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南へ逃避行

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さして遠くない距離を進み、ルートヴィッヒは車をガレージに止めた。


ロヴィーノが先に家の中に入る。なにやらバタバタと動きながら「まだ入ってくるな!」と声を荒げた。
ルートヴィッヒがその忠告を無視して家の中に入る。
白い壁とベランダにある観葉植物の緑の対比が美しい。開け放たれた窓から見える空と海の青さはまさに楽園だ。
ただ、テーブルの上には雑誌やらお菓子やら空き缶やらが転がっており、その美しい景観からすればマイナス点を付けざるを得なかった。
ルートヴィッヒが溜息を付きながら「汚いな」と呟く。ロヴィーノが雑誌を両手で抱えながら「うるせー!」と怒鳴り返した。
「入ってくんなって言ったろ!何で入ってくんだよばかやろー!色々あって片付かなかったんだよ!」
文句を言いながらマガジンラックに雑誌を放り込む。
ルートヴィッヒはその雑な整理の仕方に再び溜息を付いた。
文句を言っても仕方がない。ルートヴィッヒが諦めたようにソファーに座る。ロヴィーノが片付けているのか散らかしているのか分からないような動きでテーブルの上を開けていた。

五分経ってロヴィーノが肩で息をつき「おう!片付いたぞ!」と声を掛けた。
戸棚に適当にしまっただけだろ、と笑いながら言うルートヴィッヒにロヴィーノが舌を出す。
「うるせー!てめーにはコレをくれてやる!」
そう言ってロヴィーノは真っ赤な飲み物をルートヴィッヒに差し出した。ブラッドオレンジのジュースをルートヴィッヒがありがたく頂く。
ルートヴィッヒがそれを飲んでいる間、ロヴィーノはキッチンに向かった。
そういえばちょうど昼食の時間だったな、とルートヴィッヒは時計を見て思い「ロヴィーノ」と背後から声を掛ける。
ロヴィーノは振り返らず「なんだよ、うるせぇな」とぶっきらぼうに返事をした。
「今日はトマトと茄子とツナのパスタだ。食えねぇとか知らねーぞ」
てきぱきと食材を切り昼食の用意をするロヴィーノにルートヴィッヒが「ああ、いや…」と口ごもる。
「そういうんじゃなくて、その…そこまで世話になるのはどうかと思って…」
昼食をご馳走になる気なんて無かったし、そこまで彼に迷惑を掛けるつもりじゃない。
ルートヴィッヒの言葉にロヴィーノが肩越しに振り返った。
「黙れよ、ジャガイモ。人が料理作ってるときジャマをするのはお前の趣味か?ああ、フェリシアーノが料理作ってたときも横から掃除してジャマしまくったらしいな。まったく、どんだけ性格悪いんだよ」
ロヴィーノの言葉にルートヴィッヒがううう、と漏らす。
はぁ、とひときわ大きな溜息を付いてロヴィーノが背を向けた。
「気にしなくていいっつーの。アホか、お前。…別に、俺が好きでやってるだけなんだから迷惑とか思うなよ」
ロヴィーノの不器用な気遣いにルートヴィッヒが思わず苦笑する。
「うん」と頷いてソファーに背中を預けた。

野菜を刻むリズミカルな音。それに耳を傾けルートヴィッヒがぼんやりと窓の外を眺める。
どこまでも続く青い空と海。そこに浮かぶ白い雲。
本当はこの景色を、大切な人と見るはずだったのに。
兄弟だから些細なことでも気になるのか?だから怒ってしまうのか?
ルートヴィッヒが思案し、首を横に振る。
違う、きっとそうじゃない。
俺はきっと兄さんに対しての気遣いを忘れてしまったんだ。

一番大切で、ずっと一緒になることを焦がれていた人。
一緒になりたくて、なりたくて、やっと一緒になって、そして思ってしまった。

――― 甘えたい、思われたい、愛して欲しい、話を聞いて

それは相手のことを考えない一方的な感情だったのではないか。
ギルベルトの言葉は、ただからかっているだけで傷つけようなんて思っていなかったはずなのに。
どうして分かってやれないんだろう、どうして自分は意固地なのだろう。
ぐるぐると自責の念ばかりが頭を巡る。
ルートヴィッヒは大きな溜息を付いた。

