愉快犯・世界の週末
世界の週末・威銀
「俺の知り合いがやられた」
ソファから見渡す部屋の感想は一つだ。広い。それだけ。
「死にはしねェらしいが、重傷だとよ」
いつも気付かない所は視点を少し変えると、意外と色んなものがほいほい浮かんでくる。
身をだらしなく沈めると怪しげなスプリングの軋む音がした。ふんわりと沈み、弾む感触は嫌いじゃない。
馬鹿娘が跳びはね出すのも分かるかもしれない。
「テメェ言うことは?」
目線を天井から下げると胡散臭い笑顔。
「今回ちょっとだけ手応えはあったよ」
部屋だってのに、傘なんか差しやがって。
充分部屋の中は薄暗いはずなのに夜兎はこれでも眩しいと言うらしい。俺には暗すぎて夜と勘違いして寝ちまいそうだってのに。
「――でも、お侍さんの戦友って聞いてたわりには……ちょっと期待外れだったカナ」
「オイオイ、ヅラも結構強いんだぜ?」
傘を畳むガキが心底憎らしく、恐ろしい。
攘夷戦争時代に背を預け合い、戦い抜いた強者であるはずの仲間を、期待外れと言い切り捨てる。
そりゃあ、夜兎たちの強さ基準は人間の普通よりも倍ぐらいに高い。
しかも夜兎の中でも高いランクの強さを誇るこの男、神威にとっては人間の中で強いとどんなに称されていても、赤子のように見えることだろう。
「お侍さんは俺のだよ。他の奴になんて渡さない。絶対にね」
……そんな奴に好かれた俺はどうしたことか。
ソファ向かいに腰を下ろして、堂々と愛の告白もどき的台詞には顔面崩壊を起こしそうだ。
「楽しみだね、殺るの」
「一歩間違うと変な意味に聞こえますけれど? さっさと帰れコノヤロー。不法侵入のクソガキ」
「つれないなあ」
「言ってろよ。銀さんはジャンプ読むのに忙しいから」
分厚い漫画雑誌をテーブルに叩きつけた。
「時間をわざわざ作って来てるんだ、ちょっとぐらい相手してくれても良いと思うけど。あ、週末しか会えないっから拗ねてる?」
来なくて結構だよ。
神楽が帰って来る前にさっさと帰って貰いたい。
地球一つ破滅させちまうような兄妹喧嘩をもう仲裁するのはごめんだった。
「帰って」
「ヤだよ」
雑誌越しに睨みつければ、胡散臭い笑顔で小首を無邪気に傾げて見せてきた。
溜め息のたの字も出ないぐらい、頭が痛かったのは言うまでもない。
(ほら、がらがらって! 帰って来ちまったじゃねェーかァアァ!)
fin