発散スケイプゴート
確かに、何度も戦った事のあるアルケノダイオス相手に三人の連携やら役割分担やらを事細かに決める必要性は低い。
だがしかし。
「キミたち、もしかしなくても自由に暴れたいだけなんでしょ」
こっっくり。
「……相当鬱憤溜まってた?」
こっっっっくり。
ああ、こんな時だけ仲良く揃った動作で頷かないで欲しい。
いつもの険悪さはどこにいったの、と森の緑で眼を潤わせるアーヴァインだった。
バキバキバキ…。
枝とか幹とかが盛大に折れる音。
「ま、そういう訳だ」
「臨機応変にやってくれ」
ガーデンが誇るツートップがいたって軽く呟いた途端、アルケノダイオスご登場。
親切にもわざわざ二頭現れた。
打ち出された弾丸のごとくスコールとサイファーがそれぞれに飛びかかる。
臨機応変、つまりは適当。
あの二人に支援なんて要らない。
しかしながら任務で来てしまった以上は見物という訳にもいかずに、とりあえずアーヴァインはやる気無くブラインを唱え始めた。
極太の尻尾を飛び越えて避け、鋭い爪の生えた腕を一刀両断するサイファー。
「しかし何で指揮官サマがこんな任務に出てきてんだ? 二人でやるような任務か?」
ナチュラルにアーヴァインをノーカウント。
ブラインを喰らってあらぬ方向に爪を振り回すアルケノダイオスに、スコールが隙のない身のこなしで近付いて足の腱を断ち切る。
「別に俺一人でも良かったんだがな」
「ああ。お前、三週間連続実働時間12時間オーバーのデスクワーク地獄にとうとうキレたんだろ」
「…………無休でそれだけ机に囓り付けば、いくら俺でもストレスが溜まるんだ」
「溜まらなかったら人間じゃねぇな」
「どこぞの借金王のせいで書類の決済ばかりが回ってくる」
「だーれが借金王だ、コラ。お前だって借金持ちだろが」
「桁が違うだろう」
サイファーは戦犯として諸国に膨大な、それこそ返しきれない程の負債がある。
スコールはというと、こちらはF.H.半壊のツケだ。
あの説得喧嘩では死者こそ出なかったとはいえ、彼らが半壊させたF.H.は地味にエスタの科学技術を多用している。
そんな街の修理費用(しかも半壊)がお安く済むはずもなく。
桁は文字通り違うものの、スコールとて一般人なら一生かかっても返しきれない借金を背負っていた。
「だいたい何で俺がF.H.の修理費用を全額負担しなきゃならないんだ。半分はサイファーが壊したのに」
「ンなこた狸オヤジに言え」
アーヴァインはその時ガルバディア・ガーデン出張で不在だったので、後から聞いた。
仲間はみんな知っている。
『はっはっは、仕方ないですね。サイファー君はただでさえ負債が多いのですから、F.H.への補償は全額スコール君にお願いしましょう。何、大丈夫ですよ。指揮官は高級取りですしスコール君は最高ランクのSeeDですから、そのうち返却出来ますよ』
などと抜かしくさったのはF.H.半壊事件直後の狸オヤジことシド学園長。
彼の額に青筋が浮かんでいて眼が笑っていなくて頬が引きつっていたとはゼルの証言だ。
おかげさまで半強制的にスコールの指揮官業は続いている。
おそらく、それも学園長の策略だったのだろうとはキスティスの言。
と、アーヴァインが回想に浸っている間に二頭のアルケノダイオスが絶命し、二人が森の奥へと走り出す。
はっと気付いて追い掛けると、またまたご丁寧にも二頭のアルケノダイオスが現れた。
「トロトロしてっと流れ弾に当たっちまうぜぇ? ……ブリザガ!!」
待てオイ。
アーヴァインの心の声も虚しく、サイファーの放った冷気魔法がスコールに向かって直進した。
直撃コースじゃないかと青ざめた瞬間、アルケノダイオスの爪を弾き飛ばしたスコールの詠唱が淀みなく流れる。
「……リフレク」
「いっ?!」
攻撃的な防御魔法によって全反射された冷気の塊が、今度はサイファーに向かって突き進んだ。
それを上空高く跳躍してかわしたサイファーの代わりに、彼の背後に迫っていたアルケノダイオスが冷気魔法の直撃を受けてその首もとを凍り付かせる。
「テメェ、危ねぇだろうがッ」
高さによる位置エネルギーを発揮するべく、サイファーはアルケノダイオスの凍った頸部にハイペリオンを向けた。
落ちるに任せて叩き付けながらトリガーを引く。
結果、アルケノダイオスは凍り付いた首を衝撃で破砕されて絶命。
全身のバネを活かして着地したサイファーがなおも叫ぶ。
「お前が避けりゃそっちのアルケノダイオスに当たっただろ! よりによって跳ね返してんじゃねぇ!!」
「支援のつもりだったのか? それは悪かったな。今度は外さないから安心しろ」
どこに安心要素があるのか答えられるもんなら答えてみやがれ的な台詞を吐くスコール。
言い争う間にも彼の持ち味たるスピードと正確な剣筋がアルケノダイオスを追い詰めていく。
あっという間に懐に入ったスコールが心臓目掛けてライオンハートを突き刺し、同時にトリガーを引いた。
苦痛の咆吼を放つ事すら出来ずに痙攣したアルケノダイオスが地に倒れ伏す。
見事な手並みでそれぞれ一頭ずつを始末した二人は、同時にガンブレードを払って血糊を飛ばした。
いや、あのね?
キミたち喧嘩と連携をまとめてやらないでくれる?
器用なのか何なのか。
口に出したら新たに現れたアルケノダイオスごと始末されかねない言葉を、懸命に飲み込むアーヴァイン。
いつぞや愛しのセフィに「アーヴィンって不幸体質だよね~」と言われた事を涙ながらに思い出した。
口は災いの元、沈黙は金、触らぬ神に祟りなし。
いっその事、自分にサイレスをかけたくなる一幕であった。
彼らの戦いぶりに関しては何も言う事はない。
ビデオ撮影してガーデンの授業で使ったら? と思わずにはいられないぐらいに手際の良さが際立つ。
サイファーのパワーと、スコールのスピード。
どこまでも対称的でありながら、彼らの技の正確さはぴたりと拮抗している。
魔力の高さや魔法技術においてもそれは同一であり、さらに言うなればGFとの相性すらも並び立つ。
『ガーデンが世界に誇るツートップ』とは比喩でも何でもなく、事実だった。
サイファーに対抗出来るのはスコールのみで、逆もまた然り。
背中合わせに戦う彼らに援護など必要ない。
けれど、『仲間』は必要だろう?
タン!タン!タン!タン!と軽快に銃を閃かせてアーヴァインは二人に笑いかけた。
「仲が良いのは結構だけどさ~。僕の存在忘れてまで口喧嘩に集中しないでよね~」
「眼ェ腐ってんのかテメェ」
「どこを見たら仲が良いなんて言葉が出てくるんだ」
綺麗に合わせて返ってきた憎まれ口、両目を撃ち抜かれたアルケノダイオスが二頭。
「ほらほら、喋ってる暇があったら手を動かして。暴れるのはいいけど今日中に終わらなかったらキスティスのメーザーアイ喰らうのはキミたちだよ~?」
下手したら臭い息かもね、と言った途端、二人が同時にくるりと敵に向き直る。
それがあまりにも息の揃った動作で、思わず吹き出してしまったアーヴァインに……二箇所から睨みとサンダガが飛んできた。
シェルをかけてなかったら確実に危なかったなと、痺れながら思う薄幸のアーヴァインである。