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タナトスあるいはヒュプノス

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「じゃあ少し待っててちょうだい」
リザはエドワードを立たせると、
「いい加減、その手を離してさしあげて下さい。大佐!」と、ビシリと言った。
その声は春風とブリザード程に温度差があった。
そう言われてロイは、初めて己がエドワードの手首を捕まえたままでいた事に気づく。
「ああ、すまない。つい・・・」
ロイは慌てて手を離したが、力を抜いた途端に機械鎧の継ぎ目がギッギィガチャンと音がしたところをみると、相当の力で握り締めていたらしい。生身の左手なら指の跡に内出血を起こしていたやも知れない。
右手で良かったとホッと心の中で息を吐いたロイだった。



 リザが執務室を出ていくと、残された二人の間を気まずい空気が漂う。
沈黙に耐え切れなくなったのは、やはり年若い方だった。
「しゃーねぇからリザさんの顔をたててここに居るかぁ」と、独りごちるとソファーにどかっと腰を下ろす。
覗く横顔に、少しだけ尖らせた唇が見えることから、まだちょっとむくれている様子だ。

「急に引っ張ったのは謝る。しかし、君も悪いのだぞ」

ロイはゆっくりと椅子から立ち上がると、応接用のテーブルを挟んでエドワードの前の一人掛けのソファーに腰を下ろし、彼の瞳をじっと見つめた。
その咎めるような黒い瞳を、ハニーゴールドという稀有な瞳が見返す。

「俺の?どこがだよ!」
「口が酸っぱくなる程に言っているではないか。定期連絡を入れろと。君が前回ここに来たのは?連絡の形をとったのはいつだったかね?」
「うぅ・・・えぇ〜〜〜っと、・・・・・・1か月位前?」
にひゃっと笑って小首を傾げながら、疑問系で答えを出すエドに、ロイの片眉がぴくりと上がる。

可愛いっ!
ハッキリ言って、その動作と表情は可愛い。

だが・・・

「そうだ。この約一月に亘って、君は連絡を入れていない」
「そ・・・それはそうだけど・・・。俺の居場所なんて、あんた、知ってんだろ?」
「それは君が関係したトラブルの報告が挙がってくるからであって、君からの報告ではない。違うかね?」
「居場所さえわかりゃ、それ以上に何を知りたいってんだよ」
「報告はあくまでもトラブルの内容であって、君の無事を知らせるものではない。これでも私は君の後見人だ。身の安全を守る為には、君の行く先を知っておかなければ、手の打ち様がない。せめて移動する時に行き先位、連絡を入れたまえよ」
「自分の身くらい自分で守る!俺はそんなに弱っちぃつもりはねぇ。あんたに終始守ってもらわなきゃ何も出来ない程、餓鬼じゃねぇんだ!!」
「鋼のっ!」

「ええ。そうね」
ロイの幾分感情的になった声を遮って、柔らかな声が割り込む。
エドとロイ、二人の視線が声のした方へ向けられた。
そこには紅茶とコーヒーのカップにドーナツの皿が乗ったトレイを持ったリザの姿があった。
リザはゆっくりとテーブルの上にカップと皿を置くと、エドワードに視線を向けた。

「エドワード君が誰よりも強い事を、私達は十分知っているつもりよ。でもね、大人は子供の身を心配するものなの」
「おっ俺は子供じゃ・・・」
「子供よ。私達の目から見れば充分にね。知識も行動も大人顔負けだけど、年齢はまだ大人に頼っていても
不思議じゃないはずよ?違う?」
「そっ・・・・・そりゃそうだけど・・・」
「エドワード君が人に寄り掛からず独りで立って居ようとする矜持は称賛に値するものだけど、私達の心配する権利まで取り上げないでちょうだい」
「権利?」
「そうよ。私達大人は、年齢が下の者を守り、労わる義務と権利があるの。私や大佐がエドワード君を心配するのは義務じゃなく権利ですけどね。尤も、そんなものが無くても、私はエドワード君とアルフォンス君が弟みたいに可愛くてしょうがないから気になってるのだけど、それすらも嫌かしら?」
にっこりと笑われて、エドワードが返事に窮する。

中尉の満面の笑顔など、真夏の雪と同じ位に見る機会など無いロイが驚愕に固まっている間に、エドワードがゆっくりと首を横に振った。
「やじゃ・・・ない」
小さく呟くような声が漏れる。
「そう?」
「う・・・ん。うん!嬉しいよ。アルの事まで考えてくれてて・・・・。本当、ありがとな」
エドワードが、少しだけ泣きそうにしながら笑い顔を見せる。
その顔が嬉しい反面、痛々しく感じられるロイとリザだった。


 エドワードの気持ちが落ち着いたのを見てリザが退出すると、ロイは気になっていた事を口にした。

「どうやら今度も空振りだった様だな。それで不機嫌度合いが常にも増して高いのだろう?」
「報告書見りゃわかんだろ」
「見なくても判るよ。君を見ればね」
「なっ?!」
「2年も顔を見ていれば、君の心境くらい判らないでどうする。何度も言うが、私は君達の後見人なんだ。中尉の言葉ではないが、見守っているつもりなのだよ。君にとっては鬱陶しいかもしれないが・・・」
「そんな事!・・・ねぇよ。気にしてもらえるのは・・・・・・嬉しいから・・・さ。ただ・・・俺・・・素直じゃねぇから」
「知っている」
「ぐっ・・・」
「それでも偶には素直に頼ってもらいたいと思うものなのだよ」
ロイの言葉に、強い光を放つ瞳が戸惑うように揺れた。

「無理強いする気は無い。だが、君が疲れたり辛い時は、私に頼っても構わないのだと言う事を、心の片隅にでも留めて置いてくれ」
「解った。偶には甘えるよ。それで良いだろ?」
「ああ」
今のうちは、と言う言葉を、ロイは飲み込んだ。
何故か、彼の全てを何時でも自分には見せていて欲しいという欲求が湧いてきている。

“この感情はなんなのだ”

今まで一度たりともこんな思いを他者に抱いた事は無い。
自分のエドワードに対する気持ちが、自分で理解出来なくなりつつあるロイだった。

「で?どんな具合に問題解決の糸口となりそうな情報というか理論を導き出しているのかね」
ロイはモヤモヤしている気持ちを一先ず胸の奥に押し込め、エドが気分転換出来るように話の矛先を変えてみた。
や、それがさぁ・・・と、その後二人は賢者の石と人体練成について己の知りうる限りの知識と情報を交換し始め、夢中になるあまり中尉に銃を抜いて脅されるまで、書類作業を棚上げにして話し込んでしまった。

 「鋼の。まだ話したいから私の自宅で待っていてくれないか。蔵書も好きなだけ読んで、時間をつぶしてくれたまえ。鍵はこれだ。なるべく早く帰宅するつもりではいるが、眠くなったら待たずに先に休んでくれて構わないよ」
ロイは書類に視線を落としたまま、引き出しから出した金色の鍵をエドへ向けて無造作に放り投げた。
「あわわっ」
エドが慌てて鍵を落とさないようにキャッチする。
手の中に収まった鍵は冷たさを感じさせるが、心には暖かさを運んできた。
「え?いいのかよ。蔵書、勝手に読んで・・・」
「ああ、君になら構わんよ。もっとも、君以外には蔵書の在り処が判ろうはずもないし、判った処で読んでも理解出来んだろうがね」
返事しながらも視線は書類の文字を追い、手はサインを入れている。
これ以上問答していても意味は無いと判断し、エドは
「んじゃ」と、執務室を後にロイの自宅へと足を向けた。