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かなや@金谷
かなや@金谷
novelistID. 2154
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社長の異常な愛情

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 受話器を置くと社長は、一つ溜息をついた。一ヶ月に一度の楽しみのうちの一つが終わってしまったのだ。また、来月まで無いのかと思うと溜息しかでない。今、終えたばかりだというのに、既に気持ちは来月へと馳せている。
 それにしても、今月は色々あった。それを思い返すと、電話中押し殺していた興奮が蘇る。
 子供の頃、玩具や雑誌に着いてきた電話番号に夢中だったことがある。まだ、一人では電話を掛けられなかった頃、母親に頼み込んでそこに電話をして貰った。今思えば、それは決まったテープを延々繰り替えすだけのモノだったが、自分の耳元で聞こえるヒーローの声に胸を弾ませていた。
 平和島静雄との会話はそれを鮮明に蘇らせ、長らく忘れていた感情を思い出させるのだ。あの頃、沢山集めていたグッズは、成長するにつれて無くなってしまった。今はそれが口惜しいと思う。
 失ったコレクションはもう元には戻らず、大量消費されていく新たなヒーロー達は、もはや初老の心には響かない。ただ、平和島静雄唯一人だけが、等身大のヒーローとして男の胸中になった。
 幼い頃憧れていたヒーローの世界に今自分は属している。彼の表の仕事と言うべき会社の社長なのだ。ヒーローを見守るという、子供心に憧れていた大人の男のポジションだ。
 今、あの憧れの世界の登場人物の一人となったのだ。高まる興奮が心臓を高鳴らせ、動悸と息切れが止まらなくなってくる。
「社長……」
 美しくも険しい声が男を気遣う。
「あまり興奮なさると、お体に……」
「ああ、すまない」
 深呼吸で息を整えながら、興奮を抑えようと試みる。持病のせいか激しく興奮すると身体に響くのだ。そのせいで、直接平和島静雄の活躍を見に行くことは出来ない。そんな僥倖にあえば心臓発作でも起こしそうだ。
 初めはそれ程でもなかったが、彼への思慕が募るほど興奮が抑えきれなくなり、今では直接会うことも憚れる程になってしまった。
 会って直接話したいのだが、この身体が持つとは思えず。今は電話だが楽しみだ。それでも、この有様だから、いつそれも奪われるか解らない。
 そのうち、所長は被害報告書だと言っているが、男にとっては英雄叙事詩のような報告書を時間を掛けて読むだけになってしまいそうだ。
 今月は色々と事件があったせいか、被害総額が膨れあがったが、それもこれも『切り裂き魔を倒す』ということで帳消しになっている。いや、おつりが出るくらいだ。
 男の趣味を除外しても、自社から英雄が出ることは喜ばしいことだ。あまり社会的には好ましくない職業であるから、世間的な目の為にもありがたいことだ。イメージアップになっていると社長は思っている。
 そして平和島静雄の存在が、取り立て率を上げているのだ。だいたい、取り立て屋が出向く相手は一筋縄でもいかない連中ばかりだ。それが静雄が入社してからというモノ回収率が鰻登りだ。嬉しい数字だ。今では、多くの依頼が寄せられている。
 大変嬉しいことだが、自分だけの英雄である平和島静雄が多くに知られていくのは、誇らしいのと同時に寂しさもあるのだ。
 色々と社内からも不満の声は上がっていたが、最近の活躍でそれも減ることだろう。
 彼は決して暴れたくて暴れているわけではない、暴れざるを得ないから暴れているのだ。その相手もどれも同情に値しない相手ばかりなのだから、街の中を掃除していると思えばいいのだ。
 あまりクリーンではない企業が、社会的に奉仕活動をするのは珍しいことではない。謂わばこれはボランティア活動だ。ということを、社員には説明している。
 今回の切り裂き魔退治の話は社会的貢献として認められているようだ。
「社長、お車の準備が…………」
「ああ、わかった。今行く……」
 多忙な社長のスケジュールを管理しているのは、この美人秘書の役目だ。その涼やかな声に促され社長室を後にした。


作品名:社長の異常な愛情 作家名:かなや@金谷