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無題if 赤と青 Rot und blau -罪と罰-

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罪と罰2






 プロイセンはソ連の捕虜の中でも、客人としての待遇を得ていた。他のドイツ兵同様の扱いを受けるのが相応だと思っていたが、行動の制限はなく、移動にも一言伝言をロシアに伝えさえすれば自由だった。見張りの為の兵士すら付かない。破格の扱いにプロイセンはロシアの真意を探ろうと口を開いた。

「…拘束しなくてもいいのか?」

ソ連側のキャンプ地のテントの中、連合軍の宿舎から戻ったプロイセンはロシアに尋ねる。ロシアはいつものように穏やかに笑みを浮かべている。
「拘束?プロイセン君は逃げたりしないでしょ」
「しないけどよ。一応、俺、捕虜じゃないのかよ」
「捕虜って言うよりは、客人かな。…ああ、でも逃げたかったら逃げてもいいよ。捕虜の兵士達と一緒にね。…君は部下に慕われてるしね。君が一声掛ければこの混乱に乗じてクーデター起こすことも容易いでしょ。新しい政権発足させてくれてもいいんだよ」
物騒なことをさらりと口にして、ロシアは笑った。
「何、言ってんだ?」
冗談か、本気か解らない。プロイセンは眉間に皺を寄せた。
「んでね、その政権のバックに僕がつけば、アメリカ君もフランス君もイギリス君もさ、君の建国に口出し出来ないんじゃない?」
ロシアは手にした水道管の蛇口を閉めたり開けたりと手慰みにしている。それを見やり、どこまで本気でそう言っているのか解らず、プロイセンは眉を寄せた。
「…どう考えたって、無理だろ」
「そう?」
「お前、西側、敵に回す気か」
「…んー。もう既に敵なのかもね。フランス君はそうでもないけど、イギリス君は僕のこと嫌いみたいだし、アメリカ君は僕のことを悪人扱いだからね」
「……仲良くしようって気はないのかよ。一応、連合組んでるだろ?」
「そんなの、戦争中だけだよ。それが終われば、後はこの戦争で得る配分を如何に多く取るかだよ。それは、君が一番良く、解ってるんじゃない?」
ロシアは笑う。それにプロイセンは答えず溜息を落とした。
「…まだ、正式に決まった訳じゃないけど、デューリンゲン、ザクセン、ザクセン・アンハルト、メクレンブルク・フォアボンメルン、ブランデンブルクは僕の配分になりそうだよ。君の古都、ケーニヒスベルクも」
「…ブランデンブルクもってことは、ベルリンもか」
「ベルリンはドイツ君の首都…心臓だからね。…ちょっと揉めてる。アメリカ君が譲らなくてさ。四カ国で分割統治って…面倒臭いと思わない?僕の配分になるのに」
「………」
黙り込んでしまったプロイセンをロシアは見やる。
「…分割統治ってなると、ドイツ君はどうなるだろうね?…まさか、身体を引き裂くわけにはいかないし、困ったよね」
ロシアは言葉を切り、プロイセンを見つめる。

「…何が言いたい?」

それにプロイセンは息を殺して、そう言葉を返す。
「…別に。それより、プロイセン君、ドイツ君のところ行って来たら?…まだ、行ってないんでしょ。行ってくれば?」
プロイセンはロシアの紫色の瞳を凝視する。無邪気に無垢に微笑むその目からは何も探ることは出来ない。プロイセンは息を吐いた。
「…会ってもいいのかよ?」
「いいよ。…意識不明だけどね。君が行けば目を覚ますんじゃない。彼に目を覚ましてもらわないと僕たちも話が進まないからね」
ロシアは立ち上がるとテントを出て行く。残されたプロイセンは表情を歪め、唇を噛んだ。