「――― なぁ」
ロヴィーノの声にルートヴィッヒが顔を上げる。ロヴィーノは料理の手を休めないまま続けた。
「なんかあったんだろ?腹ん中に溜め込むくらいなら吐き出しちまえよ。ほら、俺は料理してるからお前の独り言なんて聞こえないし、何言ってるかさっぱりわかんねぇから、さ。お前が思い詰めてると、その…顔がこえーんだよ」
ロヴィーノの言葉にルートヴィッヒが笑う。うん、と頷いてぽつぽつと語り出した。
「サッカーの、試合をテレビで見ていたんだ」
ロヴィーノがパスタを鍋に入れている。ルートヴィッヒは天井を仰ぎ見ながら事の顛末を続けた。
喧嘩をしてしまったこと、家を飛び出したこと、本当はそんなに怒っていないこと、そして心から謝りたいこと。
「兄貴だって悪気があったわけじゃないんだ。分かっていたはずなのに家を飛び出すなんてガキみたいなことをした。バカンスの予定、二ヶ月前から立てていたのに。…俺は兄貴を傷つけてしまった。あんなに楽しみにしていた休暇をめちゃくちゃにしてしまって、本当に申し訳ない事をしたと、そう思っているんだ」
カンッと音を立て、ロヴィーノがパスタをフライパンから皿に移す。真っ白な皿に盛られたパスタは食欲をそそった。
皿を手にロヴィーノがキッチンから出てくる。テーブルにそれを置きながら「お前らそっくりな」とぼやいた。
ルートヴィッヒが疑問符を浮かべ、ロヴィーノを見つめる。ロヴィーノが苦笑した。
「あのな、お前の兄貴なら今二階のベッドで寝てるよ」
驚いたように目を見開いてルートヴィッヒがソファーから立ち上がる。
躓きそうになりながら階段を駆け上がるルートヴィッヒの後ろ姿に、ロヴィーノが笑い声を上げた。
「左の部屋だ、ルート!さっさと起こしてこい!パスタが冷えちまうぞ!」
ふう、と溜息を付きロヴィーノが頭を掻く。
「しょーがねー…ワインでも出してやるか…」
再びキッチンに足を足を運び、ワインを手にする。
口元に笑みを浮かべロヴィーノは「これだからジャガイモ兄弟はよー…」と呟いた。

二階の客間には大口を開けて寝ているギルベルトがいた。
どうしてここにいるのかとか、どうやってきたのかとか、頭の中で疑問が巡る。
ベッドの横まで歩み寄り、ルートヴィッヒはギルベルトの顔を覗き見た。
ギルベルトがむにゃむにゃと言葉にならない寝言を呟き、ごろんと寝返りを打つ。
「うう~…ヴェスト~」
うなされているのか眉根を寄せるギルベルトの寝顔に、ルートヴィッヒは思わず苦笑した。
ベッド端に腰を下ろし、ギルベルトの肩に手を添える。
「怒ってごめん、兄さん」
ルートヴィッヒの謝罪に合わせてギルベルトの口角が上がった。
目を閉じたまま楽しそうに言う。
「さすが俺のヴェストだぜ」
驚いてルートヴィッヒがギルベルトの顔を凝視する。
ギルベルトはゆっくりと目を開くと嬉しそうな表情でルートヴィッヒを見上げた。
「俺のいるところが分かるなんてさすが俺の弟だな。待ってたぜ、ヴェスト」
瞬間、ルートヴィッヒは頬を朱く染めベッドから立ち上がった。眉を吊り上げ照れ隠しの様子で叫ぶ。
「…め、メシ!昼飯をロヴィーノが作ったって、だから…!てか、起きてたなら、言えよ!」
作品名:南へ逃避行 作家名:なおゆき