、死にたくて滅んでしまいたくて仕方が無かった。蹂躙されていたあの時代のことを思い出すとロシアはいつも悲しくなる。その記憶の中に、唯一嬉しかった思い出として赤はあった。


「おい、お前、勝手に人の領土に入るなよ」


逃げ出して迷い込んだ森。どこからともなく声がして、ロシアは辺りを見回す。ガサガサと繁みが揺れる音に怯えれば、淡い金の髪に赤い目、白に黒十字をあしらったマントを羽織った子どもがにょっきりと茂みから顔を出した。
「ここ、きみのおうちなの?」
「そうなる予定なんだよ。…お前、国か?」
繁みから出てきた子どもはロシアをじろじろと見やる。それにロシアは身を竦めた。
「…うん。そうだよ。…きみも?」
「おれはまだ国じゃねぇ。いずれなってやるけどな。…ってか、お前、さっさと自分のウチに帰れ。あいつらに見つかったら、殺されるぞ」
赤は真面目にそう言い、ロシアを見つめた。
「…かえりたくない」
ロシアは小さく呟く。それに子どもは眉を寄せた。
「は?」
「かえりたくない。寒いし冷たいし、怖いし、あんなとこ帰りたくない!!」
しゃがみこんで泣きながら駄々を捏ね始めたロシアに子どもは溜息を吐く。
「…お前んとこ、寒いのかよ?」
「…うん。ほとんど凍ってる」
「怖いって、何が怖いんだよ?」
「…西からね、僕をいじめにくるひとがいるんだよ。…そのひとたちがくるとね、ひとがいっぱい死んじゃうんだ」
ロシアがぽつぽつと話すことを子どもは頷きながら訊いてやる。そして、ロシアが話し終え、子どもを見やれば子どもは不機嫌そうな顔をしてロシアを睨んだ。
「お前がそんなんだから、他の奴に侮られるんだよ。強くなれば、攻めて来ねぇし誰も文句は言わねぇだろ。大体、男のクセにうじうじすんな。…おれなんか、領土も国民もいねぇ。あるのはおれを信じて付いて来た騎士達と剣のみだ。贅沢言ってんじゃねぇよ」
「でも、本当に冷たいし、寒いし、知らないひとが剣を翳して攻めてくるし怖いんだよ!!」
ロシアは赤い目を睨む。
「寒いっても、短いけど夏はあるんだろ。年中寒い訳じゃねぇだろうが。俺が前居たところは昼間はすげー暑くて、夜になるとここより冷える場所だったぜ。辺り一面は砂ばっかで作物は育たない。水はない。おまけに蛮族が頻繁に攻めてくる。それに、俺は文句を言ったことはねぇぞ。お前は甘えすぎだ」
子どもはそう言うとロシアの腕を掴んだ。
「寒いのが嫌なら寒くねぇように温かい家を作ればいいだろ。攻められるのが嫌なら、お前が強くなればいいだけの話じゃねぇか。嘆いてばっかいてもどうにもならねぇぞ。…自分の家に帰れ。国境まで送ってやる」
無理やりに立ち上がらされたロシアに子どもは手のひらを差し出した。その手のひらをロシアはまじまじと見つめた。
「迷子にならないように、おれさまが手を繋いでやるぜ。光栄に思えよな!!」
ケセセと変わった笑い声を上げて、子どもはロシアの手を掴む。ロシアは子どもに手を引かれるまま、歩き始める。
「…きみは強いんだね」
「おう最強だぜ」
握られた手のひらは小さいのに固くてごつごつしている。ロシアは自分のやわらかい手のひらが恥ずかしくなる。
「…どうやったら、ぼくもきみみたいになれるのかなぁ?」
初めて会った姉妹以外の自分に好意的な国。ロシアは手を引かれながら、子どもを見つめる。短く跳ねた髪がぴょこぴょこと動く。
「飯食って、暴れて、よく寝てればなれるんじゃね?」
「そうなの?」
「総長が、子どもはそういうもんだって。…ってか、子ども扱いしやがってよー。おれの方が年上だっての!失礼しちゃうよなー」
口を尖らせて子どもが言う。それにロシアは笑みを零す。それに子どもは目を細め、空いた手でロシアの頭を撫でた。それにびっくりしたロシアに子どもはニカッと笑った。
「お前、笑ってる顔初めて見たぜ。ひまわりみたいだな」

「…ひまわり?」

「ひまわりって言う黄色くてでかくて、お日様みたいな花があるんだよ。お前が笑えるようになればさ、国も多分、もっと良くなってくるんじゃねぇの?…ま、がんばれよ」
森を抜けて、小さな町が見える。子どもは足を止めた。
「着いたぜ。ここからはひとりで帰れるな?」
「うん」
「じゃあな」
踵を返した子どもにロシアは慌てて声を掛ける。
「待って!」
「…?何だよ」
マントの裾を掴まれ、子どもはロシアを振り返る。
「…送ってくれてありがとう。…ぼく、がんばるよ。…でね、ぼく、きみとともだちに…」
ぎゅうっと握り締めたマント。俯いたロシアの頬を子どもはむぎゅうと挟む。
「ふあ!?」