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見えない手。

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「それにしては、物騒でしたけれど。」
そう冷静に嫌味を言ってのけたのは。
「水野さんですね?サッカー部部長の。」
「どうして、」
「大地様から、お世話になっていると伺っております。練習の邪魔となり迷惑だとも存じ上げたのですが・・・」
お世話になっていると聞いてる?不破が?と、水野や他の部員は変なところに気を取られて呆けてしまった。
しかし今それより気になるのは、この不破のはとこの黒須という男の秘書だという、その物言いだ。
皆が事情をよくのみこめず小首をかしげていると、何人かの男性教師たちがその志喜屋に駆け寄ってきた。
「何なんだこんな危険なまねを!」
「ここは学校ですよ!?常識をわきまえて、」
「申し訳ございません。」
志喜屋という男はまた、早々に頭を下げた。そして一枚の名刺を差し出す。それを見た教師が、思わず目を丸くした。
「・・・黒須、財閥?」
「はい。あちらが弊社のグループ会長、黒須京介です。私はその秘書の志喜屋と申します。この度は多大なご迷惑を・・・」
「慰謝料は後、払う。悪いが貴重なはとことの時間を邪魔しないで頂けるか。」
志木屋が丁寧に謝罪を述べる前に、世界指折りの財閥、黒須グループの若き総帥である黒須京介は不躾にそう言い放った。
「い、慰謝料などとは別にっ・・・」
「公立中学ですし・・・」
「では寄付という形をとらせてもらおう。任せたぞ、志喜屋。」
「了解しました。」
すると教師達は、志喜屋ひとりに言いくるめられ始めていた。いや、そちらに完全に気を取られたと言うべきか。
「長いモンにはまかれろやなぁ。」
佐藤の皮肉が部員の意識を不破と黒須に戻す。
黒須グループ、と言われれば極々一般的な中学生でも知っている。少なくとも名前くらいは。その総帥が今目の前に立っており、桜上水中の誇る前代未聞の天才児にして問題児、そして自分達のチームの仲間である不破と、はとこだという。
つくづく、不破という人間の型破りさを実感する。
しかしそこで、はたと皆が疑問に突き当たった。
だからといって、さっきのは、何だ?





「所詮中学のサッカー部程度の運動では体も鈍るだろうと思ってな。どうだ?久々の実戦さながらは。」
「お前は俺が過去に出来ていたことが出来なくなると思うのか?」
「思わないな。俺には及ばんが。」
短くもあまりに常軌を逸している会話に、割り込んだのは風祭だった。
「そんなっ!じゃあさっきのはわざとだって言うんですかっ!!?もし間違って不破君が怪我していたらっ・・・そうだ!怪我は?不破君っ!」
「・・・問題無い。」
不破に駆け寄りながら、風祭が叫ぶ言葉は彼らしい言い分だが、それは風祭だけの気持ちではない。
「そういう問題、じゃない。」
水野が風祭の後に続く。
「・・・問題無い。」
「いくらクラッシャーつったってあんなケンカありかよ!?」
「先輩が怪我でもしたらっ・・・」
「・・・問題無いと言っている。」
一気に不破の周りに集まる部員達と、その中で歯切れ悪く心配を拒否する不破を黒須はしばらく黙って眺めていたが、黒須は意地の悪い笑みを濃くうかべて、不破もよくする仕草―――腕組みをして言い放った。
「あの程度で大地が怪我をするなど考えられんな。」
不敵なその言葉に、不破以外の目線が一斉に黒須に注がれる。
「大地は幼い頃から素人なら私の代わりとして誤魔化せる程度の教育は受けている。先程の体術もそのひとつだ。黒須グループの総帥ともなればいつ何時命を狙われても当たり前だからな。
そしてその教育を忘れるほど大地は馬鹿でも愚かでもない。と、私は考えているがな、大地?」
黒須は不破に問いを投げかけているわけではない。
ただ、表情も変えられず黙って俯く不破を眺めて、黒須はまた微笑った。
そして、不破の周りから注がれる嫌悪の視線を心地よく思う。
「いうたらアレか。不破はアンタのモンとでも言いはるっちゅうわけやんな。」
ただひとり、その嫌悪を言葉にした佐藤は、その金髪をなびかせて、黒須に負けない笑みを作る。
「否定はしないな。大地が、という部分に、大地の人格も人生も将来も含まれるわけだが?」
「そりゃあかん。オレらはあんさんは知らんが不破が居らんと困るさかいにな。」
そう言い返すと、佐藤はがしりと不破の肩を無理矢理組んだ。
「佐藤ッ!?」
突然のことに驚く不破を置き去りにして、佐藤は黒須を強く見据える。
「取り返せるモンなら取ってみいや?」





佐藤と黒須がお互い微笑んだところで、志喜屋が黒須に声をかけた。
「京介様。そろそろお時間です。」
「そうか。」
短く黒須は了解すると、あっさりと踵を返し、車に歩を向けた。
「では、またな。大地。」
「・・・ああ。」
別れの言葉も、まるで兄弟のように過ごし、育てられたもの同士とは思えないほど短かった。





「信っじらんない!」
今度は大人しく走り去る高級車を見送って、不破が中心にいるという珍しい格好のサッカー部の集団の後ろから、甲高い声が鳴り響いた。
「小島さん!」
それはサッカー部マネージャー兼女子部部長の小島由紀だった。ジャージ姿に、大量のドリンクを抱えている。
「なんなのよアレ!」
「見てたのかよ?」
「水野に避難させられたのよ!」
彼女自身も、何か言ってやらないと気がすまない、という風だった。
だが、ひとつ小さくため息をついて、不破にドリンクを1本差し出す。
「みんな冷たい水分補給したら、練習再開するわよ!」
そう明るく言い放った。





「・・・また、心にもない事をおっしゃって。」
車のハンドルを握りながら、志喜屋は助手席の黒須に呆れたように言った。
いつ命を狙われてもおかしくない黒須グループの会長ともあれば―――本来は後部座席の運転席後ろに座るのがベストなのだが、志喜屋が運転するときに限り、黒須は助手席を選ぶ。
「事実だろう?・・・事実だった。」
黒須は腕を組み、足を組み、遠くを眺める。昔を思い出すように。
「しかしあまり笑わんのは変らんな。」
「・・・それは環境のせいではありません。あなたと大地様は本当に、似ていらっしゃるからですよ。」
志喜屋はくすりとそうこぼした。
「・・・そうだな。一族の中でも遠縁であるはずなのに、大地は私と似てしまった。だから・・・」
幼い頃の不破大地を、黒須財閥と言う組織は放っておかなかった。
「ですが、大地様を解放したのは京介様ですよ。お忘れになったはずがないでしょう?総帥になり、周囲の反対を押し切り黒須の家の中で育てられていた大地様を普通中学に入学させたこと。」
志喜屋はまた優しい笑みのままで、車のハンドルをきる。
「・・・直人と会ったからな。」
「そうですね。」
小林直人。それは黒須京介がひとりの人間として誰よりも大切にしている友人の名前。
「私に友人が出来たのだから、大地にも友人が出来ねばならない。そう思ったが・・・。」
お膳立てなど、してやれないことは直人から身をもって教わった。
しかし自ら求めたわけでも考えたわけでもないのだろう。
自分のはとこは自分よりも数倍不器用であることを黒須は解っている。
作品名:見えない手。 作家名:ワタヌキ