 プロイセンは車を下り、ベルリン市内の軍の病院に入る。

 会うことを躊躇う内に近づいてきた夏の気配か、日差しが眩しい。プロイセンは赤を細め、院内に入る。そして、案内されるがまま病棟の奥深く、兵士二人が物々しく病室のドアを警護している部屋の前で立ち止まった。

「…二年、ぶり…か…」

短いようで長い年月のように思う。小さく呟いて、ドアノブを引き、室内に入る。

真っ白な壁。格子の嵌った小さな窓。

(…清潔な監獄だな)

感想を抱いて、プロイセンは簡素なベッドに眠る青年の枕元に歩み寄った。

「…馬鹿が」

呟いて、ドイツの頬を撫でる。艶やかだった皮膚は乾き、かさかさと乾燥し、美しかった金の髪は荒れて、ぱさぱさとしている。血の気の失せた頬、唇。…言いように無い悲しみと憤りと、苛立ちと後悔と色んな感情がぐるぐるとプロイセンの中を巡る。

「…辛いか、ドイツ。…だが、これは、お前が招いた結果だ」

プロイセンは目を細める。

「辛かっただろう?…すべてが上手くいっていた。なのに、計算が狂ってゆく。エルザス・ロートリンゲンを併合したとこで、手を引いとけば、俺が統治していた時代よりもお前は領土を広げることが出来ただろう。でも、お前は欲深過ぎた。…それが、この様だ」

吐き捨てるようにそう言い、プロイセンは言葉を続ける。

「…信じていた仲間から裏切られた気分はどうだ?…イタリアちゃんとハンガリーにお前を裏切れ、連合に寝返るように言ったのは、俺だ。二人とも最初は嫌だと言って聞いてくれなかった。お前を見捨てることは絶対に出来ないと。…二人に凄い攻められたぜ。お前が可愛くないのか、信じていないのかってってな。イタリアちゃんには嘘つき呼ばわりされたぜ。あれは辛かったなぁ。…でも、俺が誰よりもお前を愛していることに変わりはない。これは不変だ。…でも「国」としての俺はお前を憎んでいた。国土を荒廃させ、国民すら手に掛けるお前を俺は許せなかった」

赤を瞬き、プロイセンはドイツの金の髪を梳く。

「…お前が「国」の本能として、俺を「プロイセン」を排除したかったのは解ってた。俺の影が残るこの国を自分の色に塗り変えたかったんだろう?…こんな馬鹿な遠回りな方法を選ばなくても良かったのに。…前にお前は言ったな。「俺を殺せばいいじゃないか。そうすれば全て、あなたの思うようになる。あなたなら、そうすることが出来る」…と。その言葉を返してやるよ。国として立ったときにお前は俺を殺すべきだった。それが「独立」だ。でも、お前には出来なかった。…俺がお前を愛しているように、お前が俺を愛しているからだ。…お前はそれに苦しめられた。…可哀想に。俺は別にお前から愛して欲しかった訳じゃない。…俺がお前を愛するのは結局、俺の為だったんだよ。…ルッツ」

ずっと心ひそかに望んできたのは「終端」であり、美しい「消失」だった。…あの王を失って以降の時の流れは既に「余生」にしか過ぎなかった。病魔に侵された老人のように「死」を待ち望んでいた。そして、自分の息の根を止める「存在」に縋った。それは痛みを抑えるモルヒネのように作用し、望んでいた天国を見た。そして、モルヒネが切れた瞬間、酷い痛みを伴いそれは自分へと返ってきた。

「…俺は本当に独りよがりだった。結局、自分のことしか考えていなかった。…消えたいと望みながら、お前の望むように傍にいてやりたいとも思う。…でも、俺はそれを終わりにしようと思う」

プロイセンはドイツの頬から首筋にそっと指を這わせる。

「…なあ、ルッツ、一緒に死ぬか?…それとも、荊の棘鋭い苦痛のみの生きる道を選ぶか?」

動脈は指先に何も伝えない。閉じられた唇は何も答えない。プロイセンは小さく笑う。