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遠く轟く雷鳴のように~この翼、もがれども~

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瞑想室に入ってしまえば、誰の邪魔も入らなかった。サガはただひたすら精神を研ぎ澄まし、望む場所へと意識を集中させた。深々と降り積もるばかりの澱を払うためには原因となっている者に潔く対峙するしかないと腹を決めたのだ。
サガはぐっと全身に鈍い衝撃のような圧力を受け、耐えた。次に訪れたのはゾクリとするような浮遊感。油断すれば魂が身体から抜けてしまいそうなほどの危うい感覚を感じたのち、記憶に覚えのある花の香りに満たされた場所へとサガは降り立った。
一瞬、間違った場所へと移動してしまったのだろうかとサガは目を細めながら辺りを窺ったが、聖域でもっとも華やかな黄金色の花が咲いている場所ではなかった。

「気のせい……か」

月光が静かに降り注ぎ、周囲はノイズさえ遮断されたかのような静寂に満たされていた。不慣れな場所を用心深く見回す。闇夜を照らす松明の灯りを頼りにサガは小さな楼閣のような建物を目指した。
望む者はそこに在るのだと胸が僅かに高鳴っていた。うまく渡り合う自信もないままに未知なる賭けに挑もうとしている。それは愚行であるとわかってはいたが、策を練って相対しても、恐らくその企みは彼の前で木っ端微塵に砕け散るだけなのだろうとわかっていた。凛と張りつめた清浄なる空気がより濃くなるのを感じながら歩みを進めると、不意に声が降ってきた。

「――これより先は我が聖域。闇夜の侵入者として許すは月光と風のみ。その上で試みるつもりならば、それ相応の報いを受けることになるが?」

涼やかな声が風に乗って届く。それと同時に一瞬にして張り巡らされた、目に見えぬ包囲陣がサガを囲んだ。あっという間にサガは身動きを取れなくしていた。圧倒的な力を前に緊張し、全身は総毛立った。

「ここに訪れるのは恐らくもう一人の君だと思っていたが……なぜ?」

サガ、君なのか――シャカは問うた。けれども答えを持ち合わせていないサガはただ渇ききった喉を引き攣らせ、立ち尽くすばかりだった。
幾重にも高い天井から吊り下げられた薄い布のカーテン。その奥で映し出された影が徐々にはっきりとした細身を描き出し、ようやく輪郭を捉えた。だが、その影はあと数枚のところで立ち止まる。
風で揺れるたびに隙間からは白い肌が見える。雲の切れ間から覗く月光のようにさえ見えた